七章 狭間・一
うるさい。
一体何?
ああっ! うるさい、うるさい、うるさいっ!
「もう静かにしてよっ!」
気がつけば私は叫んでた。
「って、あれ? ここは……」
私はぼんやりとした頭で周りを見た。
真っ白だった。
右も左も上も下も。
全部、真っ白。
「え、あれ、何?」
今まで眠っていたせいか頭がよく働かない。
「私、何でここ? 今まで何やってたっけ?」
考えようとしたとき、泣き声が聞こえた。
「ああ、そうだ! これがうるさくて目が覚めたんだ」
そう。
ものすごい、まさしく火がついたような凄まじい勢いの子供の泣き声。
「一体どこっ!?」
立ち上がって辺りを見回すと「あっちだよ」と下の方から声がした。
「えっ!?」
驚いてその場から二、三歩離れると、十歳ぐらいの男の子がいた。
「え、えっ、と……」
この子、一体いつの間にどこから来たの!?
だって私の周りには誰もいなかった。
ちゃんと見たもん!
それに男の子の存在に気づかないほど鈍くない。
「ほら、あっちだよ」
男の子は私の右手を掴むと、すたすたと歩いていく。
「え、あ、ちょっと!?」
手を振りほどこうとしたけど、こんな子供の手を振りほどくのも大人気ない……? それに子供でもいいから誰かいてくれた方がいいかも……。
この真っ白い場所に一人いてもどうにもならないし。
私は大人しく子供に手を引かれたままにすることにした。
ほんの数十歩歩くと、子供が座り込んで泣き叫んでいた。
「ほら、この子」
泣き叫ぶ子の近くに私達は来たけど、その子は私達に気づかないのか、ずっと泣き叫んでいる。
「あーもう、うるさい! も、どうすればいいのよっ!」
側に行くとその泣き声は耳を塞いでも頭に来る。もうイライラして仕方がない。小さい子相手だからといっても我慢の限界はある。
「泣き止ませたい?」
私を連れて来た子が訊いてきた。
「止ませたいっ! うるさくてたまんないよ、もうっ!」
こっちもこのままじゃキレそうだ。
「じゃあ、この子、抱きしめてあげて」
「え?」
私はきょとんとした。
「泣き止ませたいんでしょ、ならほら」
男の子が私を泣いている子の前に押し出す。
「ちょっと……!」
男の子に視線を送るも、男の子はただ見ているだけ。
「はぁ……」
私は仕方なく泣いている子の前にしゃがんだ。
その子は私に気づくことなく、ただひたすら泣いている。四、五歳ぐらいかな? その子はどれだけ泣いていたのか、目どころか顔全体が赤く、声も掠れかけている。
(何があったのかな……)
うるさいのは変わらないんだけど、間近でこんな姿を見ると流石に可哀想かなと思う。
ん、あれ? 何かついさっきもおんなじ様なようなことがあった様な……? 誰かが泣いてて……。誰、だっけ……? あれ、なんだろ。頭がぼんやりする……?
「お姉ちゃん」
「え?」
声ではっとした。
私を連れてきた男の子の声だった。
「早く泣き止ませてあげて」
「え、あ、ああ。うん」
そうだった、そうだった。
この子を泣き止ませないと、っていってもどうすればいいのか……。
この子、私達のこと気づいて(見えて?)いないみたいだし。うーん、まあとりあえず頭撫でてみよっか。
私は男の子の頭を撫でた。
けど反応なし。撫でられていることにも気づいてないと思う。
なら、言われた通りにしてみるか……。ちょっと恥ずかしいけど、ここには私と男の子二人しかいないんだし、いっか。
私は男の子を優しく抱きしめた。
「ねえ、何でそんなに泣くの?」
「うっ……。こわ、い、からっ、だれも、いない、からっ……」
「えっ!?」
返事なんて来ないと思って話しかけたのに、答えられてびっくりした。
と、同時に周りが真っ暗になった。
「え、ええっ!? もう何、何なのよっ!」
真っ白の次は真っ黒か!
もういい。こうなったらもうなんでも来いよ!
開き直った女に怖いものなんてないんだからっ!
私が次の何かを待っていると、早速ソレはやって来た。
ぱっと目の前に映像が映った。
「ん?」
ぐるっと回りを見ても同じ映像。
どこかヨーロッパ風というのか、ギリシア風というのか、そんな印象をうけた綺麗な庭園に男の子と女の人が、楽しそうに遊んでいた。
「ふふっ。本当にリージャ様は覚えるのが早いですね。もうこれで、お庭にある花や木の名前は全部ですよ」
女の人、三十代前半ぐらいかな。明るくて、優しそうな人が愛おしげに男の子を見つめている。
「そう? よくわかんないけど、ヤナはうれしいの?」
男の子は四、五歳ぐらいかな? 男の子は手前にある赤い花から、女の人に顔を向けた。
「そうですね、嬉しいですよ。でもヤナはリージャ様と、こうしてご一緒にいられることが一番嬉しいです」
女の人は男の子を抱き寄せ、そのまま立ち上がった。
「うん! ぼくもヤナといっしょにいるの、すきだよ」
男の子は笑顔で答えた。とっても可愛い。
「まあ! ヤナはとっても嬉しいです」
女の人も男の子に満面の笑顔を向けた。
「じゃあ次は水庭に行きましょうか」
「うんっ!」
二人が移動しようとしたとき、女の人が立ち止まり、後を振り返った。そして男の子を下ろした。
「リージャ様、申し訳ございません。少しお話をしてきますので、ここで少しだけ待っていていただけますか」
「うん」
男の子はこっくりと頷いて女の人を見送った。
女の人が同僚らしき人と少し離れた所で会話をし始めたとき。
植え込みから突然黒い両腕が出て、男の子を引き寄せた。
「!!」
黒い両腕は手早く男の子の口に何か貼ると、すぐに両腕を後ろ手に紐で縛り、大きな袋に男の子を放り込んだ。男の子は抵抗する間も無く、誘拐されてしまった。
その後、男の子がいないことに気づいたさっきの女の人と同僚らしき人が、居なくなった男の子を必死に捜している。
続々と兵士や使用人達もやって来て辺りをくまなく捜している。
男の子の両親らしき人も来て、必死に男の子の名前を泣き叫びながら呼んで捜している。
(酷い……)
そう思ったとき、映像が切れ、別の映像が始まった。




