モルモン教遭遇体験談
それはとある秋の事。
残業で遅くなった僕は、帰宅の路を夜中の十一時くらいに“迂回”して歩いていた。これにはちょっと説明が必要かもしれない。
引っ越しをして僕の家は随分と駅の近くになった。お陰で随分と便利になったのだけど、その所為で歩く距離が短くなり、僕はちょっとばかり太ってしまったのだ。それで試しに、大きく迂回して帰るようにしてみたら、それだけで3キロは痩せた。それ以来、僕はずっとこの習慣を続けていて、その時も大きく迂回して自宅を目指していたのだ。
因みに、肩こり腰痛は、腹筋と背筋を鍛える事で、首の痛みは首を鍛える事で、股関節の痛みはお風呂上りに軽いストレッチをする事で、それぞれ随分と軽減した。もしも、苦しんでいる人がいたなら、ネットで検索してやり方を調べてみると良い。それだけで随分と楽になるかもしれない。
いきなり話が脱線した。元に戻す。
そんな訳で、僕は深夜の路を一人きりで歩いていた訳だ。いつも歩いている路とはいえ、やっぱり少しくらいは不安になる。人通りも少なかったしね。
それで辺りを警戒しながら進んでいたら、ある時に奇妙な気配を感じ取ったんだ。背後から何かが近づいて来ている。
怯えながらも、僕は後ろを振り返った。すると、そこにやたらに恰幅のいい白人男性の二人組が、マウンテンバイクに乗って颯爽と現れたのだった。
僕は軽くパニックになった。
「え? なに?」
と、心の中で疑問符の伴った声を上げる。
正直、意味が分からなかった。どうして彼らは二人組なのだろう? どうして深夜にマウンテンバイクに乗っているのだろう? どうしてこんなに太っているのだろう?
とにかく、普通じゃない事だけは確かだ。もし襲われたら、絶対に勝てない。相手は二人いるのだし、何度も強調するけど、身体が大きかったし。乗っているマウンテンバイクが小さく見えるくらいに。
怖い。
想像して欲しい。深夜に一人きりのところに、そんなよく分からない二人組に遭遇したんだ。誰でも恐怖を覚えるだろう?
“絶対に、関わっては駄目だ!”
僕は強くそう思うと、目を合わせないようにしつつ路を急いだ。
ところがだ。彼らは無情にもそんな僕に話しかけて来るのだった。
「ヘイ」って感じで、なんだかとてもフレンドリーに。
「何処に行きますか?」
確か、そんなような質問をして来たと思う。僕はそれに「家に帰る途中です」ととても小さな声で返した。もちろん、“僕はあなた達に怯えています”アピール全開で。“だから、どっかに消えてください”と願いながら。
「ハハハ、そうですか」
ここで僕が考えた事は何点かある。
“絶対に囲まれてはいけない”
“これ以上、人気のない場所に向ってはいけない”
“家にまで付いて来させてもいけない”
そして僕は“僕に話しかけても何もならないと悟ってもらいお引き取り願う”という計画を立てたのだ。
彼らはそれからも執拗に何か話しかけて来たけど、僕は真っ当には相手をしなかった。そのうちに歩道橋が見えて来た。あれを登ればマウンテンバイクでは追いかけられないし、渡っている間で消えてくれるかもしれない。そう思った僕は歩道橋を目指した。しかし、それを察したのか、彼らは僕を呼び止めると何かを取り出したのだ。そしてこんな事を言った。
「ワタシ達は英会話を教えています。良ければ、どうぞ……」
見ると、それは確かに英会話のパンフレットのように思えた。だけど、僕には納得ができない。
“英会話の宣伝? 深夜に? しかも、マウンテンバイクに乗って?”
どう考えてもおかしいだろう。宣伝がしたいのなら、もっと人通りの多い時間帯に繁華街とか駅前とかでやれば良いはずだ。
僕は怪しみながらも「はぁ」と曖昧に頷いてそれを受け取る。僕の反応に満足したようには思えなかったけど、それからその二人組は去っていった。
それから僕は、一応いつでも助けを求められるようにコンビニの近くの路を選択して帰った。尾行されていないよね?と、やや不安を覚えつつ。
家に帰ると、僕は渡されたパンフレットをよく見てみた。見た目はやっぱり普通の英会話のパンフレットっぽく思える。だけど、何かがおかしかった。そしてその僕の予感はあるページを開いた時に確信に変わった。
“We are Mormons!”
にこやかな笑顔の人々と共に、そんな言葉が書かれている。
Mormons?
ああ、モルモン教か!
と、僕は直ぐに察した。
モルモン教というのは、キリスト教の一派で異端とされている。まぁ、こう書けば分かるかもしれないけど、怪しい噂も色々とある(飽くまで、噂だけど)。
僕はそれを見て、宗教方面の知識を得ておいて良かったとそう思った。もし、知らずに英会話のレッスンを受けに行ったりしたら、下手したら勧誘を受けて、入信させられていたかもしれない。
まぁ、元々、英会話のレッスンを受ける気なんてほとんどなかったけど……
ネットで調べてみたら、どうも僕と似たような体験をしている人は他にもたくさんいるようだった。
どうも彼らがよくやっている手らしい。
知っていて、それでも敢えて英会話のレッスンを受けたいと言うのなら止めないけど(無料らしい)、多分、勧誘されるのじゃないかと思うよ。
これは余談だけど、
ケント・ギルバートって知っているかな? 随分と昔に日本で活躍していた外国人タレント。実は彼は元モルモン教の宣教師だ。
僕はある日、彼が出している韓国を馬鹿にする本を見かけた。
「なんで、ケント・ギルバートが韓国を馬鹿にしているの?」
と、僕は不思議になったのだけど、それからしばらくして彼が今は“日本会議”という右翼系の政治団体に所属していると知った。この日本会議は、自民党の黒幕で宗教団体の連合体だとも言われている。
もし、まだ、ケント・ギルバートがモルモン教と繋がっているのなら、何か怪しい気がしないでもない。
つい最近、久しぶりに白人男性二人組がマウンテンバイクに乗って走っているのを見かけた。
今度は話しかけられなかったけれど。
……もしかしたら、近くに教団の施設でもあるのだろうか?