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11 仲間には見捨てられ、

 女が、呆然としながら口を開いた。


「……窓を開けられたのですか?」

「妖精たちがやったのよ……」


 疲れきっていたわたしは、大人しくドレスを着せてもらうことにした。


 あら、人間って、意外と綺麗な服を着てるのね。


 上品な濃い青色のドレスだった。


 人口の色だということはすぐに分かった。こんな青色は、自然界には存在しない。深みがあるのに、青空のように清々しい、不思議な色だ。

 肩口が膨らんでいて、そこから肘にかけてはフィットしている。肘を過ぎたあたりで、袖に布が付け足され、ひだ打っている。重い。

 スカート部分は、ドレス本体の青の布地と白のフリルが交互に広がっていた。重い。


 どうしてこんなに余計なものがついているの?


 フリルとか、レースとか。それもこんなにたくさん。


 わたしもお母さんの手伝いで、何度か作ったことがあるけど、とても大変な作業だった。針は指に刺さるし、縫っても縫っても終わらない。


 それを、こんなにたくさんつけているなんて。一体このドレスを作るのに、どれだけの労力がかかったのだろう。


 人間は、全員こんな重いものを着ているのかしら?


 そう思ったけど、わたしがいたずらしに入った家の人間たちは、わたしが普段着ているドレスと大差ない服だった。それに、着替えを手伝ってくれたこの女、たぶんジャックの手下のドレスは、裾に大ぶりのフリルが一段覗いているだけだった。

 やはり、これが普通なのだ。

 だとすると、わたしが着せられたこのドレスが特別なの?



 服も着替えられなかったわたしが立ち上がれるはずもなく、女に手を取られ、部屋を移動した。

 たぶん、ジャックがわたしを待ってるんだ。



 部屋から出たわたしは、あっと声を出して驚いた。

 部屋の中も綺麗だったけど、それよりもっとすごい。

 廊下の床は、赤い色の絨毯が敷かれていて、ふかふかで足音も立たない。

 左横の壁には、等間隔に燭台が置かれていた。そして壁には、くぼみがあって、台のようになっていた。そのくぼみ一つ一つの上に、花や、絵や、なにかの彫像なんかが飾られていた。こんなものを飾るために、わざわざ壁の形を変えるなんて。

 進行方向の右側は、手すりだった。その手すりも、金属の色を放っていて、しかもデコボコとなにか模様のように彫られていて、手が凝っていた。下をのぞき込むと、どうやらここら二階らしいことがわかった。


 階段を降りなくちゃいけないのかしら。

 わたしは自分の体を心配した。降りられる気がしなかった。

 だけど、わたしの心配は無用だった。

 女は、わたしの部屋を出てすぐ、二十歩ほどの扉の前で止まって、ノックしたのだ。

 中からジャックの声が聞こえて、女が扉を開けた。


「ジャック!」

 やっと信頼できそうな人に会って、わたしは喜んだ。飛びつきたい気分だったけど、わたしの体はそんなに元気がなかったので、できなかった。

 でも、声の感じでわたしが喜んだのはジャックにも伝わったと思う。

「ずいぶんと時間がかかったようだね」

「妖精が邪魔したの」

「妖精?」


 顔をしかめたジャックを見て、わたしははっと気づいた。

 そうだ、人間には妖精が見えないんだわ。

 生まれたての人間は妖精を見ることができるが、歳をとるにつれて見えなくなっていくのだ。


 人間じゃないってバレた?

 わたしは顔をさっと青ざめた。


「やはりそうなのか……」

 でも、ジャックはなにか思案している様子で、目線の先はわたしじゃなかった。

「え?」


「わたしはパリに住んでいるのだが、近頃、妖精たちのいたずらがひどくて困っているという手紙が来てね。

 領主として、どうにかしなければいけない。それで、ここに戻ってきたんだ」


 別のことが原因で、わたしはまた血の気が引いた。

 その迷惑をかけている妖精って、わたしのことだわ。


「リオーナ、君は妖精が見えるのかい?」


 なにがなんでも、わたしが妖精だってことはバレちゃだめだ!


「いっ、いえ……」


 否定しかけたわたしの手を、ジャックがむんずと掴んだ。


「すごい! 君には妖精が見えるんだね!」

「い、いえ、見えませ……」


「よかった! とりあえず領主として、帰ってきたはいいが、妖精なんてどう対処すればいいのか分からず、途方に暮れていたんだ!

 なんせ、私には妖精が見えないからね。

 見えないものをどう防げばいいっていうんだい?

 でも、これでなんとかなりそうだ!

 君、妖精の言葉はわかるのかい?」


 なんだか、風向きが変わってきた。


「ええ……」


「それはすごい! リオーナ、すごいよ! 住民たちの不満を、どうにかすることができるかもしれない! 君から妖精たちに危害を加えるのをやめるよう言ってはくれないか?」


 それなら簡単だ。

 だって、人間にいたずらする妖精は、人間になっちゃったんだもの。もう今までほど人間を困らせる妖精はいない。


「わかった」


「ああ、よかった! 本当に困っていたんだ……そうだ、食事の用意を!」


 そうだった、わたしの食事を用意するために、ジャックが部屋から出ていって、着替えられなくてこんなことになっていたんだった。

 昨日のお昼から、なにも食べていない。体の回復が遅いのも、そのせいかもしれなかった。


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