えげつない悪魔とBL本と町子ちゃん!2
かなり書くの送れました。
もう失踪したと思って見てない人もいると思うけど小説一巻分は必ず書きます。
また書けて嬉しいです。
ついでに前の話のおかしいと思ったところも自分なりに直したので見ていただけると幸いです。
馬車が大きく揺れるのと同時に、ふて寝をしていた俺は閉じていた目をかっぴらいた。
馬車を運転してくれていたおじさんが慌てて止めたらしい。
横にいたはずの八千代をみるが何故か消えている。
「おじさんなんかありましたか?」
「あ、あああああんちゃんか!魔物だ、し、しかもただの魔物じゃないんだ、第6魔王軍幹部の不死の加法、ファルスというんだ」
誰だそれ。
急いで馬車を降り馬車の背の方に隠れると、八千代がそのファルスとやらと善戦を繰り広げていた。
「誰だか知りませんけどどうしてくれませんか?こっちは早く帰りたいので」
「……ソウハイカナイ、オレニ…コヨミザカ…ナギトトヤラヲ…アワセロ、アイツニハ…カシガアル」
そうぎこちない言葉で俺の名前を呼ぶあいつがファルスとやららしい。
見た目は半分ロボット、半分人間のキメラみたいな身体、腕から胸までは機械であり、片足も機械、ついでに口はマスクのようなもので覆われている。
なんとなく人造人間だとはわかるが、そこまであの八千代が倒せなくもない相手だと思う。
攻撃は八千代の方が圧倒しているがあいつの周りに何かあるのか攻撃が届いていない。
そういう相手はゲームでもよく見たが現実に現れると些か厄介である。
「何故俺を探しにきたんだ。お前には接点など一切ないはずだが?」
尋ねたのも束の間、問答無用で馬車を振り払い、俺の方に神妙な面持ちでやってくる。
「オマエハ…オレノオトウトヲ…コロシタ、デモ、ビーエルトヤラヲ…ツクッテクレタノモオマエ、アレハナカナカヨカッタ……ダケド…ヤッパリオマエタオス」
十ニ分にあったファルスとの距離も3メートルとなりこのまま攻撃されたらどうにもできない位置までこられてしまった。
今は八千代がなんとか止めてくれているもののこのままじゃ拉致が開かないのは目に見えてる、何かできないか、何か使える手だてはないだろうか?
自分に言葉を聞き返しても何が始まるわけでもない。
隙を見ておじさんを避難させたので被害は最小限抑えてられただろう。
だけど八千代も疲れている上この距離ではどうしようもないのかもしれない。
俺の前に出て必死にいろんな角度から覚えた魔法を打ってくれているがかすりもしない。
いつも簡単に使っている『イカズチ』の威力も落ちてきているし、新しく覚えたらしい『パニッシュメント』という魔法もMPかなんかが切れているのだろう、打とうとするものの力が込めずにいるみたいだ。
それにアイツの言っていた弟分とやらがわからない限り話し合いもできそうにない。
BL本を褒めているように聞こえたのだが、なんとかそれを使って、八千代が回復するまでの時間を少しでも稼ぎたい。
見た感じ男っぽいが、男でBL本が好きとはかなり珍しい。
否定はしないが相当極端な性癖なんだろう。
丁度八千代の地面に転がった荷物中に、まだ一冊残っていたはず……。
一冊だけじゃすぐ読み終えてしまうから、これと町子ちゃんのあんまりいらない本も合わせればいい感じの時間は稼げると思う。
「なぁ、ファルスとやら。これをあげるから一旦落ち着いてくれよ、ほら二冊もあるぞ!ここに置いとくから先ずはそれを読んでからにしようや」
俺の言葉に反応したのか、身体をピクつかせながら置いてある本に手を取る。
ファルスの反応を見て、これはかなり時間が稼げるかもしれない、そう思っていたのだが、結果から言うと馬鹿な考えだった。
BL本を見た瞬間、たしかに殺気はなくなってはいたんだが、町子ちゃん、あんたの本が悪かった。
あんたの本の表紙を見た時、奴の顔は変わってしまった。
そのまま逆上したファルスは、ものすごい剣幕で八千代をみることすらなく俺の方に突っ込んできた。
少しは稼げてたのか、それに気がついて止めに入った八千代は、その突進を全身を持って止めるが遥か遠くに身体ごと吹っ飛ばされていった。
八千代のおかげで幾分か弱くなった突進も、なんとか避けようとするがまるで身体がついてこない。
ファルスが目と鼻の先に来た時になってやっと、左によけることに成功した。
「おい、あんちゃん!手と足が…」
おじさんの声で、さっきまであったはずのものがなくなったのに気がつく。
「――な、なん…でだよ。俺の…手は……?あ、足は…….?」
さっきまであったものとは対照的に、黒く、そして生々しく流血した肉の塊が服の袖から垣間から現れる。
「なぁしっかりしろ、あんちゃんまた攻撃が来るかもしれないんだぞ!?気を、気をしっかり持て!」
おじさんにそう言われて、なんとか我に帰り、必死の思いで前を向く。
垂れ流しになった血をうまく能力の応用で逆流させ、その後能力の使用をやめて垂れ流しにする。
それを繰り返すことでなんとか擬似止血をしているが、今まで一度しか使ったことのない能力、きっと数分も持たないだろう。
正直痛すぎて死んで楽にはなりたいが、それもできない。
おじさんがいる手前、ここで死んでしまったら次の標的は彼になってしまうかもしれないのだ。
なんとか逃げて体勢を整えたいが、片手片脚である以上、立つこともできない。
なんとか血の減りを抑えてはいるが、少しでも気を抜いたらもう逆流すらできなくなりそうだ。
手にはかろうじて肉が残っていたが、右足の残りからは折れた骨も見え、セシリアからもらったズボンは血だらけ。
たとえこのまま蘇生ができたとして、失った手足が治るかどうかわからないだろう。
それに吹っ飛んでいった足も、ファルスに踏まれて、破裂していてみるに耐えないことになっている。
もう死ぬしかないのかもしれないと思うと、怖い気持ちと情けない気持ちがたくさん溢れてくる。
「コレデ…アークネスネエサンノ……ブカダッタアイツモ…ムクワレルダロウ」
ファルスの言葉を聞いて久しぶりに思い出した。こっちの世界に来て最初に戦った敵、そして大事な妹分。
あぁ……アークネスか。妹分として可愛がっていたけど、八千代が吹っ飛んでいって、その間に俺の身体も消えてなくなったら、今度こそ蘇生どころじゃないだろうな。また会いたかったんだけどな。
アークネスが魔王軍幹部だからか、他も大体同じくらいなんじゃないかって舐めていた。
こんなのじゃあ魔王相手に靴舐めさせることもできやしない。
そんな懐かしいようで、どこか歯切りの悪い思い出が今更死ぬ間際になって思い起こされるのだ。
ファルスはお決まりの悪役のように、最後に一言ばかり遺言の時間をとってくれているだろうか?何もせずじっとこっちを見下ろしている。
逆流をやめ、なんとか踏ん張りながら覚悟を決めるために器用に片足で座り、最後に一言。
目の前に破れた小さな紙に残る最後の力を込めて溢れた血でアークネスと書く。
「なぁ、ファルスだっけ?確かにあの本では割りに合わないよな……せめてもの置き土産だ」
◇◆◇◆◇◆
「……兄貴?今やっと午後のティータイムが終わったのに何ですかい?まぁ兄貴と姉御の頼みなら引き受けますッスよ?」
やっと出番がきたと思い目を開けると片腕片足のない兄貴が、血で書かれた紙を持ち倒れている。
「……なんでだ、誰に?どうして?………兄貴をこんなにしたのはどいつだ。八千代姐さんまで吹っ飛ばしやがって、許さねぇ」
周りを見てみるが、何でいるのかわからない同僚のファルスと、おっさんと、岩にぶつけられて遠くまで飛んでいた八千代姐さんのっぽい痕しかいない。
ファルスは第一に攻撃力が皆無のはずだからパス、八千代姐さんは吹っ飛んでいったからパス、となるとあのよくわからないおっさんが犯人だろう。
「おい!そこのおっさん、てめえあたしの兄貴になんてことしたんだ。殺してやる。なぁなんでこんな事をしたんだ答えろ」
「めめめめっそうもねぇ、あんさん達はおいらを壊れかけの馬車ごと助けてくれたんだ。
やったのはあのファルスとかいう奴でよ。彼らのかわりになんとかしてやってくれ」
……いやファルスの攻撃力は皆無なはずだが、言われてみればたしかにこのおっさんからは人っ子ひとり殺れるほどの気力も感じない。
「……オレガコロソウトシタ。
ネエサン、コイツラ…オレタチノオトウトブンマデコロシタ。ダカラオレモ……コロシタ」
ファルスはそう言葉に出すが、兄貴達がやったとは思えない。
確かに一度姐さんたちには殺されそうになったが、
あの時姐さんは殺すことまではしなかった。
それに兄貴がうまく止めてくれたから、大怪我はしたものはいたが、幸い死亡者は出なかったはずだ。
そんな考えが脳裏を横切るが、目の前の惨劇を見て我に帰る。
攻撃力のないファルスがどう倒したのかはわからないが、まだ息のある兄貴をなんとかしないと、本当にこのまま死んでしまうかもしれない。
「なぁファルス、いいかよく聞け。お前の弟分を殺したのは兄貴達じゃねえし、その時私もその場にいた。
兄貴達とは言葉で通じないならと戦い、そして私たちは敗れたが、誰一人として殺されはしなかったし、そのことで人間により寄り添い合うことができそうになったんだだよ。
なぁ?いったいお前は誰からその話を、兄貴の名前を聞いたんだ」
私の話がしっかり聞こえたのか、申し訳なさそうにし、ファルスの怒りが徐々に和らいでいくのを感じる。
「……オレハ、アサナントカ…トイウヤツニイワレタ。
トクニ、コヨミザカヲ……ジュウテンテキニヤルトイイ、ソウハナシテクレタ」
兄貴にとってその浅何とかって言うやつがどんなやつかは知らないが、十中八九そいつだろう。
兄貴は私が認めるほど器の大き奴だから、他に兄貴を悪く思う奴も出てくるだろう。
まさかこんな形で弟分と敵対することになるなんて思わなかったが、悪魔というものは面倒くさいと。
「ごめん……私に免じてこの場はなかったことにしてくれ。勿論私自身、このことで魔王軍の幹部の役職は降りる。
そして今私達に近づくな……次はお前を殺しかねない」
ファルスにそう言うが、これでも感情を抑えた方だ。
きっとこのまま事情を知らなかったら自分の弟分に手をかけてしまっただろう。
「ソレハ……シラナカッタ。ヤクソクハ…マモル、ダカラ…アサナントカヲ…ネエサンモ…タノム。ソシテ………サヨウナラ」
「……あぁ……わかった。魔王様にも……伝えてくれ」
私は精一杯の声を振り絞って弟分に別れを告げる。
よかった。ここであいつに手をかけていたらきっとなにも知らずにそのまま自害していたかもしれない。
これは契約して初めて大きな恩返しができるかもしれない。




