表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忘れじの戦花  作者: なよ竹
第5章 少年と己が護るべきモノ 〜千日紅の戦花〜
104/141

第104話 終戦と始動

 静かな寝息を立てる少女。さっきまでの修羅場が嘘かのように、戦場は穏やかなものとなっていた。とはいえ、比較的な話。怪我人を運ぶ者、話し合う者、騒がしいことに変わりはない。


 それは終戦を意味する。キングプロテアは攻撃の手を止め、エスペルトを中心に協議を申し出た。千日紅国の者もそれに応じる。“晴天”を討たれた今、彼らに戦う意義はない。そして、もう1人の頂、“荒天”は......


「......貴方が何を考えているのか、問いただしたい」


 紅葉から視線を外した秋仙は、側に立つ男、“荒天”を睨む。支持するか否かはさておき、彼が実質的なトップだ。彼の動向1つでこの後の展開がガラリと変わる。


「貴方は人間か?」

「......他ならぬ“天”だ」

「......!」

「と、今までの私は答えたのだろうが、今は違う。自らの浅はかさを知った。ただの人よ」


 そう言った彼はどこか雰囲気が変わっていた。圧が消えて、柔らかくなっている。そんな感じのオーラ。


「我らは汝たちにも......民衆にも大きな過ちを犯していたのだろう。“晴天”の本質を理解していながら、化け物(あれ)を放っていた。勝利の一点に執着していた私にも責任の一端はある」

「まさか、知っていたのか?」


 彼は沈黙をもって肯定とした。“晴天”と出会ったあの日から、人ならざる気配を音として捉えていた“荒天”は、彼をまともな人とは思っていなかったのだ。


 そんな彼だからこそ、怨嗟籠りし世を正してくれるのかもしれない。淡い期待を持った為、彼と協力する道を選んだ。しかし実際に待っていたのはこんな結末。怨嗟の中央にいたのは彼と自分。


「もう私に国を動かす権利はない。だが、歳行かぬ汝らに全てを委ねることは叶わぬだろう。故に、私がキングプロテア王国と一定の約定を結んだ」


 すると。“荒天”の背後から男が姿を見せた。


「......王族か」

「ほう、間近で相見えるのは初めてだな。思ったよりも童ではないか」


 グラジオラス・ウィンドベルは秋仙を見ると、高慢に言い捨てる。彼は眉をひそめるに留めた。戦況を振り返るに、明らかに条件不利となるのはコチラだ。下手に動いて悪化させることだけは避けたい。


「我らに従属しろと?」

「......いや、同盟だ」


 “荒天”が答える。


「キングプロテアが兼ねてから提案してきた同盟、それを汲むことで、此度の戦を終わらせることとなった。それはキングプロテア王国の国王と私の名を持って結んだもの。悪いが異議申し立ては受け入れられない」


 予想よりも救われた展開に、秋仙は内心で胸を撫で下ろす。最悪属国になることを覚悟していた。どういう交渉をしたか定かではないが、自分たちの見ていないところで“荒天”は動いていたことになる。


「それについて異議申し立てありません。しかし、この先貴方に国の主導権を任せるわけにはいかない。皆が納得するとは思えません。正直な話、私を含め、ね」


 また“荒天”に主導権を握らせる、という話は別だ。彼が本当に反省したかなど判別付かないし、何より今までの責任を取っていない。場合によっては死罪になってもおかしくないだろう。


 彼らの独裁は、千日紅国を護る反面で、大きく揺るがしてもいたのだ。数え切れないほどの人間が犠牲になった。


 “荒天”は首を横に振る。


「後は汝の師に委ねよう。老いた身ではあるが、かの大剣豪ならば名声・実力共に皆が納得するだろう」

「貴方は――」

「私はこれから都に赴く。“晴天”の息がかかった高官を皆殺しにし、上層部を更地にして汝らに引き渡そう。その後は......旅に出る」


 とんでもない言葉が飛び出す。有無を言わさぬ革命であった。そして、その後は旅に出ると言う。まるで逃げるかのように聞こえるが、


「汝の心中は理解できる」


 彼の言葉には続きがあった。


「あまり我儘を通せる身ではない。それは重々承知している。しかし、暫しの間、時間が欲しい。いつか私の力が必要となる時が来るだろう。その時、少しでも罪滅ぼしをしたい。後は汝らに委ねよう。煮るなり焼くなり斬るなり、自由にするといい」


 “守護神”と戦って得たものを、安易な死という形で失いたくなかった。できるだけ多くの世界を見て回り、情報を得た上で改めて自分の答えを出す。それがあの時、グラジオラス・ウィンドベルに斬られることを拒んだ要因だ。


 しかし、最大の要因は他にあると言って良い。旅という形で隠れ潜まなければならない最大の要因が。


「貴方の力が必要になる?」

「......いつか必ず。汝はこれから未来を担うものだ。武はもちろん、自身の目で時勢を見極めることも怠るな。さすれば自ずと道が見える。これは、私からの数少なき助言と思え」


 盲目的な勝利の執念を捨てた“荒天”はいち早く、何をすべきか把握した。“晴天”の近くにいたからこそわかることもある。彼が何を目的としていたか。そして、この先何が起きるかを――


「では先に向かうぞ」

「待てッ! まだ聞きたいことが――」

「その答え、汝自身が見つけよ」


 “荒天”は風魔法を使って空へと旅立つ。グラジオラスはそれを見送るのも程々に、慌ただしく走り回るエスペルトに目を向ける。


 どうやら“晴天”の死体が自壊を始めたらしい。完全に消失するまでに解剖をせねばならない。


 だがこれは一部の人間しか知らない。エスペルトは即座に情報操作を望んだ。周りの兵士には禁忌魔法による変異体、とだけ情報を流している。全部遮断しては不満を抱く者も増えるからだ。


 実際は魔法なんて代物ではない。明らかに別の力が宿っていた。しかし、大きく精神や肉体に作用し、人ならざるモノに変貌する魔法も存在すると聞く。混乱している兵士たちには、十分な説得材料になる。


 グラジオラスもそちらに向かった。


 やはりと言うべきか、背後に大きな存在が隠れ潜んでいる。次に控えるは西の二大強国戦争。“晴天”に通じる何かと、真実に近付く大きなチャンスが存在するはずだ。


「これはあくまで前哨戦。本番はこれからだ」


 グラジオラスのため息混じりに吐かれた一言をもって、終戦を迎えたのであった。


 ◆


「......と、まぁ以上が今回の報告。良かったねぇ、俺が出向いてなかったら何の情報も入ってこなかったよ、女王さま」


 とある魔法使いは正面の玉座に座る少女に言った。


「そーですね。まさかウチが放った優秀な密偵が全員死ぬなんて夢にも思いませんでした」

「ねー」

「えぇ、ホントーに。だって30人も居たんですよ? 律儀に戦わず、情報収集がメインの兵士さんが全員死ぬなんて、不思議なこともあるもんです」


 少女は――北方の王国、ブローディア王国の女王は恍惚な表情でグラスの中身を飲み干した。真っ赤な液体で満たされていたグラスが空になる。それを見て、魔法使いは苦笑いをした。


「まるで誰かにバレたような、そんな消えた方。アンタさん、心当たりはありませんか?」

「いんや、全く」

「そーですか、ふふふ」

「ところで......」


 魔法使いは横に目を向ける。


「このぬいぐるみ、何?」


 そこには満面の笑みを浮かべた熊のぬいぐるみが置かれていた。


「見てのとーり、可愛い熊さんです」

「なんでこんなとこに置いてるの? 趣味悪いなぁ」

「さぁ? 誰かが置いたんじゃねーんですか? 不憫ですね、こんなに可愛いのに趣味が悪いとか」

「だってこれ、アレでしょ。中に――」


 と、話した途端、ぬいぐるみの腹が裂けた。中から、いくつもの刃が飛び出す。剣に刀に回転刃、大小様々なものが魔法使いを襲った。


「......」


 彼は腰に帯びていた剣を抜く。ヘイゼル王国で手に入れた聖騎士の身体と剣。それを駆使する。ほぼ同時と言ってもいいタイミングで放たれた凶器を、彼は流れるように叩き潰した。


「あはー、やっぱそうじゃん。趣味悪っ」


 陽気にはしゃぐのも束の間、彼に影ができた。入り乱れる刃に隠れて、ぬいぐるみが魔法使いに飛びかかる。


「ほい、残念」


 彼はそれを縦に斬り裂く。すると――ぬいぐるみは落ちることなく光輝いた。


「あり?」


 間抜けな声と共に爆発する。下手をすれば玉座の間を吹き飛ばしかねない威力の爆発。普通ならば音を聞いた衛兵が駆けつけるのだが、今回は来なかった。人払いをしているからだ。代わりに来るのは――


「心当たりだと? そんなものコイツに決まってるじゃないか」


 鈍い金属音や木材の軋む音が聞こえた。男が入ってくる。酷く綺麗な肌をした男。まるで造形物を思わせる容姿の男。背には木で出来た十字架が刺さっており、そこから手足に向かって糸が伸びていた。


 そして、やはり目立つは六花の紋様。


「良いかサフラン。僕は人間を信用していない。今回、“晴天”(アイツ)が不手際を起こしたのは絶対にソイツのせいだ」

「だそーですよ?」


 サフランと呼ばれた少女は土埃に話しかけた。


「んはっ、可笑しなこと言うねぇ。だって彼は計画通り目標を達成した。んで千日紅国での仕事が終わった暁に、いち早く()()ことになっていた。違うかい?」


 煙たそうに手をはためかせ、剣を鞘にしまう魔法使い。あれほどの爆発があったのにも関わらず、彼はまったくの無傷。


「予定より少ない。“荒天”は死ぬまで暴れ、“晴天”は彼を助けながら七栄道のうち何人かを殺す。聞いてやる。今回、主だって死んだ奴は誰だ?」

「“晴天”と“守護神”、上々じゃな――」

「上々じゃない」


 十字架の男の表情は変わらない。ただ大きく開かれた瞳がグリンと動く。


「人の器だとしても、アイツなら半分は消せたはずだ。そして彼は怠慢をしない。これが何を示すかわかるか?」

「強かったんだよ、連中が」

「いいや、イレギュラーな存在が隠れてる。僕はそう思えるね。あるいは――」


 古びたドアを開けるが如く、軋んだ音を立てながら指をさす。


「お前が裏切ってるかだ」

「んふふ。ふははッ、嫌だねぇ。君たちの恩人である俺が、何で裏切る必要があるんだい?」

「人間、魔法使い、かつて始祖と肩を並べし者。まだ提示が必要か?」

「まーいーじゃねーですか。彼は良くやってくれてますよ」


 いがみ合う2人をサフランが制止した。


「今から彼にはヘイゼル王国に行ってもらいます。もう互いに時間がありませんから大詰めです。唯一手の出せなかった“教皇”もこれ以上先延ばしにできないでしょう」

「そこで俺が“教皇”と残る七栄道のうち何人かを間引いといてやるよ。それで証明になるだろ」

「......」


 彼は答えない。表情が変わらずとも、納得いかない様子がよくわかる。


「お前こそ、ここに顔出したってことは仕事を終えたんだろうな?」

「......当たり前だ。カルミアの“鍵”はコフィン詰めにして、上層部をお手製人形(そういれかえ)。おまけにヘイゼルの“神官十三家”のうち八家は僕の()()()()()()にした。どちらも半壊で、後はお前がツツけばドミノ倒し。何が二大強国だ。聞いて呆れる」


 相変わらずの仕事振りに舌を巻く魔法使い。さすが人間性を最も軽蔑した男、と言うべきだろう。


 人の器を捨てた彼は、余計な情を挟まないし、妥協を許さない。それどころか当初の目標以上に狩っていた。それも誰にも悟られないように。


「そりゃありがたい。さぞ仕事が楽になるだろう」

「怠慢は嫌いだ。気を抜くなよ? 失敗したら僕がお前を殺してやる」


 それに魔法使いは手を振って応える。疑いの目が全て自分に向いた。今はそれで良い。満足した彼は、煙に巻いて消えた。


「良いのか? 遅かれ早かれアイツは確実に障害となる」

「アンタさんは真面目くんですね。別にいーんですよ」


 一部始終を見ていたサフランは、にまにま笑っていた。


「みんなそれぞれ。個性とはそーゆーもんです。ウチもアンタさんも下で遊んでる残りの連中も。“本体”(かれ)から個として分けられた以上、多少の自我と個人の目標は各々の自由」

「お前も怠慢の部類か? 陽の目を見なくなるのは僕らだぞ」

「さて、どーでしょ? でもウチはちゃーんと考えてますよ? 例えウチが笑えなくなってもアンタさんが笑えなくなっても心配ありません」


 怪しげな瓶から、深紅の液体をグラスに流し込む。


「最後には“本体”が笑う。そんな風に世界は回っていますから」


 それを愛おしく眺める。グラスは真っ赤に染まりながらも背後を映し出した。


 2度と起きることのない人の山。


 それは、まるでこの先を暗示するかのように――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ