えげつない鍛冶師と第二の干渉2
遅れてしまいごめんなさい。活動報告でも書きましたが、貨幣について書いていなかったのと、体調不良でここしばらくかけていませんでした。
随時投稿していくので、これからも是非、『ここはえげつない世界です。不幸なので精一杯生きたい、楽をしたい。』をよろしくお願いします!
「そういえばさ、俺が異世界転移者に選ばれったのがちょうど一万人目ってやつ、あれ嘘だろ?」
「あぁ、ごめんなさい、嘘だったみたいです。なんか町子ちゃんがやる気を持たせるために書いてくれたみたいですよ?」
「……だよな。やっぱりそんなとち狂った文章を書けるのは町子ちゃんぐらいだもんな、安心したよ、安心した」
そんな心底安心した様子の俺に、まだ何か言いたげな目線を向けてくる八千代。
……なんとなく嫌な予感がする。
「えっと、それでですね。その……町子ちゃんに、凪人さんは興奮した面持ちで読んでいましたよ、って伝えたら偉く喜んでたみたいで……」
「え?喜んでたみたいで……?」
「そんなに興奮してくれたなら、次の感想会にも是非招待するから伝えといてと言っていたので……」
「………は?」
いやいやいや、興奮して声を荒げてたんじゃなくて困惑して声を荒げちゃっただけなんですけど?
え?またあのエンドレスで地獄な集会に呼ばれるの?
昨日やっと解放されたばかりなのにまた呼ばれるの?嘘でしょ?
「そ、それで?いつ招待するって言ってたの?」
引きずった顔をなんとか悟らせないように聞く。
「……えっとそれが、地図のことがあまりにも衝撃的だったので……その……」
「忘れちゃったの?」
「は、はい……。でもでも明後日か明明後日、少なくとも今週中のどこがではあると思うのですが……」
そんなひどく曖昧染みた八千代の返しに、この一週間は行方をくらまそうと思った俺だが、ちょうど目の前に出された海鮮丼がとても美味しそうだったので、すっぽりと記憶から抜けてしまっていた。
定休日で閉まっていた店の代わりに俺たちが来たのは、市場が経営する海鮮食堂というところで、朝から何も食べていない俺達にとってなんともありがたい場所だった。
「それよりこの後どうしますか?定休日でしたよね?今から屋敷に戻るにしてもまた来る時にはかなり空いちゃいますよ?」
「ああ、それは一つ考えがあってさ。一応定休日とはいっても何日から開くかもわからないし、とりあえずいつから開くかだけ聞いてから帰ろうとは思ってる。それに本当に定休日だったらわざわざセシリアが今日行かせるわけないし。とにかく、まぁいなかったらいなかったでそのまま帰るだけだけど……」
「そうですね、確かにそれがいいかもです。そしたら私と町子ちゃんはやらないといけない事があるので、店に行って大丈夫そうなら別行動させてもらいますね?」
そう言うと目にも止まらぬ速さで海鮮丼を平らげ、颯爽と行く準備をしている八千代。
かなり大事な用件なのだろうか?いつも以上にあたふたしているのが感じられる。
それとは対照的に急いでいる八千代の横では……。
身体のどこにそんな量が入るのかというほどに海鮮丼を平らげている町子ちゃんの姿が存在していた。
メガネを外し、髪を結んでどこか真剣な様子。
一番驚いたのは、桶に入った大きめの海鮮丼がわんこそばのように消えてゆく事である。
次第に桶が町子ちゃんの顔を隠して行くのだが、未だに止まらない。
「町子ちゃん食べすぎッスよ!腹八分目で抑えとかないと太っちゃうっス」
俺の真横にいるアークネスにはかろうじて見えているのか、心配そうな面持ちで声を掛けているのだが止まらない。
「なぁ八千代?町子ちゃんって普段からあんなに食べるのか?」
さすがに心配になってきたので当たり障りのないように聞くが。
「いやいつもはあれの倍は食べますね。まぁ凪人さんがいるからあまり食べないようにはする、って言ってましたけど何度見てもすごいですよね」
いまさらのように八千代は笑う。
「……いやすごいなんてレベルじゃなくね?もうスタイルがわんこそばだもん」
「ふふっ、そうですね。私とあんまり体つきも変わんないのにあんなに食べるなんて、なんかギャップを感じます。凪人さんもそう思いませんか?」
八千代はそんなふうに同調させようとしてくるが、ギャップなんて可愛いらしいものでは一切ない、奇々怪界な絵面なのだ、全然賛同できない。
「あっ、ちなみに環境省の職員が使う食堂には、町子ちゃん専用の一部屋は入りそうな鍋が置いてあって、金曜日のカレーの日には追加のご飯も含めてきちんと30分以内に食べ終わりますね」
……それはすごいを通り越して怖いだろ!
そう心の中でツッコミを入れてしまうが、そんな怖さも目の前で行われている図を見ると容易に理解できてしまう。
きっと何日も満足に食べていなかったからか、気づいたらライブハウスくらいはある食堂のスペースも、半分以上は海鮮丼の桶で埋め尽くされてしまった。
「ほら町子ちゃん、凪人さんが見てますよー」
フガッ!
そんな獣のような擬音と共に、見えない町子ちゃんの手が止まったのに気づく。
「‥………」
「‥………」
やっとこちらに気がついたのか数秒間、沈黙が走る。
八千代が止めてくれたのはいいのだが、とてもじゃないけど空気が重たい。
まるで最初に八千代に東京湾のことを話された時みたいな、そんな居心地の悪さを感じる。
「……うん、ここの海鮮丼美味しいよね」
そう冗談めかしに話すと、まだ誤魔化せると思ったのか。
「う、うん。結構僕好みの味だったから美味しかったんだ。いつもはこんなに食べないんだけど…」と。
いや嘘つけ!
部屋と同等の鍋を平らげるらしいじゃないか。
「そ、それより八千代たちはこの後なんの用事があるんだ?少し気になったんだが……」
返答が返答だけに居た堪れなくなった俺は、話題を変え、八千代に気になっていた用事について聞くことにした。
「えっ?ああ、本当に大した事じゃないですよ?ちょっと町子ちゃんと二人でクズを成敗してくるだけですから」
「クズ?」
八千代が言ったクズという言葉でとある奴を思い出す。
この世界で知り合った数人しかいない男の中の一人なのだが、初対面で仕事中の女性を勝手にパーティーに誘ったり、ギルドの物を壊しては何ともないような顔をして、周りの静止も聞かずに終いにはギルドの中で暴れようとするクズ。
「ちなみにどう成敗するの?」
「ああ、それは僕から。今は大体3つほど案を考えているんだけど、玉無し竿なしの性転換化か、八千代ちゃんの治癒能力でエンドレスに虐めてあげるか、まぁあと一つは言えないけど、とにかくそんな感じかなぁ」
最後の海鮮丼を食べきったのか、お腹をさすりながらそんな話をする町子ちゃんだが、正直やり方はかなり酷い。
「それで凪人くんはどれがいいと思う?」
町子ちゃんは出されたお茶をさましながら、続けて究極の3択を聞いてくる。
実際自分が受けるわけではないからどれでもいいのだが、強いて言うなら一番にはならないでほしい。
あんな気持ち悪いやつの性転換なんて誰も喜ばないし、次会ったら見たくない、というかまず次会ったらとかいうレベルじゃなくて会いたくないのだ。
「一つ目だけは勘弁してあげてくれ。同じ男だからその辛さは考えただけでも身震いするから」
俺の返答が気になったのか、前のめりで聞いてくる町子ちゃんに、さりげなく本音とは違った言い方し伝える。
「わ、わかったよ。凪人くんがそう言うなら一番はなしにするよ」
納得していない様子の町子ちゃんだが、俺の表情を見て理解はしてくれたらしい。
ひとまず災厄な選択肢は消え去ったみたいだ。
グッジョブ俺。言えない方の選択肢は気になるけど、よく一番を取り除けた。まじでグッジョブ。
そう思いながら、食べ終わったみんなを尻目によちよち歩きで会計に移ろうと席を立って移動する。
『ねぇ兄貴?もし女の子達と万が一の億が一、一緒にご飯を食べに行くことになったらあんたが先に払わせておくのよ?
それで何事もなかったかのように払っといたから帰るかって言うの。そうすると少なからず女子からは好感が得られるわ」
そう言っていた妹の言葉を思い出し払おうと思ったわけなのだが……。
「はい、会計ですね?では帆立魚、ニギリ、大湖井魚の刺身3点盛りが2点、リヴァイアサンの唐揚げが2点、エールが4点、海鮮丼が1920点、以上で合計が350金ステラになります」
颯爽と電卓機みたいなもので計算をし終えた美人な店員さんが、意味不明な額を要求してきた。
「……あれ?桁二つくらい間違えていませんか?」
「ざっと合計が350金ステラになります!」
そうだった。町子ちゃんか八千代がいないとこいつらは金額が払われるまで同じこと言うんだった。
「あの……持ってないです」
俺がそう答えると、バシッという音がするほどに顔を平手で叩かれて……。
「ざっと合計が350金ステラになります」
そうまた繰り返す。おい痛いじゃねぇか。
片手で巾着を広げ中を見るが、持っている金額は立派な義手たちを買うためにセシリアからもらった白群ステラ一枚、つまりは200万円のみ。
支払うお金は350金ステラだから350万円だとすると当然それを出しても余裕で足りないだろう。
「……凪人さん何しているんですか?」
会計をしている俺が見えたのか、未だに食おうとしている町子ちゃんをアークネスに任せ、八千代がやってくる。
「実は値段が高くて義足分を入れても金が払えないから困ってたんだ」
「えっ、そうなんですか?最初から言ってくれれば私も出しましたのに」
「……いやでもご飯は男が出すべきだろう?悪いと思って言わなかったんだけど、今回はそんなこと言ってられなよな」
「たしかに町子ちゃん、ここにきてからあまり何も口にしていませんでしたからね。きっと手足をなくしてしまった凪人さんの手前、あまり困らせたくはなかったんだと思います。それに私も気が回らなくてすみませんでした」
八千代の言葉に、気恥ずかしくも感じるが、にしても俺達3人の分を除いた1917口。流石に異常すぎる。
「ちなみいくらなんですか?」
「250金ステラです!」
「あれ?さっきと値段違くない?350金ステ……グフッ」
そう言いかけた直後、店員さんのかなりきつめのブローが腹に飛んでくる。
完全ぼったくる気満々だったんじゃねぇかよ。
「ごめんなさい。折角いい義足を買うためにお金を出してもらったのに、私150金ステラしか持ってないです。凪人さん残りの100金ステラどうにかなりませんか?」
俺が話しても埒があかないんじゃないかと思い、我慢して白群ステラを素直に手渡す。
「ありがとうございました、お返しの100金ステラです。またのご来店お待ちしています!」
そう笑顔で元気に接客をされるが、こっちとら100金ステラぼったくられかけたんだ、二度と行くかと言いたい。
「ちなみに町子ちゃん今腹何分目くらい?」
会計を終えてみてふと気になったのだが、俺が直接聞くと誤魔化しそうなので、さりげなく隣にいる八千代に聞く。
するとまだ食べようとしている町子ちゃんの方にトタタタタとかけていき、またこちらに元気よく戻ってきた。
そんな様子を見ると小動物みたいで可愛く思えてきてしまう、年上なのに……。
「えっと、まだ五分目くらいらしいですよ?本人が美味しかったからまた来るとか言っていましたし…」
「嘘だろ。あれでまだ半分とか本当に人間か?」
そうついつい口に出してしまうが、思っていたよりも全然満腹度は達していないようだ。
………いや、一応際限があると言う点ではまだマシなのかもしれない。
これで町子ちゃんが、ご飯なら無限に食べれるから全然腹何分目にも達していないよとか言ってきたら、元の世界に帰るための資金も秒で溶けていく。
……まだマシだ。そう思い、俺は思考を放棄しながら海鮮食堂を後にした。
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