七章 森の中で・一
「え、ええっ!? ここどこっ!?」
「落ち着け、セリ。ここは最初にお前達が来た森だよ」
「ええっ!?」
瞬間移動をされて落ち着けって方が無理! 場所なんてわかんないよ!
「んー、多分本当。雰囲気が同じ」
辺りを警戒しながら冷静にアロイスが答えた。
「まあそう警戒しないでよ。別に何もしないよ。しないけど……教えてよ、セリ。コレに一体何をしたの?」
地面に横たわるアスワドを、メーアは指差した。
「何っ、て……?」
私はドキリとしながらメーアの様子を窺った。
「惚けなくてもいいよ。壊れかけとはいえ、ドラゴンの封印を壊すなんてこと、そうそうできることじゃない。ね、どうやったのか教えてよ。すごく知りたい」
目をキラキラと輝かせ、ズイッとメーアが迫ってきた。
「知ってどうするの」
話すか話さないか逡巡している私の前に、アロイスがするりと入って来た。
「知りたいだけ。別にどうこしたいわけじゃないよ。純粋に興味と好奇心。あと知識として記憶したいだけよ」
ニコニコキラキラとしながらメーアは答える。
「ふーん。だってサ、セリ」
首だけ振り向け、アロイスがどうするの? と目で問いかける。
「ん……」
そうだなぁ、別に全部話す必要もないし、言えることだけ言えばいっか。もしアスワドに何かあったとき、相談ぐらいはできるかもしれないし……。
「うん。わかった」
とりあえず、生死の境をさ迷い、そこで会ったアスワドとのことを知られても構わない範囲で話すことにした。
「なるほどねぇ。それはすごいね。つまりアスワドが自分の意思でセリを主人に選んだってことだよね!」
メーアが興奮ぎみで捲し立てる。
「え、あ、うん……。でも、私としては家族のつもりでいいよって言ったんだけどね。弟、みたいなものかな」
主人とかペットじゃないんだから。いやでもドラゴンという時点でペット……?
「ま、何にしろコレが起きなきゃどうにもならないよ」
アロイスがアスワドをチラリと見る。
横たわっているアスワドは、青白い顔のまま一向に目を覚ます気配はない。
私はペタリと座ってそっと頭を撫で、名前を呼んだ。
「起きて、マユキ」
呼んだとたん、アスワドの身体が淡い光に包まれ、アスワドが消えた。
光はまだ残り、完全に消えるとそこには八~十歳ぐらいの男の子がいた。
「えっ……?」
その場にいた全員、唖然とした。
本来ここにいるべきは大人の男のはずなのに、今目の前にいるのは、綺麗な男の子。
だけど、そんな中にいても男の子はじっと私だけを見上げていた。
何かを訴えるような目で。
「えっ、と……」
とにかく確かめてみないと。
「マユキ……?」
瞬間、男の子はぱぁっと笑顔全開で私に抱きついてきた。
「そうだよ、セリ! ずっと待ってた。セリが名前を呼んでくれるのを!」
「え、と。待たせてごめんね?」
とりあえず謝っておく。
「うん。これからはセリとずっと一緒だよ」
本当に嬉しそうにそんなことを言われると何だか照れる。
「ていうか、何で子供になってるの!? マユキ!」
「ああ、そうか」
マユキは私から少し離れて話し出した。
「かけられた呪のせいで身体だけ勝手に成長したんだ。本来はまだこのぐらいだよ」
「身体だけ勝手にって……」
「呪が強力すぎてね。精神と肉体が分離したような状態になってさ。身体だけ普通の人間と同じ様な成長速度になったんだよ。ああっ、本当に腹が立つ……!」
綺麗な顔立ちの子供から凄みをきかした言葉を聞くと、怖いのか哀しいのかなんとも言えない気持ちが込み上げてくる。
「魔法をかけられたりとかすると、こうなることも珍しくないよ、セリ」
メーアが教えてくれた。
「え? あ、そうなんだ……」
突っこみたいことはあるけど、なんかもう、とりあえず今は納得するしかない。
「なるほど。お前が封印を壊せたのはセリのおかげか」
メーアがマユキの顔を覗きこむ。
「魔法使いか」
冷ややかな表情と声音でマユキが答える。
「そう邪険にしないでほしいな。封印を直したのは仕方なかったんだ。あのままじゃ島は破壊されていたからね」
「人間の都合など知ったことではないが、あのまま自我をなくすのは本意ではなかったからな。今回は赦そう」
「ありがとうございます、マユキ様」
メーアは恭しく礼をしたけど、わざとらしい感がありありだ。
「セリ」
マユキが私に抱きついてきた。
「わっ、どうしたの、マユキ?」
「ふふっ」
すごくキラキラと目を輝かせ、嬉しそうな笑顔で私のお腹に顔を埋める。
「うっ……」
この顔は多分おねだりの顔だ。
犬や猫が撫でてと甘えてくるような、あの感じがする。
マユキの頭を撫でてあげるとさらに嬉しそうで気持ち良さそうな顔をしたので正解だったみたい。
(ああ、可愛いなぁ……)
このままずっとナデナデして、可愛い笑顔を見ていたいなぁ……と思ったところではっとした。
そうだ! 今はそれどころじゃなかった。
「時間っ!」
「!!」
「あ、ごめんねマユキ」
私の声で驚いたマユキに謝り、マユキを身体から離して、急いでリュックから時計を探しだしたけど、時計は十一時を少し過ぎた所で止まっていた。
「うそっ!? どうしよう……」
「セリ、今の時間」
焦る私の目の前に、アロイスがスッと時計を出した。カイが使っていた時計だ。
「そんな……。これじゃあもう間に合わない……」
やっとの思いでドラゴンの爪を手に入れたのに、時間に間に合わなければ意味がない。
時計は十四時四十分を差していた――。




