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九章 宣戦布告・四

俺は眠ったセリを抱き上げ、ベッドにおろして薄くなったブランケットをかけて寝かせた。

呼吸も規則正しく落ち着いている。

「うん、もう大丈夫だ」

起きたら受けた恐怖心とかは無くなっているはずだけど、これは人によって違うから何ともだな。ただ、多少和らいでいるのは確かだ。

「セリに何をしたんだ?」

隣に立っているマユキが問う。

「ああ、セリの波を見つけて心を癒やしたんだ」

「波?」

不思議そうな表情をするマユキ。

「そ。波」

俺はセリをチラッと見たあと長椅子に移動して座る。マユキも隣に座った。

「人間は身体に波を持っていて、感情が荒れていると波も不安定になる。その波を癒やしの波に調整しただけ」

「成程。それは誰でも出来るのか?」

「いや、出来ないと思う。前提として、身体に波があることを知ってなければ無理。波があることを理解しても、相手に最適な波を施すには相手に同調しないといけない。同調、相手に合わせるなんて芸当、この国のやつらには無理だろ」

「成程」

マユキは納得したようだ。

「はぁー、それにしても落ち込むなー」

俺は長椅子に背中を深く預け、天井を仰ぎ見る。

見ても板の木目が見えるだけだけど。

「何故落ち込むのだ」

天井を仰ぎ見ながら俺は答えた。

「だって俺何にも出来なかったもん。セリがあんな目にあってるのに移動も出来ない、魔法も使えない。セリを守りたいのに何も出来なくてもどかしい。はぁ……」

「それは仕方ないだろう。現状、お前の力はそう簡単には使えない。その分、私が守ればいいだけだ」

「まあ、そりゃそうなんだけど」

少し拗ねた口調になって返してしまったと思ったがもう遅い。察したマユキが外見に似合わない大人びた微笑をする。

「……ああ、そういうことか」

「何だよ。悪いか?」

こうなったら隠しても仕方ない。堂々と言った方が潔い。

「いや別に。男としてそう思うのはおかしいことではないが、私に嫉妬しても仕方がないだろう。私はセリにとっては家族だからな」

「今は、な。お前だって『今』は家族、弟に擬態しているだけで、この先もこのままなわけないだろ。違うか?」

俺はもうズバリと訊いた。直球すぎたか。でもいいや。

「ん……。そう、かも知れない」

うん? 随分と歯切れの悪い返事だな。

「わからないのか?」

「ああ……、多分、そうだ」

マユキは少し口を噤んでからまた話そうとするが、また噤み、言葉を考えながら話し出した。

「恋愛感情。そういうものも確かにある。だが、今はそれよりも別の感情、『甘えたい』という感情が強い。そう、母や姉に甘え、褒めて慈しんで欲しいという感情。他にも色々な感情があるが絡まって解けない毛糸玉のようになっていて、どれが最適解なのかが判断がつかない。それにセリは私と一緒にいると約束、契約したからな。これは絶対に覆すことも破棄することも許されないし許さない。だから……そう、『今』はお前の敵、恋敵というものにはなりえない。うん、自分でも思うが、なんてまとまりのない回答だ。う、ん……」

マユキは右手を軽く顎に添え、また考えこむ。

その可愛らしい外見にそぐわない仕草が不似合いで思わず笑いが口から出た。

「何だ?」

不思議そうに俺を見上げるマユキに言った。

「ふっ、悪い。もういいよ。お前の気持ちはわかった。俺もなんか……余裕なくて少し焦ってた。先のことよりも今が大事だよな。もちろん先も大事だけど、今を大事にしないと先になんて続かないもんな」

「そうか。お前が納得したのなら私はいいが」

「ああ。納得した。だから今は、今もセリのために頑張ろうか。な、マユキ」

「わかった」

マユキは小さく頷き、俺からセリの方へ顔を向けた。

俺もベッドで眠るセリに顔を向ける。

穏やかに眠っているが、どこか嬉しそうな表情にも見える。よかった。

そして壁にかけてある時計を見ると、五時を過ぎている。窓の外を見ればいつの間にか薄暗い。

「もう少ししたらセリを起こすか」

「わかった」

セリからこの時計が六時を過ぎたら絶対に教えてと、言われているからな。

セリの世界に帰る時間差を考えると、この時間を過ぎるとまずいらしい。

ふふ。セリ、起きたらどんな顔をするかなぁ。まあ慌てて赤くなるのは絶対だろうけど。楽しみだなぁ。

俺はそんなことを考えながら、長椅子からセリを見守っていた。

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