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忘れじの戦花  作者: なよ竹
第6章 少年と千年鏡面世界 〜ヘイゼルの戦花〜
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第107話 少年と視線 1

「相変わらずごっちゃごちゃしてんな、ここ」


 どこか感慨深くもらすと、ゼデクの目の前を馬車が通り過ぎていった。キングプロテア王国の王都、グランツロード。今日も今日とて賑わいを絶やさない。


 もっとも、一般人だけではないが。


「次は西国に出兵でしょ? 大変だよね〜」


 独り言のつもりが、それをエドムが拾う。そう、今の王都には、出兵の準備をする人々も入り混じっていたのだ。


 今回の戦いでは、結果として千日紅国と同盟を結ぶに至った。その際に彼らの国を跨ぎ、西国へと続く道を約束してもらったのである。


「これいつ出発するんだ?」

「来週」

「嘘だろ、俺まだ準備が......」

「ありゃ、聞いてないの? 次は僕らの出番ないよ」


 目を丸くするゼデク。それは共にいた他の2人も同じようで、ガゼルやオリヴィアも似たような反応をしていた。


「え?」

「だって僕ら、この間帰ってきたばかりだろ? 千日紅国に出兵してた人なんか駆出したら過労死するよ」


 何のために自分たちが千日紅国に赴いたか、それがわかった気がする。首級なり、エスペルトの目論見なり、そこらの理由もあるだろうが、最たる理由は西国に備えて、だろう。


 ヘイゼル王国とカルミア帝国。どちらも強大で、他の四国とは規模が違う。であれば、勝利ではなく同盟を目的としていた千日紅国にゼデクたちを充て、主力級をこのタイミングに残す。それが最善の方法というもの。


「グラジオラスとか、“黄金の英雄”とかそこら辺が出てくるんだな」

「そーそー、ここ最近のライオール様、出兵の準備でバタバタしてた」

「......というより、あの人も大詰めでめっちゃ闘ってたじゃん」


 “晴天”の陽動、その殆どを彼に任せきったといっても過言ではない。おそらく彼個人で参戦していたに違いないが、それでも彼自身に疲労が残りそうだ。


 或いは、それを物ともしないからこそ“黄金の英雄”なのかもしれない。


 街を歩く。せっかくの休日なのだから、みんなでケーキを食べに行く予定だった。ステンドグラスや鏡で飾られた綺麗な店を横切る。その時――


「......?」


 背筋がゾクリとした。何処からか視線を感じる。ゼデクは何となく鏡を見た。なんで鏡を見たかは、わからない。ただ何となく、鏡から視線のようなものを感じたのだ。


「......気のせい、か」

「どしたの?」

「いや、誰かに見られてるような気がして......」


 じっと見つめる。でも何の異変もなく、やはり気のせいだったのだろうか? 普通、鏡から視線を感じるというのも可笑しな話だ。


「やっぱりゼデクは自意識過剰だなぁ」

「あのなー、お前......あ」


 なんて冗談を言っていると、今度は違うものを見つけた。


「ウェンディちゃんですね!」


 オリヴィアも見つけたようだ。フードを被ったりと少し地味な格好をしているが、あれはウェンディだ。


 ゼデクは首を傾げる。彼女の父、アイゼン・フェーブルの死もあってか、彼女は今、レティシアの世話係になっていた。独り身を案じたグラジオラスかエスペルト辺りが、彼女だけ特別に計らったのだろう。


 彼女は今日、自分たちとは違って仕事があると言っていた。と、なると今は仕事の真っ最中。


「......えぇ」


 ガゼルが困惑する。彼女の隣にレティシアがいたからだ。容姿を隠しているものの、それなりに理解のある者ならすぐに見抜けるレベルである。2人は仲睦まじく遊覧していた。


 あれは許可を得たものなのだろうか? それとも、所謂お忍びというやつなのだろうか?


「羨ましいと思ったり?」

「うーん、まぁ......」


 ゼデクたちが必要とされるのは、戦での護衛。平時の扱いは雑なようで、ああやって近付くことすら許されていない。


 世話係ゆえに、常に彼女の側をついて回れるというのは魅力的だ。しかし、そんな単純な話ではない。


「でも絶対どこかにアイツがいるだろ」


 ぱっとみ視界に収まらないが、これまでの経験を考えるにグラジオラスが何処かにいるはずだ。ゼデクを毛嫌う男が何処かに。レティシア在るところにグラジオラス在り。つまり、レティシアと過ごすということは、グラジオラスと過ごすと同義なのだ。


「今、失礼なこと考えてるでしょ」

「何の話だよ」

「本当に将来のことを考えるなら、グラジオラス様とも仲良くなった方がいいよ?」

「......」


 正論を吐かれ、ぐうの音も出ないゼデク。せっかく見かけたのだから、話しかけたい。しかし、どこかでグラジオラスから待ったがかかるだろう。


「どこから見てるものか」


 周囲を見回す。すると怪しい人影がいた。同じくフードを深く被り、身なりを全部隠している人物。その人物は、影からレティシアたちの方を見ている。体格を考えるとグラジオラスではない。偏見は良くないものの、すごく怪しかった。


 そういえば――


 ゼデクはさきほどの視線を思い出す。頭の中で色々、引っかかった。あれが気のせいでないものだったら? 本当に何か企みがあってレティシアの後を追っていたら? 心配になる。


「え、ちょ? どこ行くの?」


 エドムの言葉を放り出し、背後からこっそりと近付いてみた。同時にレティシアたちも奥へと移動する。フードの人物は? やはり後を追う。怪しい。


「おい、ちょっと良いか? ......え」


 肩を掴んだところで、本日何度目かわからない間抜けな声を上げてしまう。


「ゼデク? 何やって――え?」


 これまたとんでもない人物に、思わず追いついて来た3人と確認するように顔を見合わせる。で、もう一回フードの人物を見る。


「シエル......王?」

「い、いやぁバレちゃったかぁ。ご、ごめん! このことは内緒で! お忍びなんだ......あぁ、頼むっ、そんなとこで跪かないでッ!」


 ゼデクたちが膝をつこうとするのを制止した。何せ仰々しくすると周囲にバレるのだから。


「お、驚きました......まさか貴方がこんなところに」

「レティシアがこっそりお出かけするところを見つけてね?」

「止めようと?」

「これは僕も遊びに行くしかないって思ったのさ!」

「......」


 何故そうなる? と呆れる4人。よくよく手元を見ると袋をたくさん抱えていた。


「あ、これ食べる? 最近出たらしい菓子なんだけど、これすっごく美味しんだ!」


 マイペースに菓子を取り出す国王。ゼデクが面食らっていると、エドムが何とか言葉を振り絞った。


「まさかとは思いますが......お一人で?」

「うんそうだよ」

「いやいや、そうだよじゃないでしょうに!」


 ゼデクも我にかえる。国王が護衛なしで街を歩き回るなんて大変な話だ。8年前のクーデターがもとで先代の国王が斃れたというのに、彼はいったい何を考えてるのだろうか?


「だからこそのお忍びってやつさ。それにいるじゃないか、そこに都合の良さそうな護衛が4人」


 指をさす国王。


「それって俺たち......?」

「“晴天”の首を獲ったと聞いたよ! 君ならば適任だろう?」

「ゼデク! この菓子美味いぜ!」

「本当ですね! 帰りがけに寄らねば!」


 知らぬ間に菓子を片手に頬張るガゼルとオリヴィア。ダメだ、彼らは買収されてしまった。このままではお忍びの片棒を担がされてしまう。


 横目にエドムを見る。目があった。彼も戸惑いを隠せていない。


「頼むよ! この通りだ!」

「あ、頭を上げてください!」


 ここまでされてしまっては断れない。2人も観念した。


「わ、わかりまし――」

「その了承は看過できんな」


 するとゼデクの頭部に五指が突き刺さる。国王の登場という衝撃で、忘れてはいけない人物を忘れていた。


「おい、有事の責任はいったい誰が取ってくれるんだ?」

「いっ! アンタッ、手加減を......」


 今にもゼデクの頭を握り潰さんとする男、グラジオラス・ウィンドベル。彼が近くにいたのすれば、これだけ騒いでいて気付かないはずがない。


「ゼデク・スタフォード......無断で国王を連れ出した罪、軽くはないぞ」

「どうせアンタ、さっきの話聞いてただろ! 国王の外出と俺たちは無関係だ!」

「すまないゼデク君。僕は君の勇姿を忘れないよ」

「......陛下。貴方もです、お戻りください」

「......」


 シエル王は数歩進んだところで止まった。おそらくグラジオラスに見つかった以上、逃げ切れるほどの足を持っていないのだろう。


「他の3人は散れ。貴様らに用はない」

「なんで俺だけ......」


 ゼデクは、自身の言い分に耳を貸さないグラジオラスに連れ去られるのであった。

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