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エピローグ


「お嬢様――いえ、奥様」

 ジャックの求婚を受けたのち、わたしたちはパリの屋敷で暮らしていた。コレットも一緒に。バルスロネットにいるお母さまには、申し訳ないけれど新しいメイドを雇ってもらった。

 結婚式は色々と用意が大変らしく、まだ挙げていないけど、わたしはジャックといられるだけで満足だった。


 マールムとトビアスのことは、何度聞いてもはぐらかされて終わった。ジャックのことだから、そこまで酷いことはしていないと思うけど。


「奥様にお会いしたいという方がいらっしゃいました」

「誰かしら? 通してあげて」


 突然訪ねてくるなんて、誰だろう。婚約を宣言してから社交界を重ね、わたしにも友人というものができた。

「ジャック様かしら?」

「それならそうと言うはずよね」

 豊かな亜麻色の髪をした娘と、青みがかった濃いグレーの髪の娘がささやきあう。

 友人である二人の令嬢とお茶会の最中だった。





 この2人といると、自分の髪の長さも浮かずにすむ。


 わたしは現在、人間の文字を習得中だ。うんと背伸びをして、スペル練習用のノートを閉じた。


 それにしても突然訪ねて来るなんて誰だろう。婚約を宣言してから社交界を重ねているが、特に友人ができたわけでもない。




 考えあぐねていると、両扉がバンッと音を立てて開かれた。

「だ、誰なの?」

 あまりの勢いにびっくりしてしまう。ほかの二人も同様に、目を丸くしていた。


 そんな中、つかつかと、そして堂々と入室してきたのは、見目麗しい令嬢だった。

「コレット、こちらは……?」


 戸惑いながら、おずおずと顔をのぞかせた


その令嬢の後ろから駆けてきた


コレットに声をかけたが、彼女よりも先に来訪者が口を開いた。

「まあ! わたくしの名をご存じなくって!?」

 大仰に驚いた顔をして、扇でぴしっとわたしの顔を指す。そんなことをされても、思い出せない。本当に見覚えがないのだ。戸惑ってわたしは首をかしげる。


「ごめんなさい、あまり人の顔を覚えるのが得意じゃなくて……」

「あらあら、それは残念だこと。記憶をなくしたあなたの知り合いを探すという名目で社交界にデビューしたあの日にわたくしもいたというのに!」


 そう言われても、あの日声をかけてきたのは男性しかいなかったのだから、覚えていなくても仕方がない。


「そのくせ、結局ジャック様と結婚なさるなんて!」

 彼女が「バルスロネット辺境伯」ではなく「ジャック様」と名前を呼んだことにむかっとした。それが顔に出ていたのだろう。いじわるく口角を上げて、彼女は高らかに名乗った。


「ふふ、わたくしの名をその頭に刻みなさい! マリア・オーヴェルニュ、それがわたくしの名前よ!」


 それを聞いてさあっと顔を青ざめたのはコレットだった。

「オーヴェルニュ公爵……!」

 彼女の様子から、マリアと名乗る女の位が高いことがわかる。マリアもそのメイドも得意げに胸を反らしている。


「それでマリア様、このような家に一体どういったご用件で?」

 コレットの質問に、マリアがよくぞ聞いてくれましたと言いたげにツンと鼻を上げ、爆弾を投下した。


「わたくし、ジャック様の愛人になりますわ!」

「……はぁ?」


 立ち上がったわたしの隣で、友人二人が芝居でも見ているかのように、黄色い悲鳴をあげた。


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