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幼き日のオズ  作者: 陸ツヅキ
3/6

続き2


 ピコピコピコピコンッ!ピコピコピコピコンッ!・・・・・・

ジリリリリリリリリ・・・・・・ッ!!


 リンゴのスマートフォンのアラームと同時に中学生の頃から使っている黒くて少し高級感のあるベル音の目覚まし時計が一斉に鳴りだす。

 その音にたたき起こされながら、一樹は目を覚ました。

 アラームの設定時間は朝の七時半。今は大学が長い夏休みに入っているので特に起きる理由は無かったが、一樹は自堕落な生活をするのを好まないのでいつもと変わらずに起きることにしていた。

 レム睡眠から頭を覚醒させ、目覚まし時計とスマートフォンのアラームを切る。

 布団を剥いで上半身を起こす。欠伸と伸びをした後、ベッドから出る。

 一樹使用しているベッドは部屋の小ささから折りたたみベッドを使っている。

 三年ほど前に少し遠い町にあるホームセンターで五千円位で売っているのを見つけ購入したが、値段の割には未だに壊れる気配はなく快適に安眠できていた。

 折りたたみベッドを折りたたみ、部屋の隅に移動すると充電済みのスマートフォンを床から拾い上げる。寝巻きから部屋着に着替えながらSNSやメールのチェックを済ませていく。 

 ズボンを履き替えたところでLINEというSNSアプリに男友達からチャットの着信が来ていた。その内容は、今日会わね?の一言。とスタンプ。

スタンプは熊が?マークを出して首をかしげているものだが、一樹はその返信にしのぶちゃんって覚えてるか?と返信してみた。

 返信を期待して少し待ってみたが音沙汰ないのでスマートフォンの電源を切ってポケットにしまう。

 部屋から出ようとしたところで窓の下においてある机に昨日寝る間際に見つけたオズの魔法使いの本が目に入った。


 「・・・・ななみ しのぶ」


 昨日は気がつかなかったが、本の背表紙の右下に手紙と同じ可愛い丸文字でそう書いてあった。

 一樹は夢を思い出してみた。

 いつもなら見た夢なんて絶対に忘れてしまうものなのになぜか今日見た夢は細部まで思い出すことが出来た。


 「でも・・・」


 あの夢以降の出来事が思い出せない。

 名前や顔、存在ですら今まで忘れていたのだ。

 なぜ忘れていたのかがどうしても思い出せずに先ほどのLINEで聞いてみたわけだ。


 本を机に戻し、一樹は自分の部屋を後にした。


 一樹が今住んでいるのは実家だ。

 春までは大学の寮に入っていたのだが一年で退寮しなくてはいけない決まりがあり、泣く泣く追い出されてしまった。

 よって少し遠いが通えない距離でもないので一度実家に戻ってきたのだった。


 一樹の家は昔から裕福で代々この町の名士だったらしく、小さな頃からお金に困った記憶が無い。当然家も、リフォームにリフォームを重ねて外見は西洋のそれになっているが昔から変わらずに広い。

 一樹の部屋はそんな西洋の家の二階にある一人部屋にしては大きな部屋だった。

 

 一樹が部屋を出ると下の部屋から良い匂いがしてきた。

 匂いは香ばしい焼けた卵の匂いでおそらくスクランブルエッグの匂いだと予想が付いた。

 それにその卵の匂いと一緒に焼けたベーコンや、コーヒーの匂いなんかもしてきて一樹のお腹がそれに反応してグゥゥーっと音を立てる。


 「こりゃたまらんな・・・」


 知らずのうちによだれで満たされた口腔内を一旦飲み込み、一樹は階段を降りていった。


 半螺旋になっている階段を下りて右側は玄関になっており、正面はトイレそして左側はリビングに続いている。

 一樹はまず玄関に歩いていき、新聞の朝刊を手に取るとその足でリビングに足を向けた。

 途中、トイレに行こうかと思ったがトイレの中から人の気配がしたため、とりあえず新聞をリビングにもっていくことにした。

 

 リビングへと通じるドアを開けると、さっきとは比べ物にならないくらいの良い匂いが一樹を襲った。その匂いに幸せな気分を味わいながらキッチンで朝ごはんを作っている母親におはようを言いに行く。

 

 「あ、一樹さんおはようございます」

  

 その前に先んじて言われてしまった。

 

 「おはよう母さん」


 子供に敬語を使う母親だが、これは決して父が再婚した義理の母などではなく母が長年勤めていた市役所での習慣が退職した今でも抜けていないのだ。


 昔はたくさんの使用人がいて忙しい両親の代わりに色々と世話をしてもらっていたが、さまざまなことがあって退職した母が今では家事をすべてこなしている。

 

それは久しぶりに帰ってきた今でも変わらずだった。


 「父さんはまだ寝てるの?」

 「昨日は遅くまで議会の資料つくりをしていたみたいだから、まだ寝てると思いますよ」


 他愛ない会話をしながら手に持っていた新聞紙をリビングの真ん中にあるテーブルに置く。


 ヴヴヴ・・・ 

 

 ポケットに入れていたスマートフォンのバイヴレーションが震える。

 

 一樹はポケットからスマートフォンを出して着信の確認をする。

 画面には先ほど送ったLINEの返信が来ていた。 


 画面のロックを指でスライドして解除し、着信のあったLINEを起動する。


 しのぶちゃん?って史乃歩ちゃんのことか? 既読


 LINEにはそう返信があった。


 そう。そのしのぶちゃん。七海 史乃歩ちゃんだ。 


 そうだ。と返信すると、今回は返信した瞬間に返事があった。


 お前、もうすっかり忘れてると思ってたよ。

 しのぶちゃんって俺らが一時期、一緒に遊んだ病院の女の子だったよな。 既読


 残念ながら俺もそんなに覚えてないんだよな。

 今日久々にみんなで会わない?ってかその誘いでさっきLINEしたんだけどw 既読


 一樹は今日の予定をスマートフォンのアプリで確認する。今日は祝日。海の日だ。

 なるほど、今日はこれからの予定はなにもない。


 「てか、基本バイト以外に予定とかないけどな・・・」


 「え?一樹さんなにか言いました?」


 「え?いや、こっちの話・・・」


 いい気分転換になるだろうと、一樹はその友達の集まりに行くことにして行く。と返事を返した。

そして、リビングに並べられた母親の用意してくれた朝ごはんをいつも通り感謝しながら食べた。


 用意してくれたスクランブルエッグやベーコンはとても美味しくて、一樹は今日の午後に決まった友達の誘いに胸を躍らせた。



 ☆

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