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えげつない鍛治師と第二の干渉 1





八千代がトイレの前を通りかかってくれて、なんとかあの地獄の空間から逃がれることに成功した翌日、俺達は義手と義足を手に入れるためアルトリア南部の市“キズスカナタ”に来ていた。


キズスカナタは『みんなの食卓を支える都市一の直売所』という言葉をスローガンに販売をしているらしい。

たしかにスローガンとして掲げるだけあってたくさんの賑わいを見せてはいるが、怪しい葉っぱや魑魅魍魎の物体までが所々に売られていて、この市場の闇が垣間見える。


「凪人さん、セシリアちゃんが言った通り本当に広い場所ですね。種類も豊富みたいですよ?」


「ああ、たしかに元いた世界みたいな市場の賑わいだよな、所々怖い見た目のものもあるけど…」


片腕片脚を無くした手前、義手と義足を手に入れるまでの間、これから配属されるギルドの職員や今までやっていた執事の仕事も完全に休業させてもらった。

この世界にも仕事ができなくなった人のために休業手当とやらが出るらしいので10億も稼がなきゃいけない俺にとっては何よりありがたいのだが……。

俺を雇ってくれている当の本人、セシリアに休業手当はつくのかと聞いたところ、露骨に嫌な顔をされたのを覚えている。

ここにきてなんというか、どうしても払いたくないから即刻場所を教えたような、そんな気がしてならない。


「でセッちゃんから教えてもらった場所は何処っすか?何処っすか?」


鍛治師に会うのは今回が初めてらしいアークネスも、興奮した面持ちで角隠し用のローブから顔をひょっこり覗かせている。


「うーん……たしか緑と白の縞々な屋根の魚屋横、その細い裏通りをまっすぐで進んでいる途中に真っ赤な店が見えたらそこを右に、そしたら黄色い屋根の店が現れるからそれを手がかりにして南東側の黒い屋根の家を通りすぎる、少しすると白の屋根の店が見えるからその右横にある5本道の2番本目の通りの青の道を行く、青以外の屋根に行くと違う道に出るから青の屋根にしっかり入ること、そうすると赤い看板の入った電柱があるからそこをずーっと右にいった先の茶色い建物が義肢装具兼鍛治屋の家みたいだね」


「えっ?何それ?早口言葉……」


ぼんやり思いながらもそうコメントすると、町子ちゃんは「ほんとじゅげむみたい」と頷いてから、不思議そうな顔で言い放つ。

「なんかこの案内右が多いような気がするんだけどなぁ」


言われてみれば、町子ちゃんが覚えた呪文を聞いているとさっきからほとんど右にしか行っていないような気もする。

場所がわからない以上その呪文を頼りに進んで行くしかないのだが不安でしょうがない。


「えっと一番最初はそこの縞々屋根の魚屋隣の裏通りでしたよね?」


「そうそう、そしたらまっすぐ行ってとりあえず赤い店を見つけるんだってさ」


「町子ちゃん、じゃああそこの店がそうじゃないですか?緑と白の縞々、それに横にここから路地裏ですって書かれてますよ?」


八千代が指さした方向に目を向けるとなんとも不恰好な垂れ幕がそのまんまつるさげてあった。


「ここからが早いドーマ製鉄所って書いてありますね」


「じゃあそこが義肢装具士のいる鍛冶屋ってわけだね、後はひたすら案内通りに行けばいいだけみたいだね」


「それで、ここを通ったら次は赤い店でしたっけ?私にも町子ちゃんの持っている案内図を見せください。」


…相変わらず行動が早いようで、俺とアークネスは親の後ろをついて歩く小鴨のようになっていた。



◇◆◇◆◇◆


「……それでもといたいた位置に戻ってきたわけだな?」


コクコク


「うん、じゃあ今何回目だっけ?ここに戻ってくるの?」


「え、まだ8回くらいだよ?…それより3回目くらいから凪人くんもアークネスちゃんもついてこないから2人で心配したんだよ?」


「そうですよ、私達が鍛冶屋を見つけてから探そうとは思っていましたけど、魚屋の中にいたなら言ってくださいよ」


8周しても息すら上がらない2人が、呆れたような面持ちでこちらを見てくる。

呆れているのはこちらだが……。


「いやもう8回も同じところぐるぐるしているんだせ?いいかげん面倒くさいなぁって」


「そんなこと言わないでくださいよ。もうちょっとで着きそうなんですよ?赤い電柱だって見えたんですから」


「それなら俺たちだって3回も見とるわ」


俺は はぁ、という大きなため息と共にまだ懲りずに進もうとしている八千代達を止めた。


「なんでまだ行こうとしてんの?」


「だってもう少しなんですよ?次行ったらつけるかもじゃないですか」


あぁだめだ。この子達カジノに行っても典型的にすっからかんになるタイプの奴だ。


「俺に案内図をよこせ」


「いや任せてくださいよ凪人さん!本当に完璧につきそうなんです」


「いいからよこしなさいっ!」


若干オネェ口調になりながらも、無理矢理八千代から奪いとった案内図に一通り目を通すが、やっぱり最初の嫌な不安は的中していた。

案内図に書いてある言葉を言われたまんま図として書いてみるが、右にしか行っていないため振り出しに、つまり最初の縞々の魚屋に戻ってくることになる。

3週目当たりでバカな俺たちでも気がついたが、俺たちよりも頭がいいはずの八千代達が迷うなんて思いにもよらなかった。


「バカなのかな?」


ついそんな言葉が漏れ出てしまうがそんなこともどうでもいいと思えてしまうほどにひどい。


「凪人さん私達のことバカって言いました?」


「そうだよ、バカだなんて酷いじゃないか、あと3回ぐらいすればいけそうなんだよ?」


そんな子供みたいなブツクサいう言葉を聞いて、今まで溜まっていた死亡と理不尽によるストレスが爆発した。


「あと3回とか完全に言ってることがカジノにハマって抜けられなくなったやつと変わんないし、そもそも馬鹿みたいに一周も遠回りしていることにまだ気がつかないの?」


「でも……」


「でもじゃないわよ。バカな俺でも3回目で気がついたわよ?これじゃあ本当にバカと天才は紙一重じゃないの!方向音痴すぎじゃない!」


「………ぐすっ」


……えっ?まさか……。

無意識にオネエ口調を出してしまったがそんなことを感じる暇もないほど八千代の泣き出しに狼狽してしまう。



「だって、だって凪人さんの役に立ちたかったんですもん。ばかぁぁぁぁぁぁ……もう……知りません」


「ごめ、ごめんて八千代、俺が悪かった。ちょっとストレス溜まってイライラしてたんだ。強く言っちゃってごめん。それから意味不明な(?)オネエ口調もごめん」


そんなこんなでこれでもかというぐらいに頭を下げなんとか許してもらった。


「それで、私達が迷っていたのはわかりました。次は凪人さんが私達に行き方を教えてくれませんか?」


「ああいいぞ、行き方なんて言ったってすぐそこだもん」


「すぐそこなんてまたまた、さっきも4時間かけても見つからなかったのにすぐそこなんかにあるわけないでしょう?」


「ほれ、あっち」


「はい?」


簡単な話最後に魚屋に戻ってくるわけだから、魚屋から右の通りに見える茶色いボロ屋根の所がお目当ての場所なわけで。


「なんで……」


「いやだからずっと遠回りをしてたんだって…」


鍛冶屋を見るやいなや八千代の顔が徐々にしょぼくれてく。

その隣で…。


「早く言ってよ〜」


町子ちゃんの顔もしょぼくれてゆく。


そんなしょぼくれた2人を引き連れ、鍛冶屋の前に来たのだが………。


「定休日」


その一言の看板でみんなの顔が再びしょぼくれていった。



面白いと思ったら☆と感想聞かせてください!

もう一つの作品の方も随時進めていきます。

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