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幼き日のオズ  作者: 陸ツヅキ
4/6

続き 3

 用意してくれたスクランブルエッグやベーコンはとても美味しくて、一樹は今日の午後に決まった友達の誘いに胸を躍らせた。

 


 その日の午後、一樹は久々に会う友達ということもあって少し気合の入れた服装で家を出た。

 と、いっても一樹本人がそう思っているだけで実際には紺色のジーンズと少し柄が入った白いTシャツの上にグレーのカーディガンを羽織っただけという普通の格好だった。

 だがこれだけでも元々整った方の(不細工ではない)顔立ちであるのと、少し天然のパーマがかかった髪型のせいか、それなりには見えなくもない。

とにかく一樹は、午後一時に隣町の電車の駅前に集合ということもあり、駅は家から歩いて五分のところにあるが余裕を見て十五分前に家を出た。

 一樹の持ち物といえば大学へ行くのに使っているオレンジ色の肩掛け鞄で、中に財布とイヤホンそれに昨日押入れで見つけたオズの魔法使いの絵本を中に入れていた。

 

 家から歩いて五分というものの、家から駅が見えるわけではない。

 玄関を出て目の前に道路があり、その向こう側に津波防止の堤防がある。

その更に向こう側が海となっていて電車の駅は家の目の前の道路を右に歩いてすぐの一つ目の交差点をさらに右に歩いていったところにある。

電車の駅は家の真後ろなのだ。電車の音がうるさいと思うかもしれないが一樹は目の前が海で電車の本数も都会よりも圧倒的に少ない為そこまで騒音に悩まされてはいなかった。


 途中、近所のおばあさんに挨拶をされながら駅に着くと、一樹は時計を確認する。

 現在十二時五十四分。十分前を目指したつもりが途中のおばあさんの挨拶が長引いて予定よりも少し遅れてしまった。

 だが、まだ駅には人影はなく中に駅長さんがひとり見えるだけだった。 

 

「時間、間違ったかな・・・?」


 一樹はスマートフォンを取り出してLINE通知を確認する。

 そこには何の通知も着ていないことを示していた。 


 「あれー・・・」

「うぉいっす~」


と、後ろから声がした。


 後ろを振り返ると、ちょうど到着したらしい友人二人が手を振りながら近づいてきていた。


 「すまん、待った?」

 「いや、そんなに待ってないよ」

 

近づいてきた二人はすごく対照的だった。

 一人は痩せ型でちょっとオタク系。背は180くらいで一樹よりも頭一個くらい高い。

 もう一人は背は170前後だが、体格がすごい。ボディビルダーのようなガッシリとした体系だ。

 二人とも今時の若者と言った格好をしていて、一樹を合わせて三人並ぶとちょうど階段のようだとよく言われる。

 

 痩せ型のノッポは 加賀(カガ) 慎之介(シンノスケ)

 ボディビルダーの方は 宍島 秋雄 (シシジマ アキオ)。 

 

 この二人は所謂、一樹の幼馴染で小さな頃からよく知った仲だった。

 ちなみにLINEをしてきたのは痩せ型ノッポの慎之介だ。

 


 軽く挨拶を交わしながら、三人はとりあえずカラオケに行くことにした。

 カラオケは駅から程近くにあり歩いてすぐいける距離にある。

 到着するなり三人の中で会員カードを持っていた一樹が部屋を指定することになり、カラオケの機種で一番最新の一番大きな部屋に通してもらった。


 「・・・部屋デカすぎじゃね?」

 「空いてたんだからいいだろ」

 「にしても大部屋か・・・」

 

 部屋の中は現在のヒットソングが画面つきで延々と流れており、曲の方は今の季節にぴったりな夏の曲が多かった。

 三人は席に着くなり、飲み物を注文する。

 一樹がジンジャーエール

 慎之介が烏龍茶

 秋雄がノンカロリーのコーラを注文した。各々性格が出ている。


 「さて、久々だな一樹。こっちに戻ってどのくらいだ?」

 

 注文が届くまで歌を歌わずに談笑する流れになり、秋雄は俺にたずねてきた。

 

 「四ヶ月くらいかな?それよりも二人に聞きたいことあるんだけど」

 「ん?」

 「もしかしてLINEで言ってたやつ?」

「そうだ」


 一樹は秋雄の問いを軽く流して、さっそく肩掛け鞄からオズの魔法使いの本を取り出した。

 「ずいぶん古い本だな?」


 秋雄は流された自分の問いを特に気にした様子もなく、取り出した絵本に注目した。

 

 「ああ、この本が部屋から出てきたんだ」

 

 一樹が本を机に置くと慎之介が手にとって秋雄と二人で絵本を読み始めた。

 

 「特に変わったところは無いみたいだけど」 

 「ちょっとまて、裏に名前が書いてあるぞ」


 秋雄が絵本の裏に書いてある名前に気がついた。

 慎之介が絵本の裏側に注目すると、そこには“ななみ しのぶ”と可愛い文字で書かれているのを発見して二人は少しギョッとした顔になった。


 「これか・・・一樹が今朝いきなりこの名前を出してくるから何事かと思ってたけど」

 「しのぶ・・・しのちゃんか・・・」


 秋雄が腕を組みながら目をつぶる。

 一方、慎之介の方は何かを探すように絵本の中身をパラパラめくっている。


 「二人は覚えてる感じか?今どこにいるー、とか分かるか?」

 

 一樹が二人に問いかけると、まず慎之介が口を開いた。


 「一樹、ひとつ聞いていい?」

 「な、なんだよ・・・」

  

 慎之介の声が少し低くなった。

 

 「何も覚えてないの?」


 「・・・・うん」


 一樹が答えると、慎之介は手元の絵本を目の前の机にポンと置いてこう言った。


 

 「しのぶちゃんは小学生の時、病気で亡くなってる。それも僕たちの目の前で・・・」


 一樹は一瞬なにを言われたのか理解が出来なかった。

 だけど、すぐに理解した。


 七海史乃歩はもうこの世にはいないのだ。




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