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九章 宣戦布告・十二

そしてあっという間に最終試験日。

これさえ終わればようやく皇子達と関わらずに済む! という気持ちを胸に、私は朝早くに家を出た。

今日は祝日なので、友達と遊びに行くという名目で家を出た。うちはまだ、外出にはそんなにうるさくないけど、クラスの子では逐一連絡しろって言われてめんどくさい、ってぼやいてるし。まあ、いつ何があるかわからないもんねー、ホントに。

思わず遠い目をしてしまったけど、気合いを入れ直してドアノブに手をかけた。


ドアの向こうは当然カイの家。

「おはよう、セリ!」

元気よくマユキが抱きついて来た。

「おはよう、マユキ」

私はマユキを受け止め、いい子いい子と頭を撫でる。

「ずるいなー、マユキばっかり。ねぇ、俺も撫でてよ、セリ」

アロイスがひょいっと近づいて来る。

「え、お断り。私の両手はマユキを撫でるので精一杯です」

私は冷たく返す。

「ひどい。セリの意地悪」

「あー、はいはいそうですか」

「ひどっ! 最近のセリ、俺の扱い雑じゃない!?」

アロイスが何やら文句を言っているけど気にしない、が。私とマユキ、アロイスは、はっ、と気づき、一瞬で黙る。


「ほう。お前達、朝から随分元気だな」


私の正面、マユキとアロイスには背後になるけど。カイが物凄く苛ついた顔で腕を組み、私達を見ている。

「お、おはよう、カイ。うん、まあ、若いからねー……」

と、視線をカイの顔からちょっとずらして返事をする。

「そうだな。若いと元気がありあまるからなあ。だが、ここは俺の家だ。俺は静かな所を好むんだ。そんな俺の家で騒いでいいと思うか、お前達。うん?」

「えっ……と、よその家では静かにした方がいい、かな……」

私はしどろもどろしながら答えた。

最近のカイは初対面の頃の、心配性なお兄さん的なイメージが消え、怒りっぽくてちょっと危険で怖いお兄さんになっている。そう、マユキがここに居候するようになってから、カイの機嫌が悪くなり始めた。

「そうか、わかっているならいい。セリ、お前はいい子だからな。俺の言うことはちゃんときくんだぞ。それに今日は大事な試合の日だろう? 早く支度して行け。俺も後から行く」

「う、うん。わかった。カイ、行って来ます」

「ああ。気をつけろよ」

カイは私の方に来ようとしたけど、マユキがくっついているので、嫌そうな表情をして食堂の方へ行った。

「はぁ……。びっくりした……」

私はマユキの頭を撫でながら、心を落ち着かせる。

「大丈夫、セリ?」

マユキが見上げている。

「大丈夫だよ、マユキ」

私はまたマユキの頭を撫で始めると、マユキはニコニコ可愛い笑顔を見せてくれた。

可愛いしか言葉が出ない……!

「ちぇ。マユキばっかりずるーい。俺も撫でて欲しいんだけど!」

あざと可愛らしい角度の上目遣いで私を見てるアロイスは無視してマユキをぎゅっと抱きしめた。

「差別だ……」

アロイスがそう呟いて二、三歩下がる。

とりあえずそんな茶番はさておき、私は今日の事を切り出そうとした。

アロイスは察したようで「外に行こうか」と玄関から外に出た。

「それで、剣士の人は見つかったの?」

「ああ、勿論。おーい、ルカ」

アロイスは背後の木立の方を向いて声をかけると、フードを目深に被った人が出て来た。身長の高さからして多分男性、かな。

ローブの人が私達の方に向かって来た。

「こいつが凄腕の剣士。どれぐらい凄いかっていうと、こいつの名前を知らないやつは近隣諸国にはいない。この国にはこいつに勝てるやつはいない」

「えっ!? ちょっ、アロイス、どうやってそんな凄い人を連れて来たの!?」

私は驚きであわあわしてしまう。だってそんな凄腕に私がお願いしてもいいのかわからない。

「っははっ! 大丈夫だよ、セリ。ちゃんと真っ当に依頼して契約した傭兵だから。時間があまりないからそこら辺は省略するけど。こいつはルカ。今日の御前試合でセリの代理人を務めるやつだ。勿論セリの言うことには絶対服従だ。でももし渋るようなことがあれば、命令だって言えば必ず遂行する。そういう契約を結んだからね。遠慮なんてしないで好きなように使ってよ」

アロイスはあっさり軽く言うけれど、初対面の人にそんなに軽く言うこともできないし、接することはできない。

「え、ええー……でも……」

いくらアロイスが安心安全だと言っても、ルカさん? の方はどう思っているのかなんてわからない。私がおろおろしていると「アロイス様の言う通りですよ」と頭の上の方から声がした。

「え!?」

ぱっと上を見るとフードを取ったルカさん? が私を見ていた……けどっ!

ま、またもやイケメン……!!

髪の毛は金髪……にしてはオレンジ寄りだし? あ、あれだ! 昨日食べたオレンジと黄色の間ぐらいの色のパプリカの色だ! 肩につく程ではないけど少し長めで、毛先だけは癖毛なのか緩くうねりがある。目は赤紫……アザミの色だ。でもアザミほど色味は強くなく淡い感じ。

顔面は全体的にはクールな感じなんだけど、少し垂れ目でそれがクールな中にも人懐こさというか親しみやすさを醸し出している……!

そんなイケメンにじっと見られて落ち着かない私を、目の前のイケメンは面白いものでも見たような感じでくすっと小さく笑った。

イケメンは腰を落として私に礼をした。

「初めまして、セリ様。私はルカと申します。短い間ですが、貴女に仕えますのでどうぞよろしくお願いいたします。アロイス様の仰る通り、遠慮なくお命じになって下さい」

「あ……えと……は、はい……」

私はこれを言うだけで精一杯だ。

すぐに顔をそらし、アロイスに助けを求めようとしたけどなんて言えばいいのかわからず、口をはくはくしながら目で訴えた。

「ぷふっ、くくっ……。セリ、顔真っ赤。こいつでそんなに真っ赤にされるのもイラッとするけど」

アロイスはルカさんの隣から私の横に移動した。

「俺はセリと一緒に舞台には立てない。だからこいつを遠慮なく思いっきりこき使ってね」

いい笑顔でアロイスは言うけど……ねえ? 私は向かいに立つルカさんをチラリと見る。こんなイケメンを私がこき使うとか無理だから。そもそもルカさんは本当にそれでいいのか。こんなイケメンに話しかけるのは辛いが時間もないので頑張るしかない。

「あ、あのっ、ルカさん」

顔は見ずに、肩あたりに視線を逸らしながら訊く。

「ルカさんは本当にそれでいいんですか? あの、私なんかの言うことを聞くだなんて……」

「はい。私は傭兵です。傭兵はお金と雇用主へは絶対服従します。私の雇用主はアロイス様で、アロイス様がセリ様に絶対服従をしろと命ぜられたので、問題ありません。遠慮なく好きにお使い下さい。ああ、あと私のことはルカと呼び捨てて下さい」

ルカさん——ルカが淡い微笑と共に言った。確かに傭兵はお金が絶対みたいな感じらしいとは、ネットで見た気がするけど……。まあここまで言われたらとりあえず信用しよう、するしかない。今の私に選択肢はないんだから。

「わかりました、ルカ。今日はよろしくお願いします」

私はルカに頭を下げた。

「頭を上げて下さい、セリ様。あなたは私の主なのです。主が部下に頭を下げてはいけません。常に胸を張って堂々として下さい」

「あ、わ、わかりました!」

私はすぐ頭を上げて、背筋を伸ばした。

ルカはよくできました、みたいな微笑を見せた。

「はぁ……。おいルカ、あんまりセリをいじめるなよ。セリ、もしこいつに嫌なこと言われたりされたりしたら必ず俺に言ってね」

いい笑顔のアロイスに圧され、私は「う、うん」と返事をするしかできなかった。

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