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忘れじの戦花  作者: なよ竹
第5章 少年と己が護るべきモノ 〜千日紅の戦花〜
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第105話(閑話) 宰相と初恋 4

悪魔は言った。


『運が良かったな』


かつて、悪魔はそう言った。


『もしテメェらを見つけたのが俺じゃない誰かだったら、両方とも死んでたぜ』


信じられないくらい速い動きだった。気付いた時にはすでに遅し。エスペルトは地に伏し、共にいた女、グレイシアは彼に鷲掴みにされた。


ピクリとも動かないグレイシア。気絶か或いは――


『死んでねぇよ。じゃないと交渉できないからな』


悪魔は続ける。


『結末こそマヌケ極まりないが、ここまで来たことは――聖地(なか)を覗いたことは褒めてやる。この女とお前、どちらが頭が回るかを考えた末......俺はお前を選んだ』


悪魔は彼女の首筋に爪を当てる。


『お前にチャンスをやるよ』

『......チャンス?』

『テメェらは少しとはいえ、聖地の情報を把握しちまった。それは禁忌だ。一般の人間如きが知って良いもんじゃない。だが、お前は違う。お前はかなり実力があって、情報を隠し通せる力を持っている。どんな状況でも肝心なところだけは絶対に明かさない、そんな人間だ』

『何が言いたい?』


すると口角を上げる悪魔。


『中央の()()を見たからにはわかるだろう? このままじゃあ世界は滅亡する。亡霊の手によってな。その結末は望めないものだ。お前にとっても、俺にとっても』

『......』

『だから、俺と手を組め』


悪魔はエスペルトの眼前まで迫ると、鷲掴みにしたグレイシアを突き出す。


『そうすりゃ2人の命は助けてやる。で、お前は自分の護りたいお友達とやらもたくさん救える。悪くない条件だ』


悪魔による悪魔の契約。何か落とし穴があるのは必須。しかし、エスペルトに選択肢はなかった。


『彼女も助けてくれると?』

『あぁ。だが、記憶を改ざんさせてもらう。聖地の情報はマヌケが隠し通せる代物じゃねぇ。これは戒めだ。コイツの人生に関しては俺が既定路線を設けさせてもらうぜ』


自分の中で怒りが膨れ上がるのを感じた。次の瞬間、エスペルトは立ち上がると、拳を振るっていた。


『んはっ、こえ〜』


悪魔は笑う。はるかに遅れたタイミングで蹴りを繰り出した。だと言うのに、エスペルトよりも速く身体に届く。


『付け上がるなよ、ガキ。少なくとも今のお前じゃあ、俺には勝てねぇ』


再び地に倒れたエスペルトを踏み抜いた。


『お前は頭が良い。だからよく考えれば理解できるはずだ。お前は今、2つの選択肢を迫られてるんだ。ここにいるマヌケと心中して、世界諸共大切な仲間を失うか――仲間を選びかつ、彼女も生かすか。2つに1つだ』

『......』

『安心しろ。コイツは王族に嫁がせる。ただそれだけだ。あとは何も干渉しねぇ。そこそこ幸せな人生を送れると思うぜ?』


ふざけたことを言う。エスペルトが悪魔に太刀打ちできない今、みんなが最低限救われる選択肢は1つしかない。


だから思考をシフトする。


『......わかった』


こんな世界では、自分の宝物を全部護りきれない。抱えきれない。


『話が理解できるやつで助かるよ』


だから諦めよう。......この世界は。



聖地を覆う結界。一瞬だけ緩んでしまったが故に、エスペルトはソレをしかと眼に焼き付けた。


悪魔は少しだけ知った、と言った。中央のアレを見たからには、と言った。であれば、エスペルトが全てを把握していると知らない。


利用するのだ。自分を利用したと思い込んでいる悪魔を利用してやるのだ。


世界がそうであるならばとことん付き合おう。ありとあらゆる手段を用いて戦おう。それが禁忌であっても利用して、誰も彼もを出し抜いて。


どれだけ恥辱にまみれようとも、泥にまみれようとも最後の最後にたどり着くのだ。



彼の脳裏に浮かんだのは、1つの石碑。驚愕すべき情報が詰まるに詰まった聖地の中でも、彼の印象に尤も残った存在。その石碑にはこう刻まれていた――







“現実改変魔法、ここに眠る”

これにて、第5章完結となります。

後日、閑話として日常回を加筆するかもしれません。

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