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幼き日のオズ  作者: 陸ツヅキ
6/6

続き 5

その日は日が変わるまで遊び、晩御飯を街で食べてから帰路に着くのだった。

 

 ☆


 ――その日の夜、一樹はいつものように床に就く。

 部屋の電気を消して目を閉じると、ふと耳元で誰かが自分の名前を呼ぶような声がした気がして飛び起きた。

と、思ったのだが身体がいう事を効かない。


(・・・これって金縛りってやつか?)


金縛りの多くは幽霊が自分に覆いかぶさっているようなものではなく、ただ単に心身ともに疲れきり身体が覚醒しないうちに頭だけが覚醒してしまい、身体の自由が取れなくなるだけだという。

だが今の金縛りはそういったものとは違う感じがした。

いやそれは気のせいかもしれないけれど、一樹の頭の中に 七海史乃歩 と オズの魔法使い という言葉が大きく現れていたのだ。


頭がガンガン響き、息も出来ているのかわからない。ただ、闇雲に七海史乃歩 と オズの魔法使い という言葉だけが頭の中を駆け巡る。


頭の痛みがピークに達しようかと思ったとき、その金縛りは嘘のようになくなった。

そしてまた新しい言葉。いや声が頭の中に響いてきたのだ。



『・・・カズキ君、元気になったら私のお友達になってくれる?』



その声は少女の声で、一樹はなぜかその声を七海史乃歩の声であると納得していた。

そして一樹の意識は気絶するように深い眠りへと落ちていった。


・・・・・・・・


「カズキ君?」


彼女は腕の手術が終わって意識が戻ったばかりの一樹にそう言ってきた。


「・・・」


ベッドから動くことも出来ずに首だけを声の主に向ける。


「手術大変だったね。わたしも経験あるからわかる」


「・・・」


一樹は麻酔が切れて覚醒したばかりで頭がうまく働かない。

なによりも、のどが渇いて仕方がなかった。


「カズキ君、元気になったら私のお友達になってくれる?」


「・・・」


一樹は何か得体の知れないものを見るような目つきで少女を見ていた。

少女は腕に絵本を持っていて、本の題名は オズの魔法使い。


「なにかしゃべってほしいんだけど・・・」


そんなことを言われてものどが渇いて声が出ない。しかも口にはよく分からないプラスチックのマスクみたいなものが付けられている。しゃべれるわけがない。

怪訝そうな顔でこちらを見てくる少女は、おずおずと一樹の個室である病室に入ってきた。

そしてベッドの横にある丸椅子にちょこんと腰掛けた。


「本読んであげるね」


それよりも水をくれと目で訴えたが麻酔が抜けきっていない身体は言うことを効かない。

少女は一方的にベッドに横たわる一樹に本を音読し始めた。


「ドロシーはのうふ?・・・のヘンリーおじさん。そのおくさんのエムおばさんといっしょにカンザスのだいそうげんのまんなかでくらしていました・・・」


少女はけっして音読はうまくなかった。

それどころか分からない単語や文字があると読み方あってる?と聞くようにこちらをチラッ見て、少し考えながら再び読み始めることを繰り返しだった。

一樹はそんな拙い音読を目を閉じながら聞いていた。そして次第にうとうとし始める。


「・・・起きてる?」


音読の途中で寝てしまっていた一樹の顔を覗き込んだ少女は一樹が寝てしまっていることに気がついた。


「寝ちゃったか・・・。まぁ仕方ないよね、手術の後だし」


少女は絵本をパタンと閉じて丸椅子から飛び降りる。


「おやすみカズキ君。また遊んでね・・・」


そういうと少女は一樹の病室から出て行った。

それと入れ違いに看護婦が入ってきて、寝ている一樹の体温や脈などを確認し始めた。


(・・・なぜ寝ているのにこの情景を覚えているかって?それは・・・)


看護婦が一樹の布団を剥ぎ、下半身へ手を伸ばす。


「おしっこは出てないっと・・・ってわっ!」


手術の後は麻酔の関係で糞尿が流れ出てしまうことがあるらしく、看護婦はそれを確認する為に一樹の下半身を触ってきたのだが、一樹はその感触に飛び起きた。


「ちょ・・びっくりしたぁ~、一樹君起きてたの?」

「・・・」


一樹は顔を真っ赤にしながら看護婦を睨んだ。


「フフッ、ごめんなさいね」


看護婦は口に手を当てながら、そそくさとカルテにいろいろ書き込み始めた。

ちなみに一樹が顔を真っ赤にしているのは、看護婦に下半身を触られようとしたからではなく七海史乃歩のことだ。看護婦は絶対に勘違いしていたと思うけど。


今まで同じ年頃の女の子には全然なんの興味もなく、クラスではうるさいのが半分もいるのか位にしか思ってなかった一樹だったが、一方的に音読を聞かせてくる姿がなぜかとても気になったのだ。自分でもよくわからないが、なぜか一樹の顔は真っ赤になっていた。


「そういえば史乃歩ちゃん、さっきここに来ていたでしょ?あんなウキウキした史乃歩ちゃん始めてみたかも・・・」


看護婦の言葉に一樹の顔はますます赤くなっていく。

自分でもよく分からない。だが、次に七海史乃歩に会ったときには必ず文句を言ってやることに決めた。


・・・もっと読むの練習しろと。


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