えげつない始まりと異世界生活
趣味で書きました。見てくれると嬉しいです。
……始まりはある一つのアンケートにあったと思う。
そうあのアンケートさえ真面目に解いていればよかったのだ。
セミにとっては晴れ舞台である時期。
そして学生にとっては唯一と言っていいほどの休める時期でもあろう。
そんな引きこもりには一切関係のない日に、政府の人が引きこもりの中の一人である俺を更生するため、夏特有の暑い日差しが降りしげる中、黒スーツ姿に黒ネクタイという、いかにも裏社会からこんにちはをしそうなおっさんが挨拶をしてきたのを今でも覚えている。
いつも政府の調査の日には美人のナイスバディなお姉さんが来るはずなのに、今日に限って強面で俺の体の2倍はあるであろう筋肉の塊みたいなおっさんが来てしまった。
素手で熊ともやり合えそうなおっさん、仮に彼を2倍筋肉と呼ぼう。
俺の部屋まで行くと2倍筋肉は間髪入れず、お姉さんの時から行なっているアンケートを渡して来くる。
指示されたものは
“ニート更生アンケートバージョン9”
というもので、三ヶ月に一回ほどやっているものだから手慣れてはいるのだが、今回のはいままでのアンケートとは少し違うらしい。
『今の生きている世界に不満はありますか?』だとか、『もし異世界に行くなら何がしたいですか?』などと本当に意味不明な馬鹿らしいアンケートなのである。
『注意書きには適当に書いてください、やり直しや訂正等一切を受け付けません』
などと脅してくるが、やっているのも馬鹿らしいし、いつもの美人お姉さんじゃないため、全てを雑にはいと記入し、すぐ終わるように書く。
途中、『自分は死ぬほど幸運ですか?』とか今まで以上に意味不明なことも書かれているので、怖すぎてやる気が湧くどころではなかった。
俺が紙を書き終えると、2倍筋肉は餌に魚がヒットした時のような、そんな少しニヤついたような顔し、続けていつもの生活調査などを聞いてくる。
普通なら感覚的に終わっていてもいいくらいの時間なのに、いつもより遅く感じてしまう。
まぁあんな美人な人から急に野生のボスゴリラに変わるんだ、遅く感じるのは仕方ないことなのかもしれない。
そう思いながら話を聞いていると、あらかた説明をし終えたのか2倍筋肉は帰っていく。
帰って行く2倍筋肉を尻目に、やることもない俺は部屋を暗くし、ベットにゴロゴロと横たわる。
すると、さっきまでは全然平気だったのに、よほど2倍筋肉が強烈だったのだろうか、まぶたがだんだん重たくなって、暗い部屋の静寂さが眠気を誘い、ゆっくりと深い眠りに落ちてしまっていた。
◇◆◇◆◇◆
「おーい、…起きましたか?暦坂さん?」
気がつくと俺は、知らない場所で知らない幼女に布団をひっぺがされ、無理矢理と言っていいほどに起こされる。
その空間は辺り一面真っ白く、やたらと風が吹き鬱陶しい。
そんな何もない空間に一人、さっき俺の布団をひっぺがしたであろう少女がこちら側を覗いて軽い笑みを浮かべている。
まだ中学生ぐらいだろうか?
とても細い体付きで、道で困っていたら誰もが助けたくなるような、いわゆる美少女ロリに入る分類のものがいた。
そしてそんな可愛い美少女が目の前にいるのだが眠気が勝ってしまう。
人間はなんで二度寝がしたくなるのだろう?
そんなどうでもいい考えが頭をよぎるが、二度寝の欲求にかなうわけもなく、剥がされた布団を手に取り、枕の位置をしっかり固定し、アルマジロのように布団の中で丸くなりながら、思ってた言葉をついつい口の中から漏らす。
「もう一眠りさせてくれるか?」
「ダメですよ!というか今の現状を理解して下さい。そんな場面じゃないでしょ!」
「いや頼む!あと5分でいいから」
「漫画みたいなこと言わないで起きる!」
……渋々、いやほんとに渋々布団から出た俺は、スマホの画面を見た。
すると壊れているのか時間の部分だけが文字化けをしている。
「えっと、どうしてスマホが文字化けをしているんだ?」
「あっ……それは元の世界とは違う次元の場所にいるからですね」
そんなことを口にしながら、俺の体を足から頭の上まで貪るように見て、何か言いたげな視線をむけてくる美少女ロリっ子。
「それより私からも一つ質問良いでしょうか?あの……非常に言いにくい事なのですが、どう生活をしたらそんなに身長が伸びるのですか?」
「……え?」
「急に聞いてしまいごめんなさい。私、身長のことでからかわれていたのでどうにか伸ばしたいのです。
見たところ身長が高そうなので、何とか私の身長もあと少し、そうモデルの人たちぐらいまで伸ばして欲しいのです。何をしてもダメダメだったので是非お願いします!」
そう願望を口に出す彼女だが、それはあと少しどころじゃないだろう?
そんな無謀な願望に、ついつい心の声でツッコミを入れてしまうが、女の子との会話なんてここ半年もしていないのでかなり返答に困る。
たしか義妹曰く、女の子と話すときは皮肉やジョークを交えて話すといいらしいのだが……。
「……身長を伸ばしたいのはよくわかった。女の子にとっても俺たち男子にとっても大切なことだもんな。
だけどこの身長のせいで、ごめん置物と間違えたとか、しまいには渾名は大仏だぜ?何事もほどほどが一番だと俺は思うぞ?」
俺がそう言葉にすると、うまくいったのか小女はニヤニヤした目で手を合わせお辞儀し、とあるノートを取り出してくる。
……喧嘩売ってんのか?
「……そうですね、忘れていました。それではテンプレというやつですがあなたを連れてきた意図を話しましょうか」
そんな言葉と共に何故か彼女は歌う時のように手を天に高く広げ、こう言う。
「……あなたは1万人目の異世界転移者に選ばれたのです!私と共に異世界に行き魔王を倒し、拷問してついでに靴も舐めて貰いにいきましょう!」
なんてこった……つい少しくらい前の美少女ロリというのを訂正しようじゃないか。
やばいサイコパスだこの子。
「……」
俺が動揺して何も話せないでいると焦ったように顔をあわあわさせている幼女。
「いえ別に倒さなくても、靴なめさせなくても良いのですが、マニュアルにそう書いてあるので言いたんです。
要するにやる気付けさせるためかも………。
あの………ごめんなさい……。いや何故か他にも魔族の拷問の仕方とか書いてあるので、あながちやる気付けだけではないような気がしますが、なにぶん初めてなので私にもわからないです……ごめんなさい」
……さらに訂正、これはマニュアル作ったやつがキチガイだ。
「……どんな世界に行かされるんだよ。魔王の拷問とか、靴を舐めるだとか……ごめん帰して、帰してくれたら何でもす…」
「ん?今なんでもって言いました?
というか帰すのは無理なんですよ。
今あなたの精神だけをここに連れてきているわけですから、そう容易くは返せません。
それにですね。どんなに感の良い人でもここから帰る扉に着くには私なしだと7時間近くは彷徨うと思いますし、帰ってもあなたの居場所が無くなってしまったのですよ?物理的にも……」
……物理的?
「ええ帰すことが出来ないのです。
物理的なことはというと、まぁ……あの……非常に言いにくいことではあるのですが……、今ご家族様があなたのことを……その……縄で布団に縛りつけて、東京湾に沈めている最中ですので……今帰ると汚い海の中にぽちゃんです。えっと……可哀想ですね……」
そう言うとさらにカバンからモニターを取り出し、俺に見せてくる。
「………は?」
そこにはトラックから出てくる見知った顔の人が3人とマッチョな人が一人、そして寝袋に包まれ、足に気持ち悪いほど鉄球をつけられている俺に似た髪型の人が映っている。
鉄球が重たいのか3人だけでは下ろすことが出来ず、後ろにいたマッチョが近づいてくる。
「やめてくれ!その寝袋のやつを下ろすな!おいムキムキのやつ、手伝うなよ。
……とゆうかお前絶対2倍筋肉だろ、ふざけんな!なにお前加担してるんだよ、帰ったんじゃないのかよ!あっ……」
ハンマー投げのように海に投げ出される映像と共に、俺の頭も思考を放棄し真っ白になる。
そんな混乱して場が静まり返っている中、さっきの少女が先に話しかけてくる。
「……お気持ちお察しします。それよりまだ自己紹介もしてませんでしたね。
私は環境省・日本支部異世界労働管理局・サポート援助課の佐藤八千代です。
ちなみにこれでも19歳です、年上です。
今日からあなたのサポーターとして一緒に異世界に行くことになったのでよろしくお願いしますね。まぁ名前は普通に八千代と呼んでくれれば嬉しいですね」
もう考えることもやめたので、自己紹介に耳を傾けるが、こっちの方も中々に突っ込みどころが多すぎる。
まず異世界を見つけるなんて日本政府さん凄すぎでは?さっきまであんなに気狂いな文章書いていたのに……同一団体なのだろうか本当に。
そして改めて八千代さんを見るが、まじで中高生くらいにしか見えなくて怖い。
百歩譲って同級生とかならまだわからなくもないけど、俺よりも歳上なんて……年齢詐欺にもほどがある。
「えっと……八千代さんって呼べばいいですかね?」
さっきまで高校生、下手したら中学生だとばかり思っていたからタメ口をしていたが……。
「はい大丈夫です、でもさんは不要ですね。呼び捨て、タメ口で構いませんよ?」
どうやら気分は害されていなかったようで、
タメ口でよかったらしい。
「わかった。俺の名前はわかると思うから適当なあだ名を付けてくれれば良いよ。
それよりさっき言っていた身長のことだけど今いくつなの?それがわかんないと俺伸ばす方法教えられないんだけど?」
「ちっ」
おい今舌打ちが聞こえたぞ!
「本来は教えませんがいいでしょう、これも身長を伸ばすためですからね。やむおえまい、お教えしましょう。
私の身長は140㎝です。これは決して誰にも話さないでくださいね?他言無用、私達だけの秘密です」
そんななりで秘密の約束を勝手に付けられるが、こんなにも嬉しくない二人だけの秘密あるだろうか?
今までにないほどの重大な約束になりそうだ、なんたって八千代めっちゃ睨んでるし。
いや黒幕みたいな凄い邪悪な顔している。
……これはむやみやたらに話題にしたら殺される類だ、やめとこ。
「それにしても本当にちっちゃいな?八千代、まるで……」
「はぁ………ちっちゃいですか」
秘密の次は地雷を踏んでしまったのかもしれない。
《《ちっちゃい》》、たかが少しからかっただけのその一言が八千代の顔を化け物へと変えてゆく。
いわゆるタブーに触れてしまったというやつだろう。
「……調子に乗りましたすみまひぇん」
そんな地雷をあっさりと踏み抜いていった俺は、どっかのバトル漫画かと言われるほど顔面にパンチを叩き込まれる。
危うくどっかの吸血鬼のようにロードローラーを持って来るような勢いだった。
「これだけすればもう悪口も言いませんかね?ついでにあと三十発くらい叩きこんどきましょうか?」
そんななりで軽く言われるが、ここでも殺されるのは勘弁なので必死に首を横に振る。
「そもそも私はちっちゃいとか、ミニマムとか、ちんまりとかそういった卑下する言葉が一番嫌いなんですよ昔から!」
そう憎しみたっぷりにいう八千代をみて、八千代の前ではちっちゃいは禁句と肝に銘じておくようにしようと心に深く誓うことにする。
……というかちっちゃいだけでこれは普通じゃない、もんの凄く怖いもん。
「はい忘れました。何言ったかもう忘れました。これ以上は顔の原型が崩れます。おやめになった方が宜しいのでは?」
我ながら雑な返しをするが、顔が美少女に戻っていくのでひとまず安心することができそうだ。
「ほんとですか?本当に忘れたんですね?まぁ、これ以上やるのは私も気がひけるのでこれくらいにしましょうかね?」
「 ……それとあとでゆっくり異世界のことは説明するつもりなので、とりあえず行くのか行かないのかだけ決めて下さい。
ちなみに行くならいくつか特典もつけるつもりです。異世界に行った方がプラスだと思いますよ?だって東京湾ですしね?それにたとえ戻らなかったとしても、行かないとこの場所に一人、この場所は何もないですからやめた方がいいですね。さあどうします?」
本当になんでこんなことになっただろうか?
さぁどうしますかとか言われたって結局行くしか選択肢がないじゃん。東京湾だろう?
「……行くよ。どうせこうせ戻ったら未来ないし、特典尽くし」
「そうですよね、それしかないですしね。では次にどんな異世界に行きたいか選びましょうか凪人さん」
「………へ?」
俺はまたもや彼女に驚かされた。なんとどの異世界に行けるか選べるらしいのだ。
「八千代、本当に異世界選んで良いの?」
「えぇまぁ私たちからのささやかなプレゼントだと思って下さい。それにこれも特典の一部ですから」
そう彼女が言い終えると、突如として目の前に現れたモニターから本当に日本ではない異空間に来ているであろうことが醸し出される。
モニター越しには色々な世界が映り出されている。
今まで会ったことがない感覚、というのはこういうものなのだろうか?
気づけば興奮した面持ちで俺は目の前にあるモニターを見ていた。
すると異世界の情報などが事細かに写っているのが見え、より一層異世界への興味が注がれる。
「とりあえず種類としては魔王軍に支配されそうな世界だとか、魔法が使えたりする世界などいろいろありますね」
「じゃあどちらの要素も入った世界とかもある?」
「はい。ありますね」
「じゃあ魔法が使えて、魔王軍と人間との戦いがあって、宿屋の娘が美人で、宿屋の代金が安く済みつつふかふかのベッドがある世界とかある?」
「………注文が多いのですが一様探しておきますよ?」
「頼む」
………。
「あの一件だけ見つかりました。でもやめといた方が良いですよ?ここは後々大変ですし……」
ここでもう少し考えていれば、八千代の忠告を聞いていればよかったであろうに、画面の前の目新しさに我を忘れ、安易に選んでしまったのも敗因だったのだろう……。
「ほんとか?大変だろうけどふかふかだろ?それに美人なお姉さんもいるんだし文句言ってたらキリがない。そこにしよう」
「……わかりました。今登録するので待っていてください。でも後悔しないでくださいね?私は言いましたから」
少し怖いがそこまでのリスクがある方が燃えるだろうし、特典があればニートの更生として行く異世界でも十二分にやっていけるだろう。
「……では登録完了はしたので最後に自分の伸ばしたいところや替えたいところを一つ言って下さい。魔力でも筋力でもなんでも良いですよ?」
またまた八千代に驚かされる。今度は能力を伸ばすことができるらしい。
こうなれば少しふざけたことをしてもバチは当たらないだろうし、求めていた異世界でもこの技能でもニートから勝ち組になれるかもしれない。
そして俺はいつもゲームでしか使ってない空の頭を面白おかしい方向にに全神経を振りかざす。
「………顔をイケメンにすることでお願い出来るか?」
そして出たのがこれだった。自分の浅はかな考えで馬鹿みたいに思えるけど、この負け組の顔からおさらば、そしてイケメンなら勝ち組にはなれるはずだし、ハーレムの旅になると楽しくなるのではないだろうか?
「わかりましたイケメンですね?……は?イケメンですか?なんかもっとこう強い脚力だとか、腕力を伸ばすとか、強い武器とかじゃなくて良いのですか?はっきり言ってダサいですよ?というか顔だけ変わっても意味ないと思いますし」
……クソダメ出しされた。
しょうがないだろ、俺の数少ない頭で思いついた考えなのに。モテモテになりたいじゃん。
「さっきの顔まだ治ってないし、イケメンって大抵何でも出来るじゃん?一応中学の時は身体能力だけはよかったわけだし、多少なんとかなるかなって思ったんだよ………ね?」
「そっ、そうですね。じゃあイケメンになるようにしときますよ?一応一般的な女子から見たイケメンになるよう努力してみますが……」
野望とはかけ離れた回答をするが、これにも真面目に返事を返してくれる八千代は本当に天使ではないだろうかと疑ってしまう。実際には悪魔の側面もあるのだが。
そして了承をを得た俺に、何処からか光が差し込んできてグミみたいに柔らかく身体が伸び縮みし、変形していく。
顔はあまり変わらないが、長く伸びていた髪がさっぱり抜け落ちて、骨格も少ししっかりしてきて、若干だが痩せたようにも見える。
そんな自分の姿を睨めっこしていると、地震のような大きな揺れが辺り一面に響いて、突如、左の空間の中に立派な橋が現れる。
「じゃあ行きましょうか。この橋を渡ればすぐ異世界です」
……なんかすごい。
「これ渡ったら何処に出んの?」
「わかりませんけど多分街中ではないと思いますよ。騒ぎになるので」
「じゃあ行くか…って本当にこれ行って良いの?あれ俺がおかしいのかな?なんかゴウゴウ聞こえるんだけど?
こっちへ来いってどこからか言われたんだけど?奥の隙間になんか赤い付着物あるよ?あれ絶対血だよね?黒い手がたくさん見えるよ?八千代さん……?」
やだやだやだやだやだ。むりむりむりむりむり。
これを渡るんだろ?馬鹿なの?
「はぁ……行きますよ」
そう言われが行きたくない俺は、無理矢理に橋の外側についてる手すりを両手両足使いながら捕まって抵抗しているのに、なぜか軽々しく片手で八千代に引きずられ、光っている橋の向こう側へと連れてかれた。
八千代さん?片手は人間じゃないだろ⁉︎