表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フェアリー・キス ~人間になった妖精(わたし)は人間社会になじめますか?~  作者: 白亜 愛
2. Les Jours avec Jack à Barcelonnette 〜ジャックとの日々〜
22/42

22 手に入れた居場所

 翌日は、昨日のショックもあって屋敷から出る気にはなれなかった。

 その旨を伝えると、ジャックは心配してくれたが、本来の帰省目的である住民の問題を解決しに町に出て行った。


 ジャックの本業は、ここの王様。わたしの面倒を見ることじゃない。

 そう思うと、昨日に引き続き、気が滅入ってきた。

 オルトゥスも来なかった。

 また来るよ、って言ったのに。

 わたしはベッドの中で、声を押し殺して泣いた。




「リオーナ、入るよ?」

 ジャックが部屋に入ってきた。ベッドの中で一日を過ごして、もう夜になっていた。

「一日中臥せっていたらしいね。大丈夫かい?」

「大丈夫よ……気にしないで」

「リオーナ」


 たぶん、たくさん泣いて声が変になっていたんだと思う。ジャックが心配そうな声で、わたしの名前を呼んだ。

 それだけで、嬉しいような、悲しいような気分になった。

 今、ジャックと一緒にいられること。これから先、ジャックと離れ離れになってしまうこと。

 二つの思いが一緒になって、また胸が苦しくなる。

 ジャックと一緒にいられないのは当然。だってわたしは、人間でも妖精でもないんだから……。


 ベッドのそばに椅子を持ってきてジャックが座り、優しい声色で、わたしに話しかける。

「昨日のことかい」

「どうってことないわ」

 そんな風に優しくされると、わたし、どうしていいのか分からなくなる。だって、わたしが元気になったらパリに行くんでしょう。そうしたら最後、ジャックとは一緒にいられなくなる。身元不明のわたしを、ジャックが改めて引き取ってくれる、と言ってくれない限りは。


「じゃあどうして泣いているんだい」

 泣いていることを指摘されて、かっと顔が熱くなった。

「泣いてなんかないわ」

「じゃあこっちを向いてごらん」

「……」


 ジャックの方なんて、向けるわけがない。泣いてることを隠しきれない。

「泣かないでおくれ、リオーナ」

 ジャックが、そっぽを向くわたしの頭をなでる。

「優しくしないで……」

 また目の奥がツンとして涙があふれてきた。

「どうしてだい」

 ジャックがわたしの髪をなでながら問う。その声があまりにも優しくて、まどろみを覚える。なんだか催眠術にかけられている気分。


「……居場所がどこにもないからよ」

「記憶のことかい?」

 肯定も否定もしない。わたしは無言で答えた。

「パリに行けば、君を知っている人がいるよ」

 間髪入れずに言い返す。

「いなかったら?」

「いなくても、君を養子に迎えたいという人はたくさんいるだろうね」


 ジャックの言葉を聞いたわたしは、勢いよく体を起こした。

 それって、他の人にわたしを託すってこと?

「ジャックはわたしを、そういう人たちのもとに押し付けるのね!」

 ぱっとジャックと目が合った。

「やっぱり泣いてるじゃないか」

「……泣いてないわよ」

 バレバレなのが気まずくて、目を逸らす。


 もし君の親戚が見つからなかったとしたら、と仮定して、ジャックが口を開く。

「君は、私のもとにいたいのか?」

 その言葉に、わたしの心臓がどくんと跳ねあがった。

「だって……」

「だって、なんだい?」

 ジャックがなだめるようにして、わたしの髪をすいた。

「私はリオーナの幸せを一番に願っているよ。もし家族が見つからなくても、君がいいように暮らしていける家にもらわれれば、それが君の幸せにつながると、私は思う」


 それを聞いたわたしはカッとなって叫んだ。

「勝手に決めないでよ!」


「え?」

「わたしの幸せは、ジャックが決めることじゃない! それに、知らない人の家に行くなんて嫌! わたしは……わたしはジャックと一緒にいたいのに……」


 言葉の最後の方はしりすぼみになって消えていった。わたしがどう思っていても、わたしをどうするかを決めるのはジャックだ。ジャックがわたしをお荷物だと思っていたら、どうしようもない。余計にわがままな奴だと思われただけだ。


「ごめんなさい。気にしないで」

 すぐにそう付け足すと、ジャックは困ったように笑った。

「私も君と暮らしていきたいよ」

 空耳ではないかと、わたしはジャックを直視した。

 ジャックは微笑みを浮かべたまま、わたしに言い聞かせるように話す。


「でもね、君の家族が見つかることが一番いいことだと思う。それに、私よりも金持ちな家はたくさんあるんだよ」

「ジャックより?」

「ああ」

 とても想像がつかなかった。その人たちのお屋敷は、一体どれほど豪華なのだろう。


「だから、いい家があれば君はそこに行くべきだと思うんだ」

 わたしは頬を膨らませた。

 ジャックの言いたいことはなんとなくわかる。

 わたしが幸せに暮らしていくためには、お金があればあるほどいいというのだ。確かにそうかもしれない。でも、このお屋敷だって素敵だ。わたしはそんなに贅沢じゃないし、気にしないのに。


「君が嫌だと言っても、パリに連れて行くよ」

「わかったわ……」

 ジャックがわたしを心配してくれているのは、よくわかった。

「わたしと暮らしたいって言ったの、本当?」

「もちろんさ」

 なら、とわたしはすぅっと息を吸い込んだ。


「養子に出すとしても、勝手に決めることはやめて。知らない人となんて暮らしたくない。わたしはジャックと暮らしたい」


 ジャックが目を見開き、次いで、満面の笑みを浮かべた。ベッドの上のわたしを勢い良く抱きしめる。


「そう言ってくれて嬉しいよ。でも、一番いいのは、君の家族が見つかることだからね」

 わたしに言い聞かせるような、自分自身に言い聞かせるような声。

 わたしはジャックのぬくもりを感じて、ずるいやり方だと思いながらも幸せな気持ちになった。


 これで、ジャックのもとにいられる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ