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フェアリー・キス ~人間になった妖精(わたし)は人間社会になじめますか?~  作者: 白亜 愛
2. Les Jours avec Jack à Barcelonnette 〜ジャックとの日々〜
15/42

15 妖精避け


 お母さまの部屋を後にし、書斎に案内されたわたしは、その光景にあっと驚いた。

 入ってきた扉をのぞいて、壁一面が本で覆われているのだ。

「すごい……」


 わたしが物珍しげに見回していると、ジャックがその中から一冊を引き抜いた。

「読んでごらん」

 分厚く、重い本だ。受け取ったわたしは、左腕でなんとか支えながら、右手で表紙をめくってみた。


「……?」

 眺め、首をかしげる。

 中表紙だろうか、文字らしきものが横に並んでいたが、さっぱりだった。

 さらに数ページめくると、紙が知らない文字でいっぱいになって、黒く染まった。


 不気味になってジャックに突き返す。

「読めないのか?」

 不思議そうな顔でそう言って、今度は片手で読めるような小さく薄い本を手渡してきた。表紙には服を着たうさぎの絵が描かれていて、子ども向けの絵本だということがわかった。


 同じようにしてページをめくったけど、結果は同じだった。

 見たことのない文字の形。

「これなら読めるかい?」

「いいえ……」


「一文字も?」

 そこでわたしははっとした。


 これ、人間の文字だわ。

 わたしが読めるわけがない。


 ジャックはあごに手を当てて不思議そうにうなっている。

 まずい、怪しまれてる?


「まあ、そういうこともあるか……」

 ジャックがひとりごちた。その言葉に、ふぅっと全身から力が抜ける。

 よかった、怪しまれてない。

 文字が読めないと分かるや否や、ジャックはわたしを連れて書斎を後にした。



 それから、屋敷中の部屋を回った。

 普段はお母さまとコレット――あのわたしの世話係となっているらしい全身黒の女しか住んでいないということで、ほとんどの部屋は物置きみたいな有様だったけど、わたしが知らないものに興味津々の様子を見せると、ジャックは家じゅうを隅から隅まで見せた。


 一階には大広間があって、ここで舞踏会をするのだろうと思った。

 舞踏会。そうだ。ジャックが言っていた「社交界」って、舞踏会みたいなものかしら。人がたくさん集まるみたいなことを言っていたし、あながち間違いでもないだろう。

 でもわたし、舞踏会なんて出たことがない。

 子どものころに、お城で舞踏会があったけど、子どもだったから参加させてもらえなかった。それきり、王様がお歳を召したのを原因に、舞踏会は開かれていない。



 相変わらず物置きみたいな部屋で、埃にまみれながらなにかを探すふうなジャック。

「たまには掃除しないとな……」

 彼がそう言って換気をするために窓を開けると、妖精が二人舞い込んできた。

「あっ……」

 思わず声をあげたわたしに、ジャックがどうしたのかと尋ねる。

「妖精が入ってきたの」

 わたしがそう言うと、ジャックが目を輝かせた。

「今ここに妖精がいるのかい!?」

「ええ……」

 うなずくと、ジャックの右わきで古い燭台が床に落ちた。妖精が口元を押さえて、笑いをこらえている。


「おお! すごい!」

 ジャックが落ちた燭台に目を奪われている間に、妖精たちがわたしの方へと飛んできた。

『人間臭いぞ、リオーナ!』

『わはははは!』

 笑いながら、わたしの髪を引っ張る。

「もう、やめてってば……」

 あのメイドに結ってもらった髪が、妖精たちに引っ張られてほどけていく。


「リオーナ!」

 顔の周りを飛び回る妖精を払うようなそぶりを見たジャックは、同じようにわたしの顔の周りで手であおぐ。

『きゃはははは!』

 わたしにしか見えていないが、妖精たちはわたしたちの手を易々とくぐりぬけては、髪をめちゃくちゃにしながら宙を踊った。


 諦めて、ため息をつく。

「もういいわ、行きましょ」

 妖精の羽ばたきで、埃が舞い上がっている。わたしもジャックも、すっかり全身埃だらけだった。もうここにはいたくない。


「あっ、これがあったんだ!」

 部屋から出ようとするわたしの後ろで、ジャックが声を上げた。ごそごそとポケットから何かを取り出す。


「なんなの?」

 なんだか、部屋に嫌なにおいが広がった気がする。

 ジャックが取りだしたのは、匂い袋のようだった。口を開いて、中からお茶の葉っぱみたいなものを出した。

「うっ!」

 嫌なにおいは強さを増し、思わず袖で鼻を押さえる。

 妖精たちもこの匂いに気づき、たまらなくなって窓から出て行った。


「出て行ったわよ」

 わたしはまだ鼻を押さえながらそれを伝えた。

「そうか、これは本当に効くんだな!」

「それは……?」

「妖精避けだそうだ。家に帰ってすぐ、母からもらってね。本当に効くとは思っていなかったよ」


 嬉々として匂い袋を掲げるジャックに、わたしは愕然としていた。

 妖精避け。

 わたしは鼻を押さえるのをやめた。

「臭いかい? においはしないと思うんだが……」


 ジャックが手元の葉っぱに鼻を寄せる。

 よくそんな芸当ができるわねと思ったけど、きっと、人間には何も感じないんだわ。


「いいえ、平気よ」

 わたしは強がりながら、はやくこの部屋から出たいと思った。


 それに。

 この匂い袋を作ったのはジャックのお母さまなのね……。

 わたしは裏切られたような気がした。

 そういえば、お母さまに挨拶しに行った時、変な匂いがすると思った。それも、あの葉っぱが原因なんだわ。


 妖精然とした親子に親近感を抱いて心を許しているところがあったけど、やっぱり人間は人間だ。


 わたしは拳を握りしめ、あまり人間に信頼を寄せすぎないようにしようと誓った。

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