九章 招待状・三
「見たところ仕掛けは何もないな」
アロイスが封筒を手に取って言う。
「マユキは?」
アロイスはマユキに封筒を渡す。
マユキは封筒を受取り、ぱっと見たら「なんにもないよ」と言い、アロイスに封筒を返した。
「仕掛けはなかったけど、差出人がねぇ……。やっかいな」
と言いつつ、いつの間にか手にしていたナイフで手際よく封を開けた。
「俺が読んだ方がいい?」
「うん、お願い」
まだ文字はよくわからないからアロイスに投げた。
「セリ・ハヤカワ、コンテスト最終開催日が決定した。最終試験内容は勝ち抜いた候補者同士で戦うものとする。種目は剣技とする。なお、代理人による戦いは認める。詳しくは下記日時までに登城せよ。リーンハルト・リーリエ・ヴェインローゼ・フォン・ヘルブラオ。……ざっくりこういうこと」
アロイスは手紙をマユキに渡す。
それに目を通したマユキも「うん」と頷き、食卓に手紙を置いた。
今度はカイが手紙をひったくるようにさっと取り上げ内容を確認する。
「間違いない」
「えっ、と……」
三人の視線が私に向けられている。つっこみたいことは沢山あるけどまずは「なにそれ……」だ。
頭の中はなにそれなにそれありえない、と同じ言葉がループしている。
「セリー、大丈夫ー?」
呆然とする私に誰かが声をかけている……気がする。
「セリー!」
「わっ!?」
マユキが私の膝の上に軽くダイブしてきた。さすがにこんなことされれば意識が戻る。
「こら、マユキ。いきなり飛びついたら危ないでしょ」
ここは年上として、保護者としても注意しなければと思い、表情も少しきつめに作った。
そしたら結構堪えたのかしゅんとした表情になり「ごめんなさい」と潤んだ目で見上げられた。
「うっ……!」
可愛い……!
可愛い盛りの子犬がおろおろしながら許して、ごめんなさい、と必死にご主人様にすがりつくようなアレと同じ。
マユキのためにもちゃんと注意しなきゃいけないのに出来ない。こっちは悪くないのになぜか罪悪感でいっぱいになる。これは……だめだ。
「いきなり抱きつくと怪我する場合もあるからね。気をつけなくちゃだめだよ、マユキ」
もう少しピシッと言いたかったけど、可愛さに負けて注意する口調は甘くなった。
「うん、わかった。セリの言うことは守るよ」
「うん、いい子」
私はマユキの頭を良くできたねと、いい子いい子と撫で撫でした。
とたん、ぱあっとマユキに笑顔が戻った。
「ちぇー、ずるいなー。俺もセリに可愛がってもらいたい」
私の右側からとんでもない言葉が聞こえた。
「は!? 何言ってるの?」
マユキを撫で撫でしながら首だけ右側に向ける。
そこには甘えたそうな可愛い笑顔を浮かべたアロイスがいた。
「うっ……」
く、悔しいけどこっちの笑顔も可愛い。
ふんわりした金髪に淡いエメラルドグリーンの瞳。絵画に描かれている天使みたいな容姿で微笑まれるとすごいクる。でもこっちの天使の笑顔は無垢さだけでなく邪ななにかも感じるんだけど。
「ねー、セリ。俺も可愛がってってばー。ねーねー」
しまいには私の右腕まで引っ張り始めたちょっと腹黒い天使。こうなるとウザい。
「やだ」
私はさっくり切り捨てた。
「セリ酷い! 冷たい!」
「やだってば。めんどくさい」
「うわー、酷い。俺、セリにすごいつくしてるのにご褒美もないなんて冷たいご主人様だ。あ、わかった。そうやって俺の心を試してるんでしょ? いいよ、いくらでも試してよ。俺、負けないから」
「は!? 何言ってるの!? それにご主人様じゃないし!」
話がわけわかんない方向にとんでいった。
ぎゃあぎゃあ言い合っている中、ひんやりした空気とともに「お前達、いい加減にしろよ」と、呆れと苛立ちの混じった声で、今にもキレそうなカイが立っていた。
このまま騒ぎ続けると超めんどくさいことになると瞬時に悟った私たちは、ぴたっと口を閉じて大人しくした。




