二章 候補者達・二
「とうとう全員揃ったな、リーン」
俺は紅茶をいれながらリーンに話しかける。
「…………」
候補者達との顔合わせを終わらせた後、俺はすぐに執務室に戻り、途中だった仕事の続きをする。
リーンは相変わらず、執務室で仕事に忙殺される毎日だ。
今も書類から目は離さず返事もしないが、明らかに不機嫌になったのは気配でわかる。
だから今回はリーンの一番好きな紅茶と菓子を出す。
注いだ紅茶と菓子をトレイに載せてリーンの所へ行く。
「ほら、リーン。書類片して。紅茶が置けないだろ?」
リーンは軽く溜息をつくと言われた通り書類を片し、紅茶と菓子を置くスペースを作った。
俺はそこに紅茶と菓子を置くと、トレイを持ったままリーンの執務卓に行儀悪く軽く腰掛けた。
「書類は破るなよ」
リーンは腰掛けたことに対しては咎めず、書類の心配だけする。
「わかってるって」
第一そんなことをすればまた用意し直すのは俺だ。俺だって自分の仕事は増やしたくない。
「で、どうするんだ?」
リーンが顔を上げ、カップをソーサーに戻す。
「花嫁候補、だよ」
言われなくてもわかっているくせに。
だから俺はわざと花嫁の所を強調して言ってやった。
リーンは端整な顔を不愉快だと言わんばかりに歪める。
悔しいのは、たとえ嫌悪に顔を歪めてもその端整さは失われないということだ。羨ましい。
「そんなモノ、必要ない」
「必要でしょ、そんなモノ。地位とか品格とか考えると、やっぱりマリかクロード王女がいいかなと思うけど」
「格だけならな。だがそいつらより、あの小娘が勝ち上がって来ないと困るな」
俺はえっ!? と思わず耳を疑った。聞き間違いかと。だから思わず聞き返した。
「え? 今何て言った、リーン?」
リーンはジロリと上目遣いで俺を睨みを、嫌そうながらも答えてくれた。
「あの小娘には勝ち上がってもらわないと困る、と言ったんだ」
どうやら俺の聞き間違いではなかった。予想外の答えで、俺は改めて驚いた。
「あの小娘はこの俺に刃向かった。それなのに何の罰も受けずにいるのは赦せない。勝って、俺が民衆の前でじっくりと躾てやらないとな」
リーンはククッと嘲うと、紅茶を飲む。
本当に想像もしなかった。
まさかリーンがここまで興味を持ったなんて。
たとえその感情が負のものだったとしても。
(これは……)
俺はあの子に少し期待してもいいのだろうか。
大事な親友、リーンハルトを救ってくれるのかも、と……。