奴隷の少年
真っ白に照り返す陽射しはジリジリと手を焼いていく。尖った顎を滑り落ちた汗がジュッと一瞬で蒸発する音。
終わらない労働。
石を運べ、そこに積め、積んだらさっさと次の石を運べ。その繰り返し。
「誰の許可をもらって休んでいる?」
「ひいぃ、お許しを!」
力尽きて膝をついた老人の背中を容赦なく鞭で打つ。
もう見慣れた光景だ。
ここでは老若男女の差別はない。
奴隷と人間という差別しかない。
だから誰もあの老人を救わない。奴隷の分際で人間様に逆らうことの甚だしさ、無意味さを人生に刷り込まれているのだから。
そんなことよりもあの老人が死ぬことで自分の仕事量が増えることを億劫に思っている奴の方がきっと多い。
むしろどうせ死ぬなら誰も見ていないところで死ねよとさえ思っているだろう。
どうせ見捨てるくせに中途半端な罪悪感のせいで夢に見るから厄介だ。明日、ああなるのは自分かもしれないという恐怖。
それが、死ぬまで続くのだ。
爪が剥がれ落ちた小さな手で懸命に石を運んでいた少年は、その老人を見てふと思う。
――羨ましい。
あの老人はこの悪夢のような地獄から解放されるのだ。死後の世界という概念は教養のない奴隷には理解できない。
老人がどこかへ引き摺られていく姿を濁りきった紫水晶の大きな瞳で見送り、少年は再び前を向いた。
「おい、お前も勝手に休んでいたな?」
いつからいたのだろう、目の前にいた人間様は怒りに満ちた表情でこちらを見下ろしている。
しまった、つい足を止めてしまっていた。
鞭を持った太い腕が振りかぶられる。
少年は完全に思考が停止して息をすることさえ忘れて振りかぶられた腕を見上げた。
周りではまたかよ、ちゃんと働けよ。俺たちまでとばっちりを受けたら堪らない。と、溜息が漏れる。
ついさっきまで自分もそちら側にいたはずなのに、どうしてこうなってしまったのだろう。
ようやく思考を再開した頭はそんなことを考えていた。
しなる音が空を切る。
ふと視界に入った空には自由に羽ばたく鳥が見えた。