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37 運命の邂逅



 まばゆく光を反射するシャンデリア。人間の背丈の五倍はあるだろうというような、長い長いカーテン。数えられないくらいたくさんある燭台。遠目から見ただけでも、それらすべてが高価なものだと分かる。


 そして、それらよりも圧倒的なのが――人、人、人。

 みんなわたしが着ているような色鮮やかなドレスを身にまとっていた。縫い付けられた宝石たちがこれでもかというほどに輝く。まるで神々の花園のようだった。


 極めつけは、その人々の視線がわたしに集まっていることだった。

 紹介されて出てきたんだから当たり前ではあるんだけど、こんなにたくさんの人に注意を向けられたことがなかったので、自然と背筋が伸びる。それだけにとどまらず、顔もこわばる。

 ジャックがわたしの緊張を読み取ってくれたのか――ううん、単にそういう段取りだっただけ。彼がわたしの手を取り、人々に見せつけるようにさらに一歩進んだ。


 ええ、そう、段取りどおり。


 一歩前に出たわたしは、彼らに向かってお辞儀した。


「こちらが、私が保護させていただいたリオーナ嬢です。今日は彼女のために集まってくださってありがとうございます。彼女のお知り合いではないという方も、どうぞお楽しみください」


 彼が一礼したので、わたしもつられてドレスのすそをつまんだ。


 目を上げると、さっきよりは注目はいくらかマシになったようだった。

 ほっと胸をなでおろした途端、隣に立つジャックの姿に目が吸い寄せられた。

 惚れ惚れするほど格好いい。

 髪形も服装もいつもと違う。そこから来るのか、まとう雰囲気すら変わって見えた。それがまたわたしを魅了してやまない。

 ぼうっとジャックを見つめながら、わたしは思った。

 ああ、彼はまぎれもなく、この世界の人。貴族なんだわ。


 ジャックに腕をとられ、わたしを待つ貴族の輪の中に入る。

 なれない靴でゆっくりと歩み寄ると、貴族と呼ばれる人たちは一概に美しいことがわかった。どの人も、妖精だと言っても通用するレベルだ。

 男性は礼服をきっちり着こなしながらも、小物やパターンなどに遊び心を忘れない。女性は自分こそが今宵の主役だと言わんばかりに着飾り、扇の奥からわたしを見つめている。ちょっとイヤな感じ。


 もちろんわたしも彼女たちに引けをとらない格好をしていて、それはジャックにも同様にいえた。

 さっきは不意を打たれてぶしつけに見つめてしまったけれど、今ならもう少し冷静にみられる。

 わたしは横目で彼をうかがった。


 いつものちょっと抜けた態度はどこへいったのか、きりっと前を見据えた横顔。

 髪を固め、前髪は後ろの髪と一緒に撫で付けられている。

 それだけでぐっと雰囲気が変わるのに、服装も洗練されているときた。いつもわたしの前で着ていたあの服はなんだったの?

 あの服も上等なものだと思っていたが、それの比ではない。

 濃紺の膝丈のフロックコートには大粒の金のボタン。不思議なことにいやらしくない絶妙のチョイス。ジャボはふんわり膨らみ、中の同じ色のベストに吸い込まれる。


 初めて見た貴族としてのジャックに、心ときめかない女はいないはずだ。

 事実、彼が一歩踏みしめるごとに、周囲の主に女性たちがひそひそとささやいていた。

 あまりいい気分ではない。

 こそこそちらちら見るばっかりで、わたしのジャックに何か用?



 貴族たちの輪に入るやいなや、ジャックへの挨拶もそこそこに、彼と同じような見た目の貴族たちがわたしにダンスを申し込んできた。


「ジャック……」

 どうしよう、助けてという意味で彼を見上げたのに、「行ってきなさい」と送り出された。


 目の前が真っ暗になる。

 どうして?

 ついに、本当に見捨てられてしまったの?

 わたしが気づいていない間に、そんなに嫌われていたの?


「では、私から」

 そう言って初対面の男がわたしの手を取った。

 広間の真ん中に踊り出、ちらりと振り向くと、ジャックは男女関係なく大勢に囲まれて笑顔で談笑していた。


 わたしのことは人任せで、あなたは……。

 心にすっと影が差す。音楽に合わせて体は動くけど、心は異様に沈んでいる。でも、わたしはここで引き取ってくれる人を探さなきゃいけない。


 そうだ。わたしははっとする。


 ジャックはあのとおり、もうわたしには興味がない様子だ。これから生きていくのに、彼は手助けしてくれないらしい。

 自分の人生は自分で掴まなきゃ。



 他の貴族と話しっぱなしのジャックの元には帰らず、わたしは次々舞い込んでくるダンスの誘いに片っ端から応えていた。


 踊り終わったあと、何度か結婚を申し込まれた。わたしの保護者はジャックなので、ジャックの意見を聞かなければ分からないとその場しのぎで答えておいた。


 ジャックに見捨てられた。

 それならもう、相手は誰でもよかった。

 誰でも同じだ。養子だろうが妻だろうが、生きていけるならなんでもいい。唯一分かっていることは、ジャックのことはもう当てにできないということだけだった。


 その彼が話しかけてきたのは、踊るのに疲れてしまって休憩したいなと思っていたときだった。

「リオーナ嬢、わたしとも踊っていただけますか?」

 ごめんなさい、疲れているからと返事しようとして、彼を見たわたしは言葉を失った。


「あなた……」


 男は言いたいことは分かっているというように鷹揚にうなずき、わたしの手を取る。


「踊りながら話しませんか」


 突然現れたその男性に目を奪われたまま、腕を引かれて音楽に身を任せる。

 銀色の髪に、海の色をした瞳。ほんの少し釣り目で、そして、それ以外は――特徴を言い表せないくらいに、完璧だった。

 私が感じた違和感は間違いではなかったらしい。彼がわたしの耳元に口を寄せ、ささやいた。



「リオーナ、君は妖精だね?」


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