九章 練習試合・一
次の日。
学校から帰ると急いでジーパンとTシャツに着替え、刀を持ってカイの屋敷の庭(森の中ともいうか)でアロイスと試合をしたのだが……。
「ほら、セリ。次はどうするの?」
「くっ……!」
膝をつく私の喉元に剣を突きつけながら、それはそれは楽しそうに微笑みアロイスが訊いてきた。
ちなみに私の刀はアロイスの右足に踏まれて動かせない。しかもほんのちょっとでも動けばすぐに喉を刺すか斬られる。ものすっっごく悔しいけどとれる行動は一つ。
「……参りました」
「はい、よくできました」
私が負けを認めるとアロイスはスッと剣を引いて鞘に戻し、右手を差し出した。
「自分で立てるっ!」
悔しさいっぱいの私はアロイスの親切をつっぱね、刀を拾って立ち上がる。可愛いげがないとわかってるけど、五試合して全敗という悔しさを味わえば、そんな態度をとりたくもなる。
「ふふ。可愛いなぁセリは」
「ふん!」
私の態度の悪さにアロイスは気を悪くすることもなく、さらに可愛らしい笑顔を向けてくる。
「次、どうする?」
「やる。やるに決まってるでしょ! 次こそ絶対に勝つんだから!」
私は刀を構え、アロイスに視線を向ける。
「いいね、さすがセリ」
アロイスも満足そうな顔を私に向けた。
「セリ、頑張れ!」
マユキが離れた場所で一生懸命応援してくれてる。可愛い……。あっちは純粋に可愛いの塊だ……。
私はマユキにニコッと笑顔を向けたあと、アロイスに向き直る。
まったくスキがない。勢いよく勝つ、と言ったものの、ほんとのところはまっったく勝てる気がしない。
アロイスはめっちゃ強かった。一試合、十分もしないで負けてる。けどそれはアロイスに遊ばれてそれだから、真剣にやれば三分もかからないで負ける気がする。これが現役暗殺者の実力なのか。
審判であるカイが開始の声をあげようとしたとき。
「待って。セリ、もういいよ」
「え?」
突然の止めに私とカイはきょとんとした。
「いいよ」
アロイスは抜いた剣を鞘に戻した。
「んん? それってどういう意味?」
とりあえず私も刀を鞘に戻して、正面のアロイスに訊く。
「セリは絶対に皇子と試合したいんだよね」
アロイスはじっと私の目を見て問いかけてきた。可愛いと綺麗が混じった顔で見つめられると、恥ずかしくて顔をそらしたいんだけど、今はそれは許されない。恥ずかしい気持ちを目一杯押さえつけ、私もしっかりとアロイスに答えた。
「当然。勝てなくても、せめて一撃当てて私の恨みをはらしたい。やられっぱなしなんて悔し過ぎてありえない!」
「その気持ちは変わらない?」
「変わらない」
まあでも絶対負けるだろうけど。
「だよね。だからいいよ、試合に出て」
「本当!?」
「ほんとほんと」
そう言うアロイスの言葉に嘘はなさそう。態度は呆れているというか、もうどうでもいいやみたいな空気が出てるけど。
「でも私、アロイスに一回も勝ってないよ」
そう。皇子と試合する条件はアロイスに勝つこと、なのに。
「そうだね。でもセリはこうと決めたら絶対曲げないよね。多分、俺がセリの腕を折ったりして出場できないようにしても出るでしょ」
現役暗殺者が言うとめっちゃシャレに聞こえないんだけど。でもアロイスの言うことは間違ってない。ないんだけど、正直に答えてもなんか怖いのでここは控え目に答えておいたほうがいい……のか?
「…………多分」
とりあえず控え目に言ってみる。
「絶対、出るでしょ」
はあ? 何言ってんだよ、次嘘言ったら殺すよ? みたいな視線と黒い笑顔でアロイスは責めてきた。そんな圧に平凡な女子高生が逆らえるはずもなく。
「はい……」
と、正直に頷く。
「うん、そうだよね。だからこれから開催日まで毎日特訓してあげるよ」
「えっ、何で特訓」
「何でって、皇子に勝ちたくないの?」
「もちろん勝ちたい!」
「はい決まり。でも始めに言っておくけど、特訓してもセリは皇子に勝てないからね」
「えっ!? 勝つための特訓じゃないの!?」
じゃあ特訓なんて意味ないじゃんという私の思考を読んだかのごとくアロイスが答える。
「これはセリが死なないための特訓」
「え」
そんなに皇子は強いのか!?
「ああ、正しくはセリが殺されないための特訓ね」
「なにそれ。結局死ぬのは変わらないじゃん」
何がどう違うんだ。どっちにしても死ぬのはもう絶対に嫌だけど。
盛大に呆れた感のアロイスが「全然違う。セリ、セリはさ、自分の動きが変だって気づいてないの?」
「えっ……」
私はギクリとした。と同時に、推測が確信に変わった。
「やっぱりあるんだね、自覚」
アロイスは私の動揺を見逃さず、それをイエスととったようだ。
「えっ、と。どう、なんだろうね……?」
アロイスから視線を外し、薄暗い森を眺め……るはずだったけど、残念ながら薄暗い緑色ではなく、見かけは天使、中身は悪魔の様なアロイスが私の視界を埋めた。
「セーリー?」
にこにこと、それはそれはものすごく可愛い笑顔と脅しを含んだ黒い声で。
「はい……」
そして私は全てを白状させられた。




