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忘れじの戦花  作者: なよ竹
第6章 少年と千年鏡面世界 〜ヘイゼルの戦花〜
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第111話 少年と鏡面世界 2

「な、なんでアンタが生きてるんだ......?」


 ゼデクの目の前で笑う男は紛れもなく、かの“暴君”オスクロル王だった。声、姿、威圧感に魔力量、いずれもゼデクの知るものと変わらない。いや、以前よりも増しているものがあった。


 知るものが見れば、誰もがオスクロルだと答えるだろう。


「あ? ......ほうほう。そうか、そっちの俺は死んだのか」

「そっちの......? 何言ってやがる」


 くつくつと笑みを絶やさないオスクロル。


「テメェもそれなりに成長したようだが、根がまだまだガキだ。何でも聞くばかりじゃあ答えにはたどり着かない、考える癖をつけろ」

「......いたぞ! この部屋だ!」


 衛兵が嗅ぎつけた。どうやら長話はできないようだ。


「今は時間が無い。場所を確保するのが先決だ。2人懐かしむのは後にしろ」

「“鍵”如きが俺に指図するなよ。せっかくここまで出向いて来たんだ、“教皇”様ぶち殺しに行っても良いんだぜ」


 と、そこでゼデクは悪寒を覚えた。命の危険を感じる悪寒。それはこの2人から発せられるものではなく――


 銀細工が施された純白の鎧を纏った男が、剣を振りかぶるのを視界に収めた。素早い一閃。それを、すんでの所で何とか受け止める。


「うっ、重い......」

「また貴様の顔を見ることになるとはなぁッ! ゼデク・スタフォードッ!」

「俺はアンタなんか知らねぇ......よッ!」


 自分を知っているであろう妙な男と撃ち合いになる。力は五分、しかしゼデクが押される形になった。先の戦いで全身を負傷したこともあるが、それ以上にこの男もまた強者であったのだ。


「あぁ、その炎が私にあったらどれ程と思ったことかッ! それが貴様のような存在にぃッ!」


 刀を弾かれ、大きく仰け反ったゼデクに鋭い一撃が迫る。


「大人しく牢に入れ!」


 が、それがゼデクに届くことはなかった。ドス黒い瘴気が男の剣を弾く。


「......何の真似だ?」

「ハッ、“十三家”ともあろう者が手負いのガキ1人に本気出してんじゃねぇよ」


 瘴気の主、オスクロルは大胆不敵に笑った。


 ヘイゼル王国“神官十三家”。ゼデクにも聞き覚えがある。キングプロテアに“七栄道”が、千日紅国に“四季将軍”があるように、ヘイゼル王国の中でも屈指の実力者と謳われる集団だ。


 13人いるにも関わらず、1人1人が最高峰の実力を持つとされる精鋭組織。“教皇”レフティス・ミロワールの下に彼らがいるのだから、大国と称される理由がよくわかる。

 

「それにな......コイツは俺の獲物だ。邪魔をするな」


 ゼデクは気後れした。この場に集う者全てが遜色ない大物ばかり。誰が味方で誰が敵か? 双方、戦力の底は見えない。


 故に経験あれど、少年に過ぎない彼が気後れするも無理のない状況といえよう。


「まだ生きていたか、ルピナスの暗君。どうせコソコソと隠れ潜んでいたのだろう? 敗者にお似合いの姿だ」

「てめぇこそ、神官の癖して大層な形じゃないか。騎士の真似事は他所でやってくれ」

「ぬかせ!」


 互いにボルテージを高める2人。“十三家”の男がオスクロルの挑発に応じた。


「ならば貴様の首から落としてくれよう」

「てめぇに興味はねぇつってんだろ」


 するとオスクロルは大鎌を手に取る。かつて、ゼデクやプレゼンスたちを圧倒してきたあの大鎌だ。


 “冥の大鎌”


 その大鎌に禍々しい魔力が付随する。この一室で振るって良いような力じゃない。


「ちょ、まっ――」

「死にたくなりゃ伏せてろッ!」


 なんてセリフを吐くも、言葉が終わる頃には横一文字に薙ぎ払われていた。闇の瘴気が部屋を走り――


「......!」


 直後、部屋が縦2つに分かれ天井が吹き飛んだ。とても衛兵に躱せる速度ではなく、何人かが同じように吹き飛ぶ。


 生きている者は1人残らず伏せている。オスクロルはわざわざ味方に伏せろ、と合図をした。それは敵にも攻撃の位置を知らせることになる。超速反応を可能とした“十三家”の男も同じ対応をするだろう。


 これは誘導だ。上か下へと回避行動させるための巧みな誘導。


「まともにやったら骨が折れるからな......相手はまた今度だ」


 地面へと回避した男。彼の先回りをしたオスクロルは、頭目掛けて勢い良く脚を振り切った。男は腕で受け止めるも、威力までは殺しきれず大きく後退する。


「......面倒になった。とりあえず場所変えくらいはやってやる」

「急げ、他に来るかもしれない」

「お待ちをグレンジャー様ッ! 何故あなたのようなお方が我らを裏切るのですか! あなたは一体――」

「......行け」


 男の悲痛の叫びは届くことなく、3人を闇が包んでいった――


 ◆


「......ったく、落ち着いて話の1つや2つもできねぇ」


 オスクロルが悪態を吐く。彼らは今、別の場所へと移っていた。これも以前、ゼデクが見たことのある魔法、闇魔法による転移だ。


「ここがお前の寝ぐらか」

「暫定的なものだ。頻繁に位置を変えないとバレる可能性がある。とりあえず話はここでつけるが、その後は出てけよ」


 手元にあった椅子を乱雑に投げるオスクロル。これに座れ、ということだろう。


「色々交渉してぇが、まずは軽い説明が先だな。ゼデク・スタフォード。ここは何処だと思う?」


 3人が落ち着くと話を始めた。自分で考えろ、その一環の問いとも取れる。


「......ヘイゼル王国、その都?」

「まぁそうだ。だが少しだけ違う」

「それがアンタが生きている理由に繋がる、か?」


『あ? ......ほぅほぅそうか、そっちの俺は死んだのか』


 そもそもゼデクが見たオスクロルは本当に生きているのだろうか? 考えたくもないが、おそらく先ほどの発言からするにオスクロルが2人存在するかのような気もする。


「大体あってる。ここはお前のいた世界とは違う世界だ」

「......鏡面世界」


 グレンジャーがそう言い放つ。


「“教皇”レフティスの魔法、“鏡魔法”によって生み出された世界。いや、繋がってしまった並行世界と言ってもいい」


 早くも頭痛を伴いそうな話だが、ゼデクはなんとか堪える。つまり、自分たちが生きている世界と似た世界がもう1つ存在していて、“教皇”の魔法を介してゼデクはそこへと攫われた、ということだろう。まるで鏡越しに映る別世界へと。


 1個人の魔法の域を容易く超える話。


「じゃあアンタは鏡面世界のオスクロルってことか」

「あぁ。そういうことになる」

「......アンタが俺を知ってるってことは、こっちの世界にも俺がいる?」

「とっくの昔に死んだがな。くだらねぇ死に方しやがって」


 別の本人に毒を吐く。ゼデクは衝撃の事実に口をつぐんだ。実感がまったくわかないが、自分が死んだというのは壮絶なものだ。どんな人生を送ったにせよ、道半ばで死んだことはよく理解できる。


 そしてその死が、“十三家”の男との因縁に繋がるのかもしれない。


「......時系列は?」

「少しだけこっちが進んでる。ほとんどお前の世界の未来だと言っていい......尤もそっちの世界と同じ過程を辿っていないが」


 オスクロルが生きている、というのはそういうことだろう。プレゼンスを返り討ちにしたのか、はたまた最初から戦っていなかったのか。


「......プレゼンスのジジイは殺してねぇよ。殺し損ねた」


 そんな心境を読み取ってか、彼はそんな発言をした。オスクロルばかり気にするわけにもいかない。ゼデクはグレンジャーと呼ばれる男の正体を探ることにした。


「そっちのアンタは? 何者なんだ?」

「グレンジャー・レーヴェン。ヘイゼル王国の“鍵”だ。......今は訳あって王国と敵対している」

「なっ!?」


 只者ではないことは重々承知していたが、まさかヘイゼル王国の“鍵”の保有者と、このような形で出会うとは思ってもみなかった。


「驚きばかりの中すまないが本題に入ろう。何となく状況は掴めたはずだ」

「ま、まぁそれなりには......」

「少なくともゼデク・スタフォード。お前の目標はグラジオラス・ウィンドベルとの鏡面世界脱出だろう。そして俺の目的もこの世界からの脱出だ」


 目を見開く。だとすれば、グレンジャーは元いた世界の人間ということだ。そしてグラジオラスも鏡面世界の何処かにいる――


「確かに元の世界に戻ることはもちろん、キングプロテア王国にも帰らなければいけない」

「だがそれには“教皇”を討ち倒す必要がある。それは戦力の増強も要求されるものだ」


 この世界に来てからの一戦。それでいかに“教皇”が強いかを思い知らされたばかりだ。“神官十三家”を含め、対抗するための戦力が多いに越したことはない。


「そこで交渉だ」


 オスクロルは拳を握りしめると、ゼデクの前へと突き出し放たれた一言は、


「......俺と手を組め、ゼデク・スタフォード。それがお前のできる最善の手だと断言しよう」



 かつての確執を根本から覆すのであった――

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