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忘れじの戦花  作者: なよ竹
第6章 少年と千年鏡面世界 〜ヘイゼルの戦花〜
131/141

第131話 少年と六花 3

「なぁ、アンタ。この声が聞こえるか? ......()()()()()()()()()?」


 空間を強引に引き裂き、鏡面世界へと姿を現した男を出迎えたのは、1人の少年だった。


 話しかけられた男、ペルセラル・ストレングスは答えを示すべく、少年の方へと向き直る。


「相変わらず物怖じしない自信に満ちた顔だな、もう一度アンタの顔を見れるとは思わなかったよ」

「......そうか。俺は果てたか。だが驚くことではない。所詮、こちらの世界の俺は――」


 目の前で腰掛ける少年は、ただ気まずそうに笑みを浮かべる。


「それだけの存在だった、だろ? 残念なことに、俺も困難に打ち克つだけの存在にはなれなかった」

「......こちらの俺は何を成した?」

「劣勢になった人々の退避する時間を稼ぐべく、バケモノの軍勢相手に1人で三日三晩戦い続け、殿をつとめた。他の誰にも出来ないマネだ」

「......フン」


 ペルセラルは鼻で笑い、一蹴した。


「で、アンタはこの世界に何しに来たんだ?」

「行く末を見届けに。生憎、加勢をする気は毛頭ない。鏡面世界の問題は、鏡面世界の俺が解決すべき問題よ」

「......やっぱり、アンタらしいな」


 少年はそんなことを言う。やはり、こちらの世界でも同じような関係だったのだろうか? もしそうだとしたら、鏡面世界の自分はとことん道半ばで斃れたらしい。どこか他人事めいた思考がペルセラルの頭を過ぎる。


「1つ、頼みがある」

「断る」

「加勢しろとは言わない。あそこに連れて行って欲しいんだ。もう一度こんな身体になった俺に、戦う機会をくれ」

「......」

「アンタにしか頼めないんだよ......()()




 ◆


 黒ずんだ結界が動き出す。あの時と全く同じだった。自分だけは逃すまいと生涯を捧げるのみにとどまらず、死後も魔法になってまで永世疎外してきた男が仕掛けた結界。


 "魔法使いの始祖"が遺した呪いにも似た物。あの結界だけは苦手だった。聖地同様、自らの排斥に注力された代物は、どうしても破ることができなかった。


 それは力を付けた今も同じ。バケモノは......神にクロッカスと名付けられた花は、生と目的の成就を勝ち取る為に蠢きだす。


 子だけでは間に合わない。この世界で唯一用意された出口へ向かわなねば。


 彼を以ってしても、結界を破ることは不可能だった。仮に破ることができたとしても、その外にある光景は、大陸でもなく海でもなく、始祖が仕組んだ虚無の空間だけ。


 そう。この世界が結界に囲まれた時、既に外界と切り離されていたのだ。手に負えなくなった以上、己を慕った民たちを犠牲にしてまで、滅そうとしてくる。


 それだけは許せない。何の為に生まれ、何の為に人を喰らい、何の為に此処まで死線を潜り抜けたかわからなくなる。



 クロッカスが主城へと向かうべく巨体を起こした時――


 火炎が道を塞ぐ。バケモノの巨体を防ぐ程の爆炎。


「......馬鹿な。魔法如きが単独でここまで来るなど――」

「これ以上、外の奴らの世話になるわけには行かない。今となっては殺すことも封じることも叶わないが......たかが数時間、この場に止めることくらいできる」


 抹消した筈の少年が、宿主を失い惑う魔法が、聖地から離れた場所に単独で現れている。


「死して尚、我が道を阻むというのかッ! 怨念風情がッ!」


 炎の波に漂う少年(まほう)は――ゼデク・スタフォードは刀を抜いた。

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