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幼き日のオズ  作者: 陸ツヅキ
2/6

続き

 ☆


 夢というのは不思議なものだ。

 自分の深層心理に思っていることを映し出すくせに、夢の中では大抵思い道理に身体が動かない。

 もしも何かに追われている夢を見ていたとしても思いっきり走って逃げることは絶対に出来ない。足が重くて現実で思っているほどには走れないのだ。

 だけど、今見ている夢はぜんぜん違った。

 思い道理に行かないにしても、過去の出来事を鮮明に見せてくれているようなのだ。

 こんな風に考える余裕があるくらいに。

きっとこれはあの絵本が見せてくれている魔法なのかもしれない。


 夢の中で、僕は一人ぼっちだった。

 場所はこの町で唯一入院施設のある病院。

 決して評判のいい病院ではなかったけど、数日前に友達同士のおふざけが発展して学校の階段から落ちて骨折した僕にしてみれば仕様がなかった。

 

 僕の家は代々この町の名士で、とても裕福であったといえる。

 だけど、父親は隣町の議員、母親は市役所の職員で両親はとても忙しく、毎日一緒にご飯を食べることもなく僕の世話は世話係の人がすべてやってくれていた。

 

正直この頃の僕は人との距離感がわからなくて、自分がすべての中心だと勘違いしていた。友達はいたけど、いつも傷つけてばかりいたような気がする。学校の担任の先生も腫れ物を触るような扱いをされている感じで好きになれなかった。


そんな僕だったけれど、一ヶ月間の入院生活で一人の女の子と出会ったことによって変化が現れ始める。


「はい、一樹君。腕を出してね」

朝、一人の病室に寝ているといつもの様に女の看護士が来て血液を採取していく。

どうやら骨折をした際に骨がずれていたらしく、それを直す為に手術が必要なようだ。

ちなみに骨折した場所は肩の球関節のすぐ下。よく分からないが折れたとこが複雑な場所らしくて、添え木みたいなもので固定する方法が取れないらしい。

三年生になった小学校の担任も好きじゃなかったし、一ヶ月間学校を休めるならいいやと思っていた僕はここぞとばかりに部屋のテレビにDVDプレーヤーを勝手に接続して映画を見ていた。

本当はゲームがしたかったけどこの手じゃ出来なかったのだ。


そんな血液を採って検査されるだけの毎日に少し飽き飽きしてきて入院してから数日間そんな生活をしていたが、やがて手術の日が訪れた。

いつもより早い時間に看護士の人が来てトイレに連れて行かれる。

何も怪しい目的じゃない。手術前に腸の中のものを空っぽにしなくてはいけないらしく、浣腸するためだ。

 浣腸はお腹の中に薬剤を注入され、下痢でお腹を下した感じをずっと味わっているような感じだった。

 

 お腹を擦りながらトイレから出てくるとトイレの前で看護士の人と一人の少女が雑談をしながら僕を待っていた。


 「あ、カズキ君お腹大丈夫?」

 「カズキって言うんだ」


 看護婦が心配そうに尋ねてくるがその横の少女と目が合った。

 少女は僕よりも少し背が小さくて、目じりが少し上につりあがっていて勝気な印象が見える。かわいいピンクのフリルがついたパジャマを着ており、その手には歯磨きブラシとコップが握られていた。

 

「そう、カズキ君よ。カズキ君、この子は七海 史乃歩ちゃん。カズキ君と同じでここに入院してるのよ」


看護婦に紹介された少女は歯ブラシとコップを持ちながら腕を組み、僕を値踏みするように見つめていた。


「ふぅん・・・」 


 普段あまり学校の女子と遊ぶことがなかった僕は、その七海 史乃歩という女の子にたいして興味はなかった。

 僕はというとまたお腹が痛くなってきたのでトイレに戻ろうかと考えていたくらいだ。

 とりあえず一旦部屋に戻ろうと思っているといきなり史乃歩が話しかけてきた。


「ねぇあなた。本は読む?」

「え?あまり読まないけど」

「・・・つまんないの」


そう言い残すと史乃歩はスタスタとナースセンターの方へ歩いていってしまった。


「なんだあいつ」


僕がボソッとつぶやくと、看護婦が頬に手を当てながら歩いていく史乃歩を見てごめんね?っと僕に言った。


「史乃歩ちゃん、ずっと病気で入院しててね。・・・外にも一人じゃ出れないから毎日病院の中だけで過ごしてて友達もいないのよ。だからカズキ君よかったら仲良くしてあげてね?」


看護婦が僕に微笑みかける。


「・・・・・」


僕は何も答えずにトイレに戻った。

看護婦が歩いていく僕に「いまから睡眠薬飲んでもらうからまだお腹が痛かったら言ってね?」と僕に告げると足早にナースセンターの方へ行ってしまった。





 ピコピコピコピコンッ!ピコピコピコピコンッ!・・・・・・

ジリリリリリリリリ・・・・・・ッ!!


 リンゴのスマートフォンのアラームと同時に中学生の頃から使っている黒くて少し高級感のあるベル音の目覚まし時計が一斉に鳴りだす。

 その音にたたき起こされながら、一樹は目を覚ました。

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