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忘れじの戦花  作者: なよ竹
第6章 少年と千年鏡面世界 〜ヘイゼルの戦花〜
132/141

第132話 始祖と悪魔 1

 鏡面世界。この世界において最大の障害になるであろう男が地面に伏していた。


 あまりにも簡単に、最大の障害を退けることができた。それはおかしな話だろう。何しろ都合が良すぎる。


 "教皇"レフティス・ミロワールを見下ろしながら、グラジオラスはこれからの事に思いを張り巡らせる。


 "教皇"、"六花の子ら"、他の六国の強者たち。警戒するに値する存在は一通り把握していた。


「......いや、まだいるな」


 アイツは一体どの国に所属していた? 何処に潜んでいた? グラジオラスは肝心な存在を見落としていたことに気付く。


 男だ。6年前、レティシアの母を殺し、前回のパレードの際にはレティシアや自分たちと接触を計ってきた男。


 吐き気を催すほど邪悪な魔力を秘めた男は、何者なのか?


 魔法を使っている以上、バケモノではなく人間だ。少なくともキングプロテアやルピナス、千日紅の人間ではない。


 そして鏡面世界を探るに探った今、露骨に残りの三国に与していた形跡も無いことがわかった。


 何処かで関与してくるはずだと、ずっと身構えていてたが、ここに来るまで、終ぞ姿を見せることはなかった。


 彼の狙いは何だった?



『......俺と手を組まないか?』


『強大な力が手に入り、死んだ想い人が蘇り、六国の頂点に立てて、聖地に行けるよ』


『他国の候補者とも、コンタクトを取った。今日を皮切りに、六国の戦争は本格的なものとなる。俺の手を取らなかったこと、絶対に後悔するよ』


 過去に聞いた発言が順に蘇る。鏡面世界の六国を巻き込んだ一大事なのだから、今回は絶対に関与しているに違いない。


「中途半端に強く、頭良いってのは困りもんだねぇ〜」

「......!」


 いつの間にか背後に男が立っていた。ヘイゼルの風土にあった、聖騎士の男。だが、邪悪な魔力が隠し切れていない。


「俺のシナリオじゃあ、ここで斃れてんのがアンタ。で、疲弊してんのが"教皇"様のつもりだったんだが......身体が持たなくなっちまったんだから仕方ない」

「俺のシナリオ、だと?」

「んはっ、そうさ! 俺のシナリオ! でも王族様よぉ、ちょっとばかし真実に近付き過ぎたんじゃねぇのかぁ?」


 聖騎士に似合わぬ歪んだ表情を見せながら、指を鳴らした。


「ここで退場して、糧になってもらう」


 走る雷撃。直後、グラジオラスの視界がガクッと下がった。膝を突いている。胸に痛みを感じる。


 一瞬の出来事だった。キングプロテア王国"七栄道"の一角であるグラジオラス・ウィンドベルでさえ、反応できなかった。


「かっ......」

「この身体くらいになりゃ、漸く魔法も追い付いてくるってもんよ。子供と大人じゃあ出力が違う」


 "教皇"の方へと歩き出す聖騎士。油断か、慢心か、こちらを見向きもしない男目掛けて、グラジオラスは力を振り絞り、何とか毒を含んだ水流を飛ばす。


「おせぇし、あめぇあめぇ」


 ドス黒い炎が紫水流を蒸発させる。しかし、それは囮りだ。聖騎士の背後から、盤外からの一手、"王花の剣"が迫る。


「んおっ」


 聖騎士が間抜けな声を上げながら、目を見開く。気付けど、体勢からして、明らかに回避不可の一撃だった。


「"雷光瞬足(ライトワープ)"」


 だが、やや慌て気味に空間魔法を駆使し、数歩隣の位置に瞬間移動する。


 同時にグラジオラスの腹を氷結晶で形成された槍が貫通した。


「"氷天の刺又(そらのはしら)"」


 苦悶の声と共に蹲るグラジオラスを見て、聖騎士はケラケラと笑う。


「格が違うんだよ。お前とも、"教皇"とも、どの魔法使いとも!」


 圧倒的に。彼の言う通り、格が段違いだった。実力だけを取れば、この世界に蔓延るバケモノの首魁にも通ずるものがあるのだ。


 今の世、これだけの実力者は珍しい。彼は一体......


「......貴様、何者だ?」

「答えたところで理解して貰えるか? 信じて貰えるか? 無駄なやり取りさ」


 男は怒りを沸沸とさせながらグラジオラスの方に歩み寄る。


「今となっては俺の真実を知る者は少ない。いや、殆どいないって言ったほうが正しい」


 容赦なく胸の傷口を思いっきり踏み込む。グラジオラスが呻き声を上げた。それでも男は満足しない。


「"魔法使いの始祖"、か。そりゃ、お前らゴミどもの為に、あそこまで身を張れば崇高されるもんだ。だが、そんなゴミどもの為に、アイツや俺が犠牲になるのはもう耐えられねぇ」

「......何だと?」

「知らないだろ?......」


 男はグラジオラスを見つめる。されどその瞳の奥底はもっと別の場所を見つめているようだった。




「......"魔法使い"の"始祖"は2人いるんだよ」




 踏み込んだ脚に業火が宿り、グラジオラスの胸を貫いた。彼は実感する。やがて訪れる死を。それが間近にあることを。


「お前らが使ってるその魔法(ちから)は、所詮アイツの残りカスみたいなもんなんだよ。そんなことも知らず、俺が強いだの王だのイキリ散らかしやがって」


 男は倒れ伏す"教皇"へと目を向けた。そして未だ彼の中に残っている魔法を引き摺り出す。


「文字通り、身に余る力だったな。使いこなすことは愚か、生きのびるだけで精一杯だったろ」


 1人の人間から、おびただしい量の魔法が湧き出てきた。それを確認して、男は漸く笑みを取り戻す。


「お前ら如きが抱えて良い代物じゃないんだよ。返して貰うぞ、アイツの力!」


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