3 お叱りを受けて、人間にさせられてしまったわたし。体が重い。もう、お父さんにもお母さんにも会えないの?
光が収まって、目を開けると、そこはお城の中ではなかった。森の中でもない。
「ここは……」
森のはずれだった。
前は、人間に踏み固められた地面が広がっている。遠くに、レンガでできた壁が見える。
そして、後ろを振り返ると、森をなす木々が。
だけど、知らない場所みたい。不気味なほど静かだった。
本当にここは、わたしの住んでいる森?
わたしは立ち上がって、よろけた。
体が重い。
それに、足元に生えた草を見、手を伸ばす。触れられた。
でも、おかしい。
わたしの知っているこの草は、こんなに小さくない。触れられるくらいに近づくと、わたしの体と同じくらいの大きさの草なのに。
今は、触れているというのに、わたしの手よりもずっと小さい。
わたしの体が、大きくなったんだ。
そんな……わたし、本当に、人間になっちゃったの?
森の中に向かって飛ぼうと力んだけど、体はその場から動かなかった。
わたしは愕然とした。
立っているのもしんどいので、また地面に座り込んだけど、このままじゃどうしようもない。
立ち上がって、よろめきながら三歩歩いた。すると、木がもう目の前にきた。移動スピードは、妖精よりも速いみたいだ。
木の幹に手をあてて、ぜえぜえと息をする。
人間の体って、なんて重いの。
何度も座り込みそうになりながら、わたしはゆっくりと森の中に入って行った。とりあえず、家に帰りたかった。
「みんな……どこなの……お父さん、お母さん……」
いくら歩いても、見覚えのある場所にはたどり着かない。
「森の外から家まで、こんなに遠かったっけ……?」
ふいに目の前が開けた。
ここはどこ?
森の暗さに目が慣れていたので、まぶしくて見えない。目を細めて見ると、そこは、
「え……?」
王様に追放されて、最初にいた森のはずれだった。
「そんな……」
この森は、人間が入れないようになっているのだ。
そのことを思い出したわたしは、最初と同じ場所で、同じようにしてへたりこんだ。
わたし、もう妖精じゃないの?
もう家に帰れないの?
もうお父さんにもお母さんにも、オルトゥスにも会えないの?
視界が涙でにじんだ。
どうしよう。どうしよう。
ひとりぼっちだよ。
もう人間としてしか、生きていけないの?
それに、どうやって暮らせばいいの?
家もないし、ご飯もない。今まで食べていた料理は、森の中で採った食材からできていた。
そもそも、体はこんなに大きくなってしまったし、妖精だった頃と同じご飯を食べても、お腹いっぱいにはならないだろう。
「どうしよう……」
このままでは、死んでしまう。
森には帰れない。……となれば、人間の町か。
わたしは、遠くのれんがの壁を見つめた。
遠いが、この体なら、二十歩くらいでたどり着けるはずだ。
二十歩も歩かなくちゃいけないの……?
でも、やるしかない。
立つのが大変で、わたしは四つん這いで歩くことを覚えた。こっちのほうが、ずっと楽だ。
なんとか壁にたどり着いた。
だけど、ここからどうしたらいいのだろう?
立ち上がってみても、壁はわたしの頭より高い。
この中に、人間の町が広がっているのは知っている。いつもは飛んでいたから、難なく中に入れたけど、この体じゃ入れない。
ピンチの時は羽が出るかも、と思って、飛ぶ姿勢になったけど、やっぱり体は浮かなかった。