七章 狭間・三
映像はそこで終わり、また真っ白な空間に戻った。
「酷い……」
色々言いたいことはあるけど、今はそれしか言えなかった。
そして今、私の前に座り込んでいる男の子をあらためて見た。
男の子はさっきみたいに泣き叫んではいないけど、グズグズと鼻を鳴らしながら、何かから見つからないように縮こまり、声を殺しながら小さく泣いていた。
「君はアスワドなの?」
「そうだよ」
声の方を振り向くと、いつの間にか私の左側に私を連れてきた男の子がいた。
「そして、僕もアスワド」
「えっ……!?」
「セリの知っているアスワドは目の前いる方。本当のアスワドは僕」
「え? え?」
頭が混乱した。
「元々の性格、自我は僕。そっちのは呪の影響で僕の一部、つまり無垢とか純粋さとかだけが強調されたような感じかな」
「うーん?」
「ま、とにかくそれは僕の代理みたいなもの」
「そうなんだ……。で、結局私ってどうすればいいのよ。こんな所でグズグズしている暇なんてないんだけど!」
早く会場に行かないと。皇子に逃げたなんて思われるのは絶対にイヤ! 屈辱すぎる!
「そうだね。まず状況から話さないとね。セリ、君は死にかけている、というか死んでいる」
「はあっ!? 何それっ! どういうこと!?」
「覚えてない? 暴走した僕に締め殺されたこと」
「えっ!? 締め殺されたって……。あ……」
そうだ。私はアスワドに抱き締められて……。
その後はよく覚えてない。
「そう。僕がセリを締め殺してしまった」
アスワドは淡々と言うけど、その表情はとても辛そうで、見ている方も辛くなる。被害者の私が同情するのも変だけど。て、そんなことよりも今の私の状況の方が一大事だ!
「ねぇ、私が死んでるって本当なの!?」
「正確には、身体は死んでいるけど魂はまだ身体と繋がっている、かな」
「それって臨死体験中ってこと……?」
「りんしたいけん? よくわからないけど、今は生と死の狭間にいる状態。だから生きることもできるけど、死ぬこともできる。どうする?」
「どうするなんて、そんなの生きるに決まってんじゃない!」
まだまだやりたいことはある。こんなとこで死んでなんかいられない!
…………まあ、自分が長生きできないのは知ってたけど、これは早すぎる!
「わかった。けど生きることはかなり大変だよ」
「そんなの当たり前じゃん」
「そうじゃない。セリは僕を助けてくれた」
「え……」
何かしたっけ。そんな覚えはないんだけど。
「僕を封じた呪はかなり効力が弱ってたんだ。そのせいで一度本来の姿に戻ったことがある」
「本来の姿っていうと……」
「竜の姿。だけど、この呪を魔法使いが強引に再構築してまた僕を封じた。一度壊れた呪だ。効力なんて気持ち程度。けど最後の呪のせいで、この呪の完全破壊には至らなかった」
「最後の呪?」
「『名』だよ。だけどそれもセリのおかげで破壊できた。これで僕を縛るものは何もない。だけど、僕はもう帰れない」
「帰れないって……。何で?」
「僕は穢されてしまった。こんな僕を一族が受け入れるはずもないし、帰っても生き恥を晒すことになる。そんなのは絶対に嫌だ。でもこの世界で生きていくにも一人は辛い。だから僕は助けてくれたセリと一緒にいたい。けど僕と生きることは業を負うことになる。だから……」
私は立っているアスワドを引き寄せ、踞って泣いているアスワドも引き寄せた。
「いいよ、そんなの気にしない。一緒に生きよう。生きてれば何とかなるよ。一人じゃないんだし。だってアスワド、生きたいんでしょ」
「……うん」
立っているアスワドが声を震わせて答えた。
踞っている方はギュッと私にしがみついて泣いていた。淋しかったよ、怖かったよ、苦しかったよという気持ちが伝わってくる。
そんなの当たり前だよね。いきなり拐われて酷いことされて……。
怖くなかったって言う方がおかしいよ。
だから、うんと泣いていいよ。それで、今までの怖い事は忘れて、楽しい事だけ沢山考えて生きて行こう。
そう思いながら私は二人を抱きしめた。




