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六章 セリとアスワド・二

「あ、お帰り、アロイス」

「ん、ただいま」

私とアスワドの所にアロイスがやって来た。

アロイスは迷いなく私の右隣に座ると「何かあった?」と訊いて来た。

「え、ううん。何もなかったよ!」

私は内心ドキリとしながらもそう答えた。

押し倒された、なんて、かなり言いにくい。それに抵抗、説得? の結果、あれ以上は何もなかったし、アロイス達に余計な心配はかけたくない。

「そっか、なら良かった」

アロイスはそう言ったけど、多分何かあったんじゃないかと疑われてる気は、する。

アロイスは勘がいいから今の私の様子で気付いんじゃないかな……。だって声、少し上擦ったと思うし。

それでも、私が何もなかったと言ったから、何も問いつめないでくれてる。そういうところ、ほんと有り難い。カイならそうはしないだろうし。まあそれ以前に、何かあったか察することができるのかも怪しいけど。

「ねぇ、セリ。カイは?」

「カイならさっき召使いの人が来て出てったよ」

「どれぐらい前?」

「んーと、多分三、四十分位だと思う」

「じゃあ来てすぐぐらい?」

「うん、そう」

「そっか。じゃ、一人で淋しかったんじゃない?」

「え、そんなことないよ!」

ズバリ言い当てられたけど、そこは否定しておく。子供っぽくて恥ずかしいから。

「セリ」

アスワドがまだお話終わらないの? と焦れた瞳で私を見ている。

「ああ、ごめんごめん。じゃあ続きから教えて?」

「うん!」

ぱあっと満面の笑みを浮かべて、アスワドは得意そうに文字を読み始めた。

「何、絵本読んでるの!?」

アロイスが驚き、私とアスワドを交互に見る。

「うん。まあ、驚くよね……」

「まあ、ね……」

だって、成人男子が小さな子みたいな無邪気な笑顔を浮かべて、楽しそうに絵本を読んでるんだもん。そりゃ引くよね……。

「ねぇ、一体どういう流れでこうなるの?」

「あはは……」

私はこの部屋に来てからのことを簡単に話した。

あの本棚にある本を見せて欲しいと言って、ここの文字はわからないから読んで欲しいなと言ったらOKされて今に至る、と。

多少省略してるけど、嘘は言ってナイ。

「思いつきで言っただけなんだけど、ね……」

そう。本棚から嬉しそうに両腕で抱えて持ってくるなんて。まるで小さい子供が母親に読んでもらう絵本を持ってくる姿とダブって見えちゃったよ。

だけど、アスワドは見た目はどうみても成人男子。しかもイケメン。

最初見たときはすごく虚な感じがして気持ち悪くて怖かったけど、こうして話してみると全然違って。

「何か、すごい子供なんだよね、この子」

大人なのにこの子呼ばわりするなんて失礼だとはわかってるんだけど、喋り方や仕草が幼くて。どうしても大人を相手にしている気がしない。

だから、あんなことをされても完全に拒絶できないのかもしれない。

「ああ、うん。わかるよ、セリ。なんか大人って感じがしない」

アロイスも同じ様に思っていたみたいで頷いた。

「なんか変だよね」

私はアスワドの相手をしつつ、隣のアロイスと話す。

「うん」

「そういえばアロイスの方はどうだったの?」

「ああ、問題ないよ。バッチリ」

アロイスは笑顔を見せたけど、なんか裏があるような、ちょっぴり黒い笑顔……。

「しかもよくあんな嘘、スラスラ出るなんてすごい。ほんと、びっくりした」

「まあそこはね、職業上、演技力を求められる時もあるからね」

「なるほど」

「にしても、ほんとに楽しそうだよね、この人」

アロイスがアスワドを視線で指す。

「うん。ずっとこんな感じ」

私はアスワドの右隣に、アロイスは私の右隣に座っている。

「病気とかでこんななのかなぁ……」

私はアスワドの幼さについて考えた。

発達障害とかで生まれつきこうなのか、それとも精神的に凄いダメージを受けてこうなっちゃったのか……。

考えたところで今何ができるってわけでもないけどさ。

「どうだろうね。今のところ害はなさげだから、まあ、いいんじゃない?」

アロイスはあっさりと返してきた。興味なさげだ。

「そうなんだけどさ……」

でも私はなんか気になるというか、ほっとけないというか。何だかわからないけど。

「何、セリは気になるの?」

歯切れの悪い返事をしたからか、アロイスがつっこんできた。

「うん。何でかわからないけどちょっとね」

「そっか」

「ねぇ、セリ、聞いてる?」

自分ではなく、アロイスに気を取られている私が気に入らないのか、アスワドが不満げな顔で私の左腕を引っ張る。

「ん。聞いてるよ」

「ほんとに?」

「ほんとほんと」

ごめん、あんまり聞いてなかった、と心の中で謝りつつ、アスワドの機嫌をとる。

「ほら、続き読んで欲しいな。ね?」

「んー……」

色々おだててみるけど、ご機嫌がなおらない。どうしようかなと焦り始めたとき「失礼します」と召し使いの人が入ってきた。

「お茶をお持ちしました」

二人の女性がテーブルを用意し、そこに持ってきた飲み物や菓子を並べ始めた。

それらを見るや、アスワドの顔がぱあっと笑顔になった。

「じゃあ続きはおやつを食べてからにしよっか」

ラッキーとばかりに私はアスワドに訊いた。

「うん!」

アスワドは立ち上がると一目散にお菓子の元へと向かった。

私も後に続こうと立ち上がると、入口の方を向いているアロイスに声をかけた。

「アロイス、行かないの?」

「ん、ちょっと待って」

何だろうとつられて入口を見ていると人の気配がする。

「カイ、おかえり~」

そこには、少し息を切らせたカイがいた。

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