えげつない鍛治師と第二の干渉 4
お待たせしまってすいません。
「およ、思ったより早かったのう」
目を開くとやたらと体格の良いお兄さん、そしてその頭の上に乗っている老人言葉を話す子供に見下ろされる。
キャンディーらしきものを咥えた子供はそう言うと、不敵な笑みを浮かべ先程のお兄さんの頭からゆっくりと降りてくる。
「それじゃあみんな揃ったことだし本題に入ろうかの、とその前に名をまずは名乗らんとだな。わしの名はエニスじゃ!そして店名を見たらわかる通りここはわしのお店じゃ」
エニスと名乗る子供はそういうと、目の前に竜の鱗で出来ていそうな硬い義肢を起き、軽く咳払いをする。
「凪人じゃったな?それをお主にあげよう…そしてつけたまま聞いてほしいのじゃが、その義肢の代金をタダにしようと思っている……じゃが、じゃのだがその代わりやってもらいたいことがあるんじゃ、引き受けてくれんかの?」
アークネス同様、手慣れた動きで空間から一枚の紙とペンを取り出すと、すぐさま目の前の机に置くエニスとやら。
『新規物品及び事業計画書』
そこには見出しが書かれていて後は白紙のまま。
「もしかして……これを考えてくれと?」
「そうそう、そういうことじゃ」
義肢をつけ終わり、感触を確かめるため紙を手に取って考えてみるが、計画書なんてガバガバな公園を作った時以来だし何よりこの世界にまた新たな産物を加えてしまうということで何も思いつきやしない。
「見たところ品揃えはしっかりしているように見えるんだが、なんで新しいものを取り入れようと思ったんだ?」
「それは……」
あまり言いたくないのか、エリスは口をつぐみながら斜め奥の窓を見つめる。
その窓の先をよく見ると、ちょうど目先の方向にかなり栄えている店が見えた。
「もしかしてお前……あの店に客を取られたのか?」
「……」
無言で頷くエリスだが、まだ何か言いたげな様子を見せている。
「じゃ、じゃが、あっちにはないものを販売すればきっと戻ってくるのじゃ。そうすればあんなちんけな店一瞬で潰れるわ……絶対そうじゃ、そうに違いない」
さっきまで人の上に乗ってまで偉そうな登場をしてきたのに、だんだんと威厳が感じなくなってくる。
「ち、ちなみにあの店はいつできたんですか?きっと直ぐだったら開店したばっかりだから人気だと思うのですが?」
すかさずフォローを入れる八千代だがさらに消沈した様子を見せるエリス。
「まぁでも見た感じ綺麗だし経ってまだ3ヶ月ってところじゃないのか?」
それに被せるように自分もフォローを入れてみたのだが……。
「……ろ、6ヶ月」
「……半年も経っているのかよ」
「………」
何も思いつかないのか、八千代も口をつぐんでしまう。
「わかった、無茶かもしれないけどできる限りはやってみせるよ、それにこれももらった訳だし」
「ほ、本当かの!お主のBL本とやらの偉業は聞いておる。無理矢理にでもセシリアに頼んでよかったわい」
義肢をもらった為、建前上は承諾するが無茶なもんは無茶、いつか必ずという言葉を心の中で付け足しながら話を進める。
というかこんなところまで広まるBL本の拡散力にも驚いた。
「そ、それより聞きたいことがいくつかあるんだが、まずなんで入る時に幻覚みたいなことをしたんだい?」
今まで横で静かに聞いていた町子ちゃんの質問に、待ってましたと言わんばかりの顔でエリスはこう言った。
「あれは入店テストみたいなものじゃ、何か不審なものを持ってたら危なかろう?じゃから……」
「………」
エリスの返事を聞いてみんな絶句する。特に八千代なんかは口をあんぐりと開けたまま停止してしまっている。
「だ、だったら店までの案内図みたいなのは…?セシリアちゃんから渡されたんだけど…」
素に戻りながら案内図についても話す町子ちゃんだが……。
「あ、あれかの!あれも自信作なんじゃ!ただで通してはつまらないからのう、いい出来具合じゃったろ?子供でも理解できるようわざわざ一周して書いてやったのじゃ、すごいじゃろ?」
エリスは元気よく答えるが、もう目も当てられない……それは客だって取られてしまうだろ。というかこれまでがどうしてたのか気になる。
「あんなんややこしすぎるわ!特に幻覚とか一般人には無理だもんおかしなことすんな」
「おかしなことって…そんなことないじゃろう!だってそこの小娘たちなんかは秒で解けていた訳じゃし、むしろお主が遅すぎるのだ!あと3秒遅かったら入店拒否になって2度と入れれなくなるところじゃったぞ?思わず冷や冷やしたわ」
「え?あれを秒で?どうやったの?」
横にいる3人組を揃えて見るとすかさず目線を横に外されてしまう。
さらにずっと凝視し続けるとばつが悪いと感じたのか申し訳なさそうにこっちを向き、
「え、えっとですね、私は入った時なんか変だったので手を合わせて自分に猫騙ししたら……」
八千代がそう言う。
「僕は入る前に窓に当たっている光が変に屈折しているのが怪しかったから、2人がかかる前に扉の外にずれてから入ったんだ。そしたらちょうどいい塩梅で…」
町子ちゃんがそう言う。
「私はそもそも幻覚とか効かないっス。あと毒とか痺れとか混乱とかの状態異常も全部効かないっス」
アークネスがそう言う。
「ほらみんなできるではないか!な〜にがおかしいのじゃ!」
ほらみんなできるではないか、じゃねぇ。みんな人間じゃねんだよ。一般人はそんなことできねぇもん。
というかそれで客が少ないだの言っている時点でお前の頭が一番おかしいだよ、と言いたくなるがもう色々と手遅れなので諦める。
「わかった。お前店が取られたくないんだったらまずその入店テストとやらをやめろ。そして訳の分からない案内図も今すぐやめろ」
店の活気を戻す為的確なアドバイスを促すが……。
「いやじゃ、いやじゃ、いやじゃ、絶対やめん」
「やめろ」
「やめん」
「いいからやめろ、今すぐやめろ」
「絶対やめん、何がなんでもやめん」
頑なに拒み続けるエリス。この押し問答もとうとう疲れたのである条件を提示してみる。
「じゃあやめなくていいから改良しようじゃないか。そしたらより新規事業にもプラスに働くかもしれない。悪くない提案だと思うがどうだ?」
「……う、うむ。それだったらよいぞ」
少し葛藤があったみたいだがどうやらその気になってくれたらしい、案外くそチャラい。
そしてこのままこの店を続けてたら間違いなく潰れる。折角の義肢を手に入れたのにメンテナンスができなくなっても困るからとりあえずは手を貸すことにはしよう。
そんなことを考えていると……。
「すいませんいいですか?」
先ほどまで絶句していた八千代が声をかけてくる。
「見た感じ大丈夫そうだったんで私たちは一度用事の方を片付けてきますね」
「あ、うん……あのさ、」
「じゃあ失礼しますね」
続けて話しかけようとしたところを運悪く遮られ、町子ちゃん共々颯爽と外へ向かっていってしまった。
ついでにセシリアの様子もついでに見てきてほしかったんだが仕方ない、帰りに俺が見に行くことにしよう。
「話は終わったみたいじゃの、では今からそこの赤いのを交えて会議と義肢の確認をするぞ、デカブツ2号ご飯を頼んだぞい」
体格のいいお兄さんにそう声をかけると、頷きながらこちらを手招きしエリスには聞こえない声で耳打ちされる。
『頑張ってくださいね』そうお兄さんが言ってきたのを聞いて、町子ちゃんの時のような、少し嫌な予感がした。
別作品の方も引き続き書いていくのでよろしくお願いします!




