えげつないお嬢様と殺人執事 3
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2日開けてやっとのことアルトリアにたどり着いた俺達は、アークネスが一度魔王の城に戻りたいと言っていたので、返してあげることにした。
それと同時にアークネスからは契約と信頼の印だと言われキャンパスノートを貰った。
このキャンパスノートは呼びたい奴の名前を書けば大体どこでも一瞬で呼び出せるらしい。
とても素晴らしい物をくれて兄貴としては嬉しいものだよ。
門を問題なく開けてもらい、検査をしている間に中から見るアルトリアは、ローマのような街並みだが所々に近未来感があるというとんでもないところだった。
もしかしたらベットとかもカプセル式だったりするのかもしれない。
門での検査も終えて自由になった俺は色々な物を見るため八千代とショッピングをすることにした。
ショッピングといってもお金はあのお嬢様からもらった慰謝料と、八千代の用意してくれた僅かばかりのお金しかないため、宿屋の都合も考えると余り使いたくなかったのだが、何故かここであの失礼お嬢様のペンダントが死ぬほど役に立った。
そういうところを踏まえて今度会った時には少しだけ優しくしようと思ったり思わなかったり。
漫画本は貰い放題、ゲームなども買い放題とあれこれ楽しんでいた矢先、一番行きたかった宿屋が見えてきた。
ペンダントの効果は強く、転移者どもが最初のところでいきつまるであろう難関、宿屋の民泊代でさえも一週間無料、その上極上スイートルームまでご用意してくれた。
俺たちが寝る布団は柔らかくそれでいて体が静まるように設計されていて、近くにはエアコンらしきものが2台付いているという超極楽気分を味わえるところ。
俺の思い描いていたカプセルではなかったがこれもこれでありだと思う。
そして野宿では疲れすぎていて考える前に寝ていたが女の子との二人きりの夜、八千代の部屋のベッドが何故か壊れて明日まで使えず、他の部屋も空いてないという究極かつ奇跡的な理由で、俺の部屋で二人で寝ることになった。
こんな可愛い子といっしょの部屋で寝られることができるなんて、引きこもりの頃の俺からしたらまじで幸せものだ。
神様、仏様まじでありがとう!
もし日本に帰れたら俺は絶対に月一で神社にお詣りに行きます。
偶に五百円玉ぐらい入れるからな…。
訂正しようじゃないか、まじ神ふざけんな、ぶっ飛ばすぞコラ!
おい、寝ようとしたら体七、八回蹴られたんだけど?
しまいには男の急所を無くしかけたぞ、どうしてくれるんだよ。
もうぜってー仏教なんか信用しないからな、キリスト教一筋でいくから、どうせ俺のボコボコにされる姿みてバカみたいに笑いながら宴会でも開いているんだろ?
……確証はないけど。
だいたい日本の神はそういう能天気なのしかいないって聞くし……。
八千代にこれ以上殴られると死にそうなので宿屋の美人な女将さんから藁を沢山貰い、その上にもう一つの布団を被せてその上で寝ることにした。
最初こそ女将さんは、大切なお嬢様の客人を部屋の空きが満席という理由で寝る場所がないため、藁で寝させることにかなりまいっていた様子だった。
危うく俺の見ている目の前で自殺しようとするものの、こういうのも旅の醍醐味だしなどと色々言って慰めたため、一安心したかのように胸を撫で下ろし深々と謝ってきた。
俺自身も藁で寝るのは最悪だと思ってたが、実際寝てみると自分が思っていたよりも数倍寝心地良い。
大地に包まれたような感じで神秘的、かつ解放感溢れるようないいベッドだった。
「これは本当に不幸な事さえなければ最高だったのになぁ」
そう独り言を呟き、眠気に身を任せた。
次の日、朝一で失礼お嬢様が俺の寝ているところに蹴りを放ってきやがった。
「私、あなたみたいな人初めて見ましたわ!
他人のペンダントを使って貴族の特権をフルに使ったりして散々やらかしてくれましたわね」
この女朝ぱらからかなりうるさい。
挙げ句の果て寝ているところに蹴り放たれたし、災厄の目覚めだ。
「……いや、あの後勝手に逃げたからそのお詫びかと思ってつい使っただけだって、ほら、お宅らも話している途中に逃げたからおあいこじゃね?」
そう言うとそれもそうかと言わんばかりに頭を揺らして悔しがる。
「とにかく!あなた達にはペンダントで好き勝手したぶん体で払っていただきます。
こちらにも非があるため少しずつでいいですが必ず返してもらいましょう。
そうとなったら行動あるのみですわね、稼ぎ口を教えましょう。
うーん……先ずは稼ぐのに一番儲かる冒険者をお勧めします、死ぬ確率は高いですが儲けはそれなりにあるはずです。
他にもギルドの受付人などもありますし、この国では職には困らないはずですわよ。
それと掛け持ちで二人には私の城の執事とメイドをして貰いますから、貴方達を見張るのも含めて」
……何言ってるんだこの女は、なぁおあいこだろ?
そのマリーアントワネットの鳥籠みたいな頭もいい加減にしろよと突っ込みたい。
こないだは魔王軍の幹部だし、まぁアークネスはこのお嬢様と違っていいやつだけど、ほんと不幸な世界だ。
しかも執事になれとかいってきやがる。
この鳥籠の近くで一日中?うるさいったらありゃしない。
「無理だけど?冒険者やギルドはともかくお前の下なんて絶対嫌だ、あの殺人執事もいるし、八千代もやだよな?」
「私はギルドの受付人だけなら考えます。
勝手に使っちゃったのは私達ですししょうがないですしね。
それにメイドなんてやったことありませんし、皿とか壊れて怒られたくないです、それに冒険者には憧れはするけど怖いですもん女の子だから……」
えっ……いやいや八千代さん?
あなたの戦闘力なら雑魚一匹ぐらい瞬殺だよ?
フリーザーさんも焦って第一形態から最終形態までいきなり飛ばすほど強いよ?
兎にも角にも残念だったな、鳥籠頭、ざまーみろ!お前の下にはつかないからな。
「私の髪は鳥籠ではありませんわ!そんなに言うならほどきますわよ。
それに、この話は絶対です。私もそんなに酷いことはしませんので、えぇ貴族ですから」
ごめん、何で心の中の言葉聞こえてんの?
不敬罪になりそうだから心の中で言ったのに…八千代もそうだけどあんたら超能力者かなんかなのか?
オホホと貴族特有の笑い声をあげた彼女の名前は《アクセル・フォン・セシリア》一応アルトリアのトップらしい、確証がないからよくわからないけど。
「やらなきゃ駄目?」
面倒くさがりつつ、チワワの様な心優しき上目遣いで対処する。
これが引きこもりの必殺奥義、相手の同情心を買うだ、これで今までの俺の引きこもり生活はうまくいってきたといっても過言ではない。
一瞬は退いたセシリアだが憎しみのこもった目で俺に告げる。
「やらないと国恥罪としてあなた方には牢屋に入っていただきます。私の良心で話しているのを忘れないで下さいね?」
国恥だと、何だそれ?
というか牢獄だと、お嬢様よ……幾ら何でも好き勝手すぎないか。
「……それってどのくらい重いの?最悪の場合死刑までいったりする?」
恐る恐る聞く俺にセシリアは満面の笑みでもちろんと一言。その上死ぬより辛いかもと告げるものだ。
こいつはかなり怖い、苦手だ。
俺のFPSの友達にもいた、笑顔が笑ってない人。
とりあえず話はなんだからというので近くのカフェテリアみたいな所に移動した。
そしてセシリアにはこの国の事、それからこれからやることになる仕事の内容などについて事細かく教えてもらうことにもした。
まずこの国、ローマのような街並みとかいったけど外の国からは本当にローマと呼ばれているらしい。
確かに昔、誰かと旅行でローマに行った時となんら変わらない街並みで素敵だと思った。
近未来感満載だけどな。
他には冒険者の役割、ギルド受付の仕事、執事の仕事などの色々な仕事の話などもした。
そしてローマもといアルトリアの近くには第7魔王の城があるらしく、セシリア曰くアークネスという第7魔王の幹部を探しているらしい。
アルトリアでは魔王の次に一番の強敵とされ、そいつが通った後は草原が血の色とかしているらしい。
……そいつ俺の妹分なんだが。
だけどアークネスがもし仮に俺たちと関係があることが知られたらそれこそ俺たち牢獄じゃないのか?いや牢獄だけならまだいい、死ぬとかないよな?いくら軽く死ねる身体と言っても痛いものは痛いし、怖いものは怖いんだ。
それに一番大切なのは命を大事にすること、さすがに死に戻りできる体でも命を大事に思わないのは殺人犯と同じだ。
それに牢獄のベッド気持ちいいのだろうか?
ベッドだけはまじで綺麗なのにして欲しい、俺はそれ求めてこの世界にしたようなもんだから、あと美人のお姉さん。
だから本当に死刑は勘弁してほしい、頼むから八千代も下手なこと言わないで……。
そんな俺の不安もかなり払拭するほど速く、そしてスピーディーに一通りの話が終わりを告げ、セシリアに町を案内してもらっていると色々なものがあった。
確認として真実の口やトレビの泉のことを聞くと場所を教えてくれたので、ついでに行くことにした。
真実の口もとい、こちら呼びだと『真理裁判』では八千代に抜けない演技をしてビビらせようとすると、駄目な感じの泣きが入ってセシリアは消沈していた。
八千代には「本当にやめて下さい。もう二度としないで下さいね?」と念を押された。
逆にトレビの泉『婚約の誓い』では後ろ向きにコインを2枚投げいれると、八千代に「また来ましょうね?次は二人で入れましょうか?」と笑顔で笑ってくれた。
そしてセシリアはというと、「ふふふっ私にも来年にはかっこいい殿方が現れるのです。」といいながらコインを2枚、後ろ向きで思いっきり投げるのだが何故か近くにいたカエルにコインを投げるたび、舌ではじかれるという茶番劇を見せてくれていた。
お前はじっとしてればめっちゃ可愛いのにな?顔少し怖いけどさ、なんと言うかまぁ………頑張れ。
補足です。トレビの泉とはローマにあるもので、願い事を叶えられるという言い伝えがあります。後ろ向きに一枚投げるとまたローマに来れる、二枚投げると大切な人と一緒にいられる。三枚投げると恋人などと離婚が出来るといいます。
この時凪人は二枚の願い事を誤解していて、男女二人で投げると結ばれるということを知りません。
ただ単に投げて入れば恋人がやってくるくらいに思っています。
そして最後に真実の口は皆が知っているあれです。




