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忘れじの戦花  作者: なよ竹
第6章 少年と千年鏡面世界 〜ヘイゼルの戦花〜
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第124話 少年と王剣 2

 昔、あるところに1人の王様がいました。正確には、王となる他ない少女がいました。


 偶々魔法が使える素質があって、偶々“魔法使いの始祖”......兄と同じ血を引いていただけ。素質があったって、きっと彼女の本質は少女だったのです。


 約束の日、少女は大切な人を失いました。姉を、兄を、そして師を。


 姉は未来の礎に。兄は悠久の地獄へ。師は狂気の渦へと。


 始祖たちの弟子だなんだと言われても、結局1人でできることには限界がありました。


 バケモノが影に蔓延り、裏切った師が彼女たちに刃を向ける。それは兄や姉との約束から遠く遠くかけ離れたものでした。


 彼女は本当に護りたい人を護ることができず、あまつさえ、約束すら果たせないような事態に陥ったのです。


 少女は苦悩に苛まれました。必死に抵抗しました。しかし、取り返しのつかないことに変わりはありませんでした。


 そして、ついに自刃を選びます。どうすることもできない自分を恨みます。


 自身の死後は容易に想像できました。だが、それではいけない。それでは罪を償えない。




 故に己の命と引き換えに、2振りの剣と盾を創りました。それは所有者によって形を変えるもの。所有者の意思に応えるもの。


 罪を償う為に丹念に丹念に創りました。......いえ、本当はただの自己満足だった。そこにはバケモノへの恨みも込められていたでしょう。自分への糾弾も込められていたでしょう。理不尽への怒りも込められていたでしょう。


 こんなもので世界が救われるわけがない。足しになるわけがない。自分はきっと、師や姉、そして兄との日々を護りたかっただけなのだと。




 引き換えに彼女は消えました。彼女は間際まで祈りました。ただひたすら祈りを重ねました。


 この剣は世界の敵を屠るものに非ず。この盾は世界を護るものに非ず。もう二度と、自分のような人が出ないと、1人でも少なくなるようにと、せめてこれを持つ者だけは同じ道を辿らないと。



 それから、剣と盾は長い年月を重ね、多くの者の手に渡りました。


 ある者は約束を、ある者は愛を、ある者は誇りを、剣と盾の核は所有者の意思に応えました。そして、護れたにせよ、護れなかったにせよ、彼らの祈りは確実に核へと注がれていきました。



 これは剣。これは盾。代々、ありとあらゆる辛苦と努力と祈りが詰まった核。


 もし貴方がこれを手にしたのならば、祈りなさい。嘘偽りなく勇気を込めなさい。


 長い年月を経て、伝聞が曲解しようともいずれ気付くでしょう。



 己が真に護りたいものの為に振るう時、はじめて真価を発揮すると――



 ◆


「確かに我らの主兵力、そのおよそ半分を担う俺を殺すには絶好の機会だったのだろう」


 地に崩れるゼデクを見下ろして、先代国王は冷酷に呟く。


「だがそれはこちらも同じこと。どうやら不確定要素である貴様を仕留める良い機会だったらしい」

「......殺すならどうか私から先に」


 震えた足を懸命に運びながら、レティシアは父の前へと立ちはだかった。


「余程大事と見える。だからこそ、先に其奴を殺さねばな。それがお前への罰となり得よう。そも、お前如きが俺を止められるとでも? その身を避け、転がる童の首を刎ねるなど造作もないこと」


 そんなやり取りを聞きながら、ゼデクは脇腹に刺さる剣を掴んだ。これが鏡面世界に存在する“王花の剣”ならば、その核は今ここにある。鏡面世界の“王花の剣”が今、手元にある。


 凄惨な状況なのにも関わらず、ゼデクは努めて冷静に先日の出来事を思い出していた。変質者から貰った手紙だ。何故彼がそんな物を持っていたかは定かではない。


 そして、手紙の差出人は名乗らなかった。手紙にはただ、“王花の剣”が生まれ、受け継がれていた経緯と、かつてそれを所有していた旨だけが綴られていた。


『拝啓 ゼデク・スタフォードへ』


 アドバンスの意思で動こうとする“王花の剣”を握り締める。


『この手紙を読んでる頃には、俺は死んでいるだろう。何たってこれから死地へと向かうのだから、これは必然とも言える。


 俺は自分の中にある力がどれだけ重要なものなのかを理解していたし、それなりの責任を感じていた。皆んなが望んだ通り、世界を救う為なんだってずっと頑張ってきた』


「無駄な抵抗はやめろ。傷口を広げるだけだ」


 そう声を掛けられても無視して剣を握り締める。アドバンスの意思で動くはずの“王花の剣”は不思議と彼自身の攻撃よりも酷く軽く、ゼデクの手に馴染むものであった。


『で、ずっと頑張った結果、アンタが見ている世界になっちまった。到底納得できるものじゃないよな? 多分、アンタも似たような人間だと信じている。


 少なくとも俺は、世界だなんだって言ってる内に尤も大事なものを見落としていた。護りたい存在を見失っていた。身の丈に合わない難問に1人振り回されて、そっちに意識を傾けられなかった』


「見苦しいな。......レティシアよ、よく見ておけ。お前がまた死へ追いやるのだ」


『そう気付いた途端、剣が教えてくれたんだ。気付かせてくれた。いや、理解した時に気付く仕組みになっていたのかもしれない』


「お前が縋ったばかりに、この男はお前に呪われたのだ」


『知らぬ間に俺はずっと剣に嘘を付いていた。本当に護りたいものを剣に祈れなかった。だから、これから向かう最期の戦いくらいは祈ってみようと思う』


「うるせえよ......」

「......何?」


『多分死ぬ。で、最後の最後まで()()()()()を護ることができない』


「先代国王......アンタに護りたいものはあるか?」

「死に際にトチ狂ったか。無為に意義や理屈を並べるから、そうやって地べたを這うことになるのがまだ理解できんらしい」


『だから、この手紙を読んだアンタだけは見失わないでくれ。アンタならまだ間に合う。世界は二の次でいい。そっちの世界はきっと、アンタ1人に全てを背負わせることのない、もっと良い世界になってる筈だからな』


「そうだな、殺し合いに理屈を押し付け合うつもりは俺もない。許しを乞うつもりもない。でもな」

「......!」


 瞬間、“王花の剣”の主導権がアドバンスの手から離れた。同時にゼデクの手元に剣が生成される。少し眩いものの、それ以外は一見なんて事のないただの剣。


『もっと多くの人に頼って、もっと自分に素直になって、悔いのないように剣を振るえ』


「この“王花の剣(どひょう)”に立ったからには、そうはいかないんだよ」


 全力を尽くして立ち上がるゼデク。彼は勢い任せにそんな剣を振るった。


『その時はじめて、本当の意味で剣は応えるだろう』


 目にとまるスピード、そして脆弱な威力。アドバンスにとって防ぐなど造作もないことだった。彼もまた、手に握っていた剣でゼデクを粉砕しようと試みる。


 しかしゼデクの剣は彼の剣を打ち砕き、そして――


「きさッ――」


 アドバンスの胸元にまで届いた――

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