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八章 終幕に向けて・一

轟々と音が聞こえる。

それはいつまで経っても消えることはなく、時間が経つほど激しさを増し、私の精神をざわめかせ、苛立たせる。

風が鳴く様に、ザァザァと。

地が轟くように、ゴウゴウと。

耳から、肌から、私の中に入ってくる。

ああ、ああ! うるさい、うるさい、消えろ、消えろ、全て消えて無くなれ!!

とりわけ一番激しく不愉快に私の精神を侵す音の方を見れば、それは天幕の外、舞台上からあの小娘が出している音だった。

こちらに向けて何かを喚いている。

うるさい、うるさい! 黙れ!

私は小娘の口をふさぐために立ち上がろうとしたが、立てなかった。

身体が椅子に縫い留められたように、下半身がピクリとも動かない。

「リーンハルト様」

カールが異変に気付き背後から直ぐに寄ってきた。

「どうなさいましたか」

私は言葉を発する代わりに、目の前に立ち塞がった皇帝を睨みすえた。

現状を察したカールが立ちあがった。

「皇帝陛下、リーンハルト様に何をなさったのですか」

話せない不様な私に代わり、カールが問うた。

「お前の代わりに民達に答えるだけだ。セリは合格だとな、リーンハルト」

皇帝は威圧的に私を見下しながらそう告げた。

「畏れながら、皇帝陛下。それはリーンハルト様がお決めになることです。皇帝陛下ではございません」

カールも毅然と言い放つ。

皇帝はカールを無視し、また私に言った。

「リントヴルムではないとはいえ、セリは本物の黒竜の一部を持ち帰った。か弱いただの少女が、だ。この功績をリントヴルムではないからといって不合格にするのはおかしい。そうであろう、リーンハルトよ」

「………………」

この男は私があの小娘を不合格にすると思い、私にこんな屈辱を与えたのか。

私の意思など必要ないと言い、いつも力で踏み躙り、潰す。

ああ、ああ、いつまで経っても変わらない。いつになったら私は自由になれる?

いつになったらこの苦しみから解放される?

お前さえ、お前達さえいなければ私はこんな目に合わずに済んだのだ。

そう。だから、お前達は絶対に、この身が朽ち果てたとしても、絶対に――

「……赦さない」

魔法の影響で声が出にくくなっていたが、全身の力を振り絞り、その一言だけを腹の底から出した。

皇帝の表情が怒りで歪んだ。

「その言葉は私が言うものだ、痴れ者が」

そう言い捨てると、皇帝は舞台へ向かい、小娘の合格を告げると舞台を去った。

皇帝が去ると同時に身体の縛めも解けたが、皇帝から受けた屈辱も一気に心の底から噴き上がったが、無理矢理心の底に押しやった。

今ここで、絶対に理性を失うわけにはいかない。

屈辱や怒りで震える両手を力強く握り込み、口から溢れそうな悪口が洩れないように強く歯を喰い縛る。

「リーンハルト様」

カールが冷えた水――精霊水をトレイに乗せて差し出した。

私は握りしめた左手をゆっくりと開き、怒りでまだ震えがおさまらない腕を何とか制御しながら、グラスを口元まで運び、一口、一口と飲み込む。

空になったグラスをトレイに置き、ゆっくりと息を吸い、吐いた。

外の喧噪は酷くなる一方だが、あの激しい衝動は凪いだ。とはいえ、一時凌ぎの程度だ。早く自室に戻り、自我を完全に戻したい。

そのためにもこの馬鹿騒ぎを終わらせねば。

「行かれますか、リーンハルト様」

カールが私の目をじっと見つめる。

「ああ」

私は立ち上り、舞台へと歩き出す。

小娘――、セリのせいで私は要らぬ屈辱を受けるはめになった。

となれば、同じ思いをセリにも与えてやらなければならない。当然だ。

「さて、お前の惨めで無様な醜態を晒してやろう、セリ」

そしてこんな茶番劇も壊し、終わらせてやる。

女共よ、その時は最高の醜態を披露しろよ――。

舞台から私を見上げる女共を一瞥した。そして、この場から去るために私は口を開いた。

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