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八章 大聖堂の聖杯

次はニーナの番だ。

マルヴィナ王女の後に審査とはちょっと可哀想かなと思わなくもない。

あんなに王女としての品格ある振る舞いをみせられちゃねぇ……。敗けているのに、他者を気遣う心の広さと深さというのか、そういうのを見せられたあと、庶民の娘の存在感なんて無いも同然。今もニーナのことより、マルヴィナ王女の話で盛り上がっている。

そんな中、舞台中央、皇子達の前には黒いドレスが木のマネキンに着せた状態でいつの間にか用意されていた。

光沢があり少し派手な感じのする黒いドレスだった。

全体的にやや品性に欠けるドレスって感じ。いわゆる、品のある女性が着るような感じのドレスではない。

「それでは次に行きます。ヘルブラオ国、ボレルの娘、ニーナ嬢です!」

紹介されたニーナはマルヴィナ王女と同じように皇子達の前に進み出、一礼をした。

緊張し過ぎているのかとても落ち着かない様子でビクビクしていた。

魔法使いと皇子はドレスを見る価値もないといった視線で一瞥し、カールが判定を司会者に伝えた。

「では結果を発表します! ニーナ嬢、不合格です!」

ニーナは全身から力が抜けたようで、ガックリと肩を落とし深くうなだれた。

「ニーナ嬢、異存はないですね」

カールが最終確認をすると「はい……」と力なく返事をし、皇子達と観客になんとか一礼すると、今にも転びそうな足取りて戻って来た。

戻ってくる間に、観客達の声が聞こえたけど「やっぱりねぇ……」とか「急いで仕立てたただのドレスだろ」とかいう反応だった。まあ庶民なのにここまでよく頑張ったよなという慰めの声もチラッと聞こえたけど大多数はもうクロード王女の審査に気持ちが移っていた。


「続いてはフラージュ国、クロード・エミリエンヌ・ド・フラージュ王女殿下です!」

また同じ様に皇子達の前に聖杯が置かれ、王女が舞台中央に進み出る。

今回もまた偽物だろうと誰もが思いながら、皇子と魔法使いを見守っていたが、魔法使いが緊張した面持ちで、目の前に置かれた聖杯をじっと検分していた。

聖杯はそう大きな物ではなくて、女性の両手で持てる程度の大きさ。

聖杯自体は鈍い金色に光ってて、所々によくわからない模様が彫られている。

魔法使いは静かに丁寧にそっと聖杯を捧げ持つと表情が変わった。

見てはいけないものを見てしまった、触れてはいけないものに触れてしまった――。恐れおののく感じの表情だった。

魔法使いは聖杯をそっと台座に戻すと緊張した表情で皇子に話している。それをカールが司会者に伝えた。

「では結果を発表いたします! クロード王女殿下、合格です!」

今までのまたか、というだれた雰囲気が一変、大歓声に変わった。

「え!? 本物!? 偽物じゃなく!?」

「魔法使い様が言うんだ、間違いねぇだよ!」

「流石、クロード王女殿下。素晴らしい!」

等々、周りからはクロード王女への称賛が飛び交い途切れない。

もちろん私も尊敬の目差しだ。

リントヴルム程じゃないにしても、きっと相当の危険があったはず。そんな品物を持ち帰れたクロード王女、凄いなぁ。

そんな熱気の中、皇子はクロード王女に何か話しかけていた。周りがうるさくて、所々の会話だけしか聞こえない。

「色で落としたか、それとも魂でも売ったか?」

「そのようなことはいたしておりません。少しの間、貸していただけるよう、誠心誠意お願いさせていただきました。それだけですわ。……失礼ながら、殿下がそのような下賎なことを仰るとは些か失望いたしました」

「そうか」

(色で落とす、売る……? 番人とかかな? ま、レア物に番人とかがいるのは当たり前だよね)

聞こえたのはここだけで、あとは聞こえなかった。

その後司会者が場を静め、他の候補者にも質問したことをカールがクロード王女にも訊いた。

「クロード王女殿下、おめでとうございます。いかに地下迷宮を踏破し、聖杯の守護者からこの聖杯を受け取られたのですか」

クロード王女は静かに話し始めた。

「私の嘘偽りのない心を守護者に語り、その私の心を守護者が信じて下さいました。聖杯はこの後、元の場所へお返しいたしますが、他国の者である私を信用し、この国の至宝である聖杯を預けて下さった守護者とヘルブラオ国の民に私、クロード・エミリエンヌ・ド・フラージュは感謝いたします」

堂々と言いきったクロード王女は皇子や国民に一礼すると、物凄い歓声が上がった。スポーツ観戦のときの歓声と同じで、観客はすごく興奮してる。みんなクロード王女をべた褒めだ。

そんな中、司会者が頃合いを図って、皇子からのお言葉があるからと、場を静めようと観客に声をかけていた。

場が静まると皇子は王女に向けて言葉をかけた。

「クロード王女殿下、見事である。その素晴らしい知恵と勇気、次も期待しよう」

淡々とそれだけ言うと、また奥に引っ込んだ。

たったそれだけの言葉なのに、観客は大興奮。王女は皇子にまた一礼すると、品のある微笑みを見せながら席へと戻った。


「続いてはヘルブラオ国、バスラー伯爵のご息女、ミリヤム・フォン・バスラー姫です!」

司会者が紹介すると、ミリヤム姫が舞台中央に進み出た。

そこにはミリヤム姫の品が持ってきた品が用意されていた。

それはアンティークな感じで上品な細工が施されたカンテラが二つ置かれていた。

中には何か入っているようだけど、ここからだとよくわからない。何を持って来いって言ってたっけ?


そのカンテラを皇子が取上げ、じっと中を見ていた。しばらくした後、手に持っていたカンテラを台に置き、もう一つのカンテラの中を同じ様にじっと見ていた。

カンテラを台の上に置くと、皇子は正面に立っているミリヤム姫に言った。

「どうやって見つけた」

「執事長の説明通りに探しました」

「ほう。お前のような娘にそのような執念があるとわな」

「お褒めにあずかり光栄でごさいます」

ミリヤム姫は深々と頭を下げた。

皇子はカールに何か話し、カールは司会者に話す。

「えー、審査の結果を発表します! ミリヤム姫、合格です!」

うおーっという大歓声の中、ミリヤム姫は観客に手を振って席に戻って来た。ちらりと隣の姫を見ると、何事もなかったような表情で姫は座っていた。


さて、次は私の番か。

アロイス達には悪いけど、もうほんと、不合格にしてくれないかと私は心底思っていた。

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