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忘れじの戦花  作者: なよ竹
第6章 少年と千年鏡面世界 〜ヘイゼルの戦花〜
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第128話 教皇と紫水 3

 視界が揺らぐ。思考が鈍る。そんな状況でも彼は原因と打開策を僅かな時間で導き出した。


 “教皇”の号を冠するには、魔法の素質のみでは許されない。膨大な知識、圧倒的な場数の踏破、ありとあらゆる面で“最上級”を要求される。


 なぜ自身が危機に瀕しているのか? それは簡単。グラジオラス・ウィンドベルの魔法によるものだ。彼は水と毒の混合魔法を使える。であれば、当然毒魔法単体でも様々な応用法があるということ。


「......あの僅かな手合いの中、毒を撒いたな」


 視界に映らない毒ガス。魔法を反射する為に鏡で密封された空間。どの段階でその考えに至ったのか、彼はひたすら攻撃に耐えながらも、空間が毒に満ちるまで時間を稼いでいた。絶望的な状況を覆す、諸刃の剣......と、考えるのが妥当だろう。


 何せ、先程グラジオラスは自身に跳ね返った毒水を避けていた。そして今、彼は口元に手を当て空気を吸わないようにしている。彼自身にも余裕がないことは確か。


 しかし、レフティスがこの地獄から逃れる術は1つだけ。


「やむを得ない」


 レフティスは鏡の間を解いた。即ちそれは、無敵に思われた彼の魔法が破れたことを意味する。


 グラジオラスに勝機が生まれた。だが、すぐに追い打ちをかけようにも、足が縺れる。それ程までに彼の魔法群には堪えるものがあった。


 そしてその攻撃は止まない。あくまで全方位反射という要素が消えただけで、疲弊したグラジオラスを仕留めんと言わんばかりに襲いかかる。


 グラジオラスは腰にかけていた剣を抜いた。そこに、有りっ丈の強化魔法を上乗せする。


「......この程度で死んでいては、馬鹿共に笑われる」


 そう大胆不敵に笑うと駆け出した。


 もし、ここに万人の観客がいれば一人残らず魅入る光景が広がっていたことだろう。


 降り注ぐ死の雨。1つでも命中すれば死を免れない雨の中、彼は突き進む。時に躱し、時に撃ち落とす。


 あぁ、確かに“教皇”は強大な存在だろう。六国の中でも随一の大国であるヘイゼルの頂点に立つ男なれば、その実力は容易に語れない。


 しかし、いや、同じ六国の王族なればこそ。キングプロテア王国の王族が引けを取るわけにはいかないのだ。国民にとって絶対的な存在である王族。羨望、尊敬、彼らのあらゆる希望を背負う義務がウィンドベル家にはある。共に肩を並べた“七栄道”の威厳を護る戦いでもある。


 目の前にレフティスが現れる。彼は死の雨を踏破したのだ。


「ここまで超えるか! グラジオラス!」


 彼らの間に鏡の壁が立ちそびえる。グラジオラスは限界まで強度を上げた剣で叩き割った。レフティスまであと少し。このまま進めば、彼に猶予を与えてしまう。


 そう判断した彼は、紫水流で生成された槍を繰り出した。鏡の防御壁を失ったレフティスに防ぐ術は無い。



 だが――



 彼の魔法は反転し、自身へと降り注いだ。毒の波がグラジオラスを飲み込む。


「予想以上の実力だ、グラジオラス・ウィンドベル! この防御壁を使うことになるとは思わなかった。この体表に張り巡らされた鏡の防御壁をなッ!」


 冷静に考えれば、気付けたかもしれない。彼自身の表面に鏡の防御壁があると。


 レフティスは敢えて別に鏡の防御壁を張ることで、それが彼を護る最後の砦として見せていた。加えて少ない勝機。グラジオラスの判断を狂わせるには十分な材料だ。


「焦りに足を取られ、己の魔法に呑まれたか。最後は何とも呆気のないものだったな」

「......あぁ、己の魔法で死ぬ程、愚かな末路はそう見つからない」

「......!」


 毒の海から五体満足のグラジオラスが飛び出す。完全な予想外の展開だった。


 予想外――


 その言葉で気付く。反射された溶解液を露骨に避けていたことも、毒ガスが諸刃の剣であったことも、全て早計だったのではないだろうか? もし自身の毒を自身で食らうまいと演技していたら?


 今ので証明された。グラジオラスは間違いなく、常人離れした耐毒性を会得している或いは、耐え得るだけの装備を施しているのだと。


 起死回生を狙うグラジオラス。苦し紛れに追撃を試みた彼は、再び紫水流で形成された剣を突き出した。


「唯一の勝機で気が狂ったのか! いつまでその手が通用すると――」


 魔法で形成されたかのように見えた紫水流の剣。


 しかしそれは確実に鏡の防御壁を突き破り、レフティスの身体へと至る。


「......ガッ」


 魔法であるものが反射しない。それは何故か? 簡単な話だ。魔法に見えるような近しい存在であれ、それが魔法でないものであること。ただそれだけ。


「......ま、まさかそれは......」

「そう、“王花の剣”」


 あり得ない。レフティスは愕然とした。何せ、彼が“王花の剣”をゼデク・スタフォードに渡す瞬間を鏡越しに見ていたのだから。


 確かに剣はゼデクの手に渡り、彼の手元から離れた。


「剣が二振りある事実を知る者は少ない」

「......ふふ、そうか。私は油断したのか」

「油断? ふざけるなよ」


 グラジオラスは彼に詰め寄る。


「今の戦いだけでも聞きたいことが山程できた。死ぬ前に全部吐け」


 そう、この戦いで彼の抱いていた疑問は確かなものとなり、より大きく膨れ上がった。


 “教皇”は、レフティス・ミロワールは――

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