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八章 小さな保護者達

「見えるか?」

「うん、ばっちり」


俺達は今セリの帰りを待っている。

あの騎士、俺達を無関係だからといって城門前で馬車から追い出しやがった。

王宮内には入らないから、せめて城門内までは入れてくれないかと下手に出たのに、しつこいと言ってセリの方に脅しをかけてきた。セリにとばっちりを受けさせるわけにはいかないから仕方なく馬車から降りてやったけど。

俺達に負けた小物の騎士のくせにね。

とはいえ、セリの様子は気になるのでどうしようかと考えているとマユキが協力してやると言ってきた。

「私の目を貸してやる」

「それって……」

「ああ。まだセリと繋がった余韻が残っているから今なら同調できる。その状態の私と同調すればセリの様子は窺える。お前ならできるだろう?」

当然のようにマユキが言うから俺は苦笑しながら「ああ」と頷いた。

「では早速……」

「ああ、待って。あそこで始めよう」

俺は城門前の道にある大木に視線を向けた。

人目につきすぎてもまずいし、同調してる間は多少無防備になるから何かあったとき、若干反応が遅れるからな。

「わかった」

俺が大木にもたれかかり、マユキを俺にもたれかかせる。後から抱きしめるような感じ。

マユキは文句を言うこともなく俺の指示に従った。

「では始めるぞ」

「どうぞ」

俺は軽く目を瞑り、マユキに同調を始めた。

ほどなくして視界が変わった。

「皇子の部屋か」

重厚で華美を排した部屋だ。執務室か。

声は聞こえないけど唇の動きで何を言ってるかは大体わかる。

「痴れ者どもめ」

「だよね」

マユキの抑えている怒りが俺に伝わる。

「セリをこんなに怖がらせて。こいつら本当に最悪」

いきなり髪を引っ張られ脅されて。ものすごく怖いだろうに。ああもう、今すぐにでも助けに行きたい。けどそれはできない。いや、本当はできるけどしてはいけない。

俺もマユキもそれをすればセリがますます目をつけられることを理解しているので、どんなに行きたくても我慢するしかない。セリのために。

「あ、セリやるな」

カールの急所に蹴りを入れるなんて。あの状態でこんなことしようだなんて。

俺は思わず吹き出した。

「セリ、いいなぁ」

「ああ」

マユキも軽く笑いながら同意した。

だがすぐにまた怒りが湧き上がる。

カールがセリを組み強いた。

「あれ以上のことするなら俺もう我慢しない。ちょっと力貸してよ、マユキ」

嫌がる女の子に無体を強いる男なんて死んでいい。貴族だろうと関係ない。

「ああ。だが私の力だけで事足りる」

「え、それはありがたいけど……」

暴走したドラゴンなんて俺どうにもできないよ。

俺の心中を察したのかマユキが軽く笑う。

「大丈夫だ。セリの中に残っている私の力を使うだけだ。ちょっとした威嚇程度だから安心しろ」

「ならいいけど」

いや威嚇程度といってもドラゴンだし……どうなんだ?

視覚と心をハラハラさせていると、カールにあれ以上の無体はされなかったが代わりに皇子から暴力を受けた。

「あっ!」

今度は水をかけやがった。

いやかけるじゃなくぶちまけたが正しいか。この量だと満杯近く水差しに入っていたはずだ。

「…………」

声こそ出さないがマユキも相当怒っている。

本当に赦せない。

大の男二人、しかも片方は皇子だ。この国の行く末も見えたな。

どれほど悔しくて腹が立っても今の俺達は見守ることしかできない。力を使うにしてもそれは一回だけ。俺達はただとにかく二人の行動に意識を集中した。

機会は突然訪れた。

「え、何だあれ……」

「ああ」

皇子の髪の毛が真っ赤に染まっていた。

「しかも緋かよ」

緋。

身に出る緋色は忌まわしい色。

つまり。

不浄。呪われたり穢されている証。存在しているだけで害毒。

「最っ悪だな」

誉れ高い皇子殿下が実はとんでもない忌み子だったなんて。

「でもなんで突然?」

あれを隠すなら相当強力な魔法がかかっていたはず。突然とけるなんてありえないだろ。

「あれのせいだな」

マユキが答える。

「どれ?」

「足元の鏡」

確かにセリの足元には銀色の手鏡が落ちていた。

「あれは島の魔法使いの物だ。おそらく魔法解除の魔法でもかかっていたのだろう」

「メーアのか」

「そうだ」

「ああー……。それなら確かにありえそうだ」

ただの手鏡だと思っていたら実は魔法の手鏡だった。

多分セリも魔法の手鏡だなんてしらなかったんだろう。それが運悪くセリから離れ、魔法をかけていた皇子の魔法を暴いてしまった、と。マズイなぁ……。こんな秘密、知られたら殺されるだろう、確実に。

思った通り、カールがセリに詰問し始めた。いや、普通の女の子に対してあれはもう軽い拷問と言ってもいい対応だ。

ああもう本当に殺したいな、あいつら。

マユキも同じ思いのようだ。攻撃的すぎる感情が、俺に流れ込んでくる。

この次、セリに暴力を振るったらもう我慢できない。皇子達の元へ殴りこみに行こうと決めたとき、待ちに待った機会がやってきた。

カールがセリから離れ、苦しむ皇子の元へ駆け寄った。

『セリ、今だ。逃げて』

マユキが呼びかける。

驚いたセリの声が聞こえる。……ああ、心で話しているから聞こえるのか。セリが扉が開かないから逃げられないと言っている。

『大丈夫。扉は開くから。僕を信じて』

セリは少し迷ったみたいだけど、マユキを信じて扉へと向かい、ドアノブに手をかけると同時にかかっていた鍵をマユキが解除し、城門までの道筋も伝えながら逃げるよう指示していた。

城門前までたどり着くと、マユキの意識が切れた。

目を開けると、マユキが俺を見上げていた。

「行くぞ」

「ああ。あと俺達が視ていたことは、セリには内緒な」

あんな目に合わされたことを俺達には知られたくないだろうし、皇子のこともある。

「わかった」

マユキも素直に同意した。

「よし。じゃ迎えに行くぞ」

「ああ」

俺達は下がり始めた跳ね橋の元へ走った。

大事な俺達のセリを抱きしめるために――。

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