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九章 招待状・五

開けたドアの先は近所のコンビニ。

そのままスッと店内に入り、スカートのポケットに手を入れ、スマホを出す。

画面には17:13と表示されている。念のためと、レジの上の方の壁にかかっている時計を見ると17:15と針が指していた。

時間のズレはほとんどないみた。よかった……。

なら、コンビニに行った証拠品としてジュースでも買ってさっさと帰ろう。今の時間ならお兄ちゃんしかいないから特に問題ないけど、遅くなりすぎてもね。私は店奥のジュースの所へ行き、新商品のミルクティーのボトルを取り、レジへと向かった。


家に戻ると一階には誰もいなかった。

お兄ちゃんは多分部屋に戻ったんだろう。私は電話の近くに置いてあるペンを取ると、ジュースに名前を書き、冷蔵庫に入れた。そうしないとお兄ちゃんに飲まれるからだ。書いても飲まれる時もあるけど、所有者が誰かは主張出来るので、弁償させやすい。ま、今回はミルクティーだから多分お兄ちゃんは飲まないだろうけど。念のためね。


それから部屋に行き、隅に置いてある竹刀を袋から出し、軽く振る。

「アロイスと勝負、かぁ……」

勝負とか言うんだから、それなりに強いんだろう。

というか、職業が暗殺なんだからそれなりどころか相当強いんじゃ……。

あれ、でも……。

ふと思い出した。アロイスの手って、すごく綺麗だった気が。手を繋いだとき、剣を使う人特有の手の厚さとか感じなかった。普通の手、だったと思う。男の人と手なんか繋がないから、あれが普通なのかどうかはわからないけど……。うーん……。ま、いいや。深く考えないどこ。

とにかくアロイスと勝負して勝たないと皇子と戦わせてもらえない。それは絶対に嫌だ!

皇子にも私が受けた嫌な気持ちの何十分の一程度でも味わってもらわないと悔しすぎる!

そのためにもアロイスに負けるわけにはいかない。

「素振り、してこようかな」

私は竹刀袋に竹刀をしまい、ジャージに着がえると離れに住んでいるおじいちゃんの所に向かった。


うちは母屋と離れに分かれていて、離れにはおじいちゃんとおばあちゃんが住んでいる。おじいちゃん達はお母さんの両親だ。お母さんの先祖、と言っても三、四代ぐらい前のご先祖様がここに土地を買って、それからずっとここに住んでるそうだ。家は建て直したり、リフォームしたりしている。離れはちょっと古いが、母屋は私が小学生の頃に建て直したので、まだ結構きれいだ。

で、その母屋には両親と兄、私の四人で住んでいる。

母屋と離れは木のフェンスで区切られている。そこに作られたドアを開け、離れに入る。

そのまま庭に行くとおじいちゃんが池の手入れをしていた。

「あれ、おじいちゃん、いたの?」

「そりゃここはじいちゃんの家だからな。芹こそ何しに……て聞く方が愚問だな」

「そうよ、愚問愚問」

おじいちゃんはやれやれという感じで立ち上がり、池から離れ縁側から家の中に入った。

私も縁側に向かい、座っておじいちゃんが来るのを待った。

「ほら」

「わーい! ありがとう、おじいちゃん!」

おじいちゃんが持って来てくれたものは木刀。それを喜んで受け取ると、私はまた庭に出て稽古を始める。

「おじいちゃん、仕事は? お休みだったの?」

「いや、今日はじいちゃんの分は終わったから、あとは正二に任せてきた」

「そっか」

おじいちゃんは造園関係の会社を経営している。そう、社長さんだ。正二叔父さん(正確には大叔父さんかな。でも面倒なので叔父さんで呼んでる)は副社長で、次期社長。お父さんはおじいちゃんの会社は継がないから。お兄ちゃんも継がないだろうし、私にいたってはそこまで生きていられるかどうか……。

それはさておき。今は稽古だ。

習った型を思い出しては一つ一つ、なぞって行く。

「芹!」

大声で名前を呼ばれ、びっくりして声の方を振り返る。

おじいちゃんが庭に下りて、木刀を持って立っていた。

「芹、相手をしてやろう」

「本当!? やったあ! あ、でもおばあちゃんは?」

「まだ仕事だ。あと一時間ぐらいは大丈夫だろう」

「やった! じゃあよろしくお願いします。先生」

私は姿勢を正し、先生に礼をした。


稽古を終え、家に戻ると、もうお母さんも帰って来ていて夕飯の支度をしていた。

私はキッチンには寄らず、真っ直ぐ部屋に向かった。

部屋に戻ると部屋着に着がえ、ベッドに横になった。

「ふぅ……。やっぱりおじいちゃんにはまだまだかなわないなぁ……」

まだまだどころか、まだまだまだまだ、ぐらいかなわない。

剣術の先生は二人いる。

一人はおじいちゃん。私にとってはメインの先生。

もう一人は道場の先生。この先生はおじいちゃんの知り合いで、趣味で教えているような感じだ。

もちろん、ちゃんとした師範だ。大人数に教えるよりは自分の気に入った人にだけ稽古をつけたいと言って、勤めていた道場を辞めて、自宅に小さな道場を作りそこで剣術を教えている。

ちなみにおじいちゃんとは流派が違う。

私はおじいちゃんだけでよかったのに、おじいちゃんが先生の所に行かないと、もう稽古はつけないと言ったので仕方なく習いに行ったんだけど。その理由は……何となくわかってしまった。おじいちゃんに問い正そうとかも思わない。世の中には気づかなくていいこともある。うん。

剣術の他にも体術もおじいちゃんから習っている。本当はお兄ちゃんに覚えてもらいたかったんだろうけど、お兄ちゃんは基本的な所だけ覚えるともういいと言って辞めてしまった。おじいちゃんも無理強いとかはしないで、それ以上は教えようとしなかった。

逆に私はもっと教えて欲しいのに、護身術程度のことしか教えてもらえない。

これはお母さんとおばあちゃんのせいもある。

二人は私が剣術や体術を習うのがとても嫌なのだ。

女の子なのにそんな危ない事を覚える必要はない、そうだ。

万が一顔に傷を作ったり、治らない怪我を作る可能性を進んで作りに行く必要はない、ということで。

そう言われると、おじいちゃんも孫のお願いを叶えたくても躊躇してしまう。

お父さんもお兄ちゃんもこの件に関してはノータッチ。下手に私の味方をしようものなら日々の生活に影響が出るからね……。食事とか洗濯とかまあいろいろ。

ただ私もこの二つに関しては絶対に譲らなかった。どうしてもやりたかったから。

毎日毎日毎日毎日、辞めろと言ってくる二人に嫌だ嫌だ嫌だ嫌だと拒否の言葉を伝えたけど、お互いに引く気はない私達。これじゃいつまでたっても埒が明かないので、私は実力行使に出た。

家出したのだ。

近所に住む(車で三十分ぐらいのところ)正二叔父さんの家に行った。

正二叔父さんには事情を話したし、おじいちゃんにも話して了解をもらった上での家出だ。

私が絶対にあきらめないのをおじいちゃんもおじさんもわかってたからね。だからおじさんも協力してくれた。

自分で言うのもアレだけど、ほんとよくやったわ。六歳の子供が家出とか。まあ、それだけ必死だったし。

正二叔父さんの所にしたのは、叔父さんも体術を使えるから。叔父さんの子供の梲彌たつみさんも使えるので、おじいちゃんはお兄ちゃんには無理に体術を教えなかったのだ。

ちなみに梲彌さんは、おじいちゃんから体術の全てを受け継いでいて、物凄く強い。

小さい頃、二人の稽古を見てあまりのかっこよさに子供ながらも超感動して。私もあんな風にかっこよく動いて技を出したいと思ったのよ。

あと、正二叔父さんの家には梲彌さんの奥さんの結花ゆいかさんがいて、美味しい料理をご馳走してくれたりお菓子を作ってくれるのがすごい楽しみで。家では食べられないご飯がもう嬉しくて。それ以外にも、叔父さんの所には三人のお兄ちゃん達がいて、あれこれ遊んでもらえるというのが大きかった。みんなめっちゃ可愛いがってくれるから、いろいろ甘え放題。下手したら自分の家よりも居心地がいいかも……。だって、剣術も体術も反対されない。これは私の中では一番大事なことだ。

で、この家出のおかげで私の意志がものすごく固いものということを理解した家族は、私に条件を出した。これをのめば剣術も体術も続けていいと。ただその条件が面倒くさかった……。でも、それをのめば続けられるなら私にはわかったと言うしかなくて。

その条件とは、剣術や体術、およそ女の子がやるようなものじゃないものをやるなら、女の子らしい習い事をしろというものだった。例えば、お茶やお花、日舞とかね。私は仕方なく、剣術のために茶道を、体術のために社交ダンスを選んだのだ。ダンスは結構身体動かすから、まあまあ悪くもない。しかも絶対、一生、役に立たないと思ったダンスが役に立ったしね。ふっ……。

ああ、なんかちょっとお兄ちゃん達に会いたくなったかも。あとハジメをもふもふして癒されたい……。ハジメは正二叔父さんの家の飼い犬だ。シベリアンハスキーのオスでもふもふの愛い奴だ。

よし! いろいろ終わったら叔父さん家に行って、めいっぱい癒されに行くぞ!!

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