八章 リントヴルムの一部
舞台中央に立ち、目の前の皇子や魔法使いの鑑定を待つ。
私はリントヴルムの爪ではないが、同じドラゴンである黒竜の爪であることを皇子達に話した。
皇子は無視、魔法使いは「わかった」の一言。どっちも愛想がない。別にいいんだけどね!
それを受け取った魔法使いはじっと眺めたり触ったりしていたが、判別が終わったのか、そっと手前の台座に爪を置き、皇子に「本物です」と告げた。
その言葉を聞いた観客や候補者達は動揺したみたいだけど、皇子は何のリアクションもなく爪を一瞥しただけだった。
「嘘よ! 絶対に嘘よ! こんな子がこの短期間で本物のドラゴンの爪を持ってこられるはずなんてないじゃない!」
ニーナが突然叫びだした。
この中で失格になったのは、ニーナとマルヴィナ王女の二人。
他の合格者は自分より格上だから異存もない。けど自分より格下の私が合格したのが許せないということか。ま、そうだろうね。
「お前、この私の判定が嘘だと言うのか」
偽物判定をしたと疑われて、気分を悪くした魔法使いが凄みをきかせてニーナを睨む。
「ひっ!」
ニーナの顔は真っ青で、恐怖で後退った。
「私の判定に異を唱えるということは、皇子の、ひいては皇族に対する侮辱だ。その上での発言だろうな」
魔法使いは高圧的にニーナを追い詰める。美人なだけに迫力も倍増。
迫力負けでこのまま引くかなと思って見ていたけど、意外なことに全身を恐怖で震わせながらも顔を上げ、怯えながら魔法使いに反論した。
「おっ、畏れながら、無礼は承知の上で申し上げます! この女がドラゴンの爪など持ってこられるはずありません! それを本物と判断されるのなら、絶対に何か仕掛けがあるはずです!」
言い終えるとニーナは般若のような形相で私を睨んできた。
でも、ドラゴンに襲われ死にかけた身としては、ニーナの凄みなんてどうってことない。
平然として自分を見ているのが気に入らないのか、ニーナは私の前に来て怒鳴り始めた。
「あんた、何自分は関係無いみたいな顔してるのよっ! 一体どうやってあんな偽物で皇子様を騙そうとしたの!? そんなに皇子様の花嫁になりたいの!?」
冗談じゃない。皇子の花嫁になんかなりたくない! 考えただけでゾッとする。けどあの子のくれた爪を偽物呼ばわりされるのはムカついた。これは許せない。
「そっちこそいい加減にしてくれない? 偽物を用意したのはそっちじゃない。言いがかりも度が過ぎると惨めで不様、最悪」
「何ですって! このっ……!!」
はっきり言い返されてさらに怒りが増した様で、私に平手打ちをしようとしてきたから、向かってきた手を掴んでその勢いを利用して捻り上げた。
「痛いっ!」
それは自業自得。私は基本売られた喧嘩は買う主義なんで。
「あっ、そ。やったらやり返されるってわかった上で、手を出したんでしょ。違うなんてこと、ないよね?」
私はミントのように清涼感溢れるような感じで微笑みつつ、さらに手首を捻り上げた。
「痛いっ!!」
ニーナは私の手を振りほどこうとバタバタみっともなくもがいているけど、もがくほど痛みは増す。
そろそろ鬱陶しいのでニーナの手を離し、そのまま軽く押した。
ニーナはバランスを崩してよろめき、間の抜けた叫びとともに尻餅をついた。
解放された手首を擦った後、尻も擦り、肩を大きく上下させ、顔も真っ赤にして涙目でさっきよりも数倍激しい憎悪を上乗せして私を睨んでくる。
「このっ……! よくもっ!」
立ち上がると、猪のように物凄い勢いで掴みかかろうと向かって来たので、また軽くあしらおうとしたけどその必要は無くなった。
「お前達、いい加減にしないか! この場を何処だと心得ているのだ!」
カールだ。
この場をカールの声が一刀両断した。
ニーナはその声に打たれ、全身の毛が逆立ったように震え、ようやく動きが止まった。
わたしも声にビックリはしたけどそれだけ。むしろとばっちりを受けていい迷惑。納得いかなくてムカッと来たけど隣のニーナは「あ…………」と発したかと思うと、顔色が赤から白になっていった。
そしてガクリとその場にへたりこみ、「も、申し訳、ございません……」と床に額をつけて謝っていた。
見るまでもない。
カールの後にいる人物を見て、正気を取り戻したんだ。
「お前は何をしたのかわかっているのか?」
カールの怒りを孕んだ冷たい声が響く。
「もっ、申し訳っ、ございませんっ!」
ニーナは額を床にめり込ませるほどに、平身低頭してカールと後の人物に謝り続けている。
他の候補者達があまりの醜態に見かね、顔を上げるよう声をかけたんだけど、聞こえないのかこちらを見向きもしない。
どうするのかという視線で皆がカールの方を向き始めたとき。
「女、下がれ」
皇子だ。
言葉だけでこの場の気温が一気に下がったような気がした。寒い。ゾッとした。そう、アレだ。怖い話や映像を見て精神的にクる恐怖感だ。
その声にはカールなんて比じゃないぐらいの嫌悪と怒り、不快感が混じっているのがわかる。
ニーナはガクガクと震え、その場から動けない。
カールは側に控えている兵士に手で合図をした。
兵士はさっとニーナの両脇に来ると、腕を掴み、退場させようとした。
ニーナは抵抗せず、引き摺られるように兵士に連れていかれたが、舞台から降りる寸前、身体を後に捻り私に向かって罵詈雑言を吐き出し始めた。
「あんたが皇子様の花嫁になるなんて相応しくない! 負けろ! 負けちまえ! もし花嫁になったりなんかしたら絶対に許さない! 必ず呪ってやる! 必ずよ!」
他にも色々と叫んでいたけど、どうでもいい。
兵士は暴れるニーナを抑えながらこの場を去った。
後には不愉快な余韻だけが残った。




