九章 練習試合・三
「芹、化粧品変えた?」
「え、換えてないよ? 何で?」
駅のホームのベンチに座って電車を待っていたら、突然そんなことを言い出した親友の奈緒美。
「そっかあ。んー、でも何かいつもより透明感がある様な……。あと、そばかすも少し薄くなってない?」
奈緒美、鋭い。
私は内心ギクリとしながらも、何もないように答える。
「気のせいだよ。あ、でも、そばかすが少し薄くなったのは本当。何でだかしらないけど。大人になってきたから薄くなったのかも? わかんないけど」
「ああ、何か大人になったら消えたーっていうのもあるらしいもんね、そばかす。よかったじゃん」
「うん。そうだといいんだけどねー。ていうか、いきなりなに、奈緒美」
疑問が解けてもう用はないのか、また手元のスマホを弄っている奈緒美に問いかける。
奈緒美はスマホから視線は離さず返事をした。
「化粧品換えてキレイになったなら、それ教えてもらおうかなと」
「ああ」
そういうことか。
奈緒美はあれこれ化粧品を試すのが好きなので、効果があったなら自分も使おうと思ったのだ。
私は美容関係は普通レベルの興味しかないので、よくあれこれと教えてくれる奈緒美には、感謝と尊敬しかない。今使っている化粧水とかも奈緒美のおすすめだし。自分で探すより確実にいいものを教えてくれる。ありがたい親友だ。
そして。
奈緒美の観察力は正しい。
透き通るような肌に、コンプレックスのそばかすが薄くなっているのは本当。
カイのおかげで。
カイのおかげ……。
ありがたーい魔法使い様のおかげ……。
そして思い出す……スパルタ指導……。
アロイスは宣言通り、私のダメな所を指導してくれている。
それはもうそれはもう、一切の容赦手加減なしに。
厳しすぎてついポロリと愚痴を言おうものなら、天使の爽やかな笑顔と共に「出場、やめるんだね」と言われ。
「いいんだよ、セリ。無理はしなくても。相手は腕のたつ皇子だもの。怖くなっても変じゃない。代わりに俺がセリの剣になって皇子に一撃入れてくるから。気が変わったらすぐに言ってね」
いかにも私が大事みたいなことを言ってるけど、訳せば、セリの気持ちなんてそんなもんなんだ、あれだけ啖呵きったのにね。ふふ(小馬鹿にした笑い)。
そんなことを言われた上で、やっぱりお願いします、アロイス。なんて私が言うわけないでしょ!
仕返しは自分の手でやってこそなんだから!
と、まあ、簡単に煽られてひたすら特訓して終わると、身体はあざや軽い打ち身で痛いしハードな動きでもう疲労困憊。立つのも無理。
そんな私を可哀想に思ったカイが、傷とか打ち身とかの疲労回復の魔法のお茶を作ってくれて、それを飲むと確かにすぐに元気になった。効きすぎて、またすぐにアロイスの指導を受けられるぐらいに。おまけに肌も透明感あふれ、そばかすも全部消えてしまうほどの美容効果もついていた。
家に帰ってその美容効果に驚き、速攻またあっちの世界に戻って美容効果を無くしてって怒りに帰ったよ。そもそも何で美容効果がついているのか訊いてみれば。
「剣術のことに関しては俺は何も出来ないから、アロイスの指導に口も出せない。ならせめて疲労回復の薬をと思ってだな……」
カイが申し訳なさそうに俯いて答える。
「うん、それは嬉しい。けど美容効果の方は特に求めてないんだけど」
「そうなのか? 年頃の娘なら美容はすごく気にするだろうし、それにお前、皇子の花嫁候補だし……」
「ふうん、そっかあ。カイはカイなりに気を使ってくれたんだね? でも私、そんなに見た目、酷いかなぁ。ねえ、カイ?」
カイは笑顔の私を見て、めっちゃ目を泳がせながら首を振って「いや、お前は普通だ。うん、普通の女の子だ。余計なことをしてすまなかった」と、すぐに美容効果を打ち消す薬をくれ、私は一気に飲み干した。
「これで元通りね? カイ?」
「あ、ああ、うん。ただ、すでに効き始めてたから、多少は、その、効果が……」
言いにくそうにもごもごとするカイ。
「多少ならいいよ、別に。じゃ、もう帰るから」
はぁ……と溜息をついて私は帰って来たんだけど。
まあ、普通はキレイになったら喜ぶもので、むしろ私の反応の方がおかしいと思うけど。
私だって、小さい頃からあるこのそばかすが消えたらすっごく嬉しい。嬉しいけど、それは一瞬にして消えてたらおかしいものだ。じょじょにじょじょに、時間をかけて消えてくれないと困る。
でも、そばかすが確実に消せるということがわかったのはラッキーだ。落ちついたらカイに改めて作ってもらおう。
「あ、電車来た」
電車の警笛が聞こえたので、私は奈緒美に声をかけ、ベンチから立つと、列の最後について電車へ乗った。




