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六章 アロイスと商人

俺はセリ達と別れて今別室でジャリルと向かい合わせで席についている。


「これだ」

さっきの護衛が俺の前に、取り上げた俺の荷物を置いた。

「ありがとうございます」

俺は微笑しながら荷物を受け取り、品物を探すふりをしながら盗られたものがないか調べた。

(減ってもいないし増えてもいない。細工もないようだな)

なら、本題にいくかと献上品を取り出し、静かに机の上に置いた。

そして恭しく品物をジャリルに差し出した。

護衛が危険物じゃないか調べようと手を出しかけたとき「品物はとても繊細な物と聞いております。ですので慎重にご確認下さい」と牽制した。

ま、俺が用意したんだから中身は当然知ってるけど。

「そうか、なら儂が直接見よう」

「ですが旦那様」

「よい」

「……畏まりました」

護衛は品物をジャリルの前に置いた。

包んでいる上等の布を取り、微かに木の香る箱を開けると、中には黄金で造られた立派な雄牛の像があり、その回りには草を模した色とりどりの宝石がちりばめられいた。

「これは……」

ジャリルが息を飲んだ。

「なんと素晴らしい!」

ジャリルは像を手に取り、上から下からと眺め始めた。

「お気に召しましたでしょうか」

俺はタイミングみて声をかけた。

「うむ。これはいい。どこで手にいれた?」

「私も詳しくは知らないのですが、兄が仕入れのため各地を回っているときに手に入れたとしか」

「そうか。できれば詳しく調べてくれないか?」

「承知しました」

俺は一呼吸置いて切り出した。

「この品は『夜の宝石』を拝見するのに足るものでしたでしょうか」

「ああ。問題ない。それに……」

ジャリルは俺の胸元、つけているネックレスに視線を向けた。

「ちゃんと正規の客の様だしな」

俺はネックレスを外し、ジャリルに見せた。

護衛がそれを手に取り、重さを確かめたり光に翳したりして本物かを確認している。

「本物です」

護衛はそれをジャリルに手渡した。

ジャリルは受けとると、それを自分の目の前に垂らした。

ジャリルと俺の間で光を受けた宝石が七色に煌めき、揺れる。

「美しいだろう? この宝石は上等のものだ」

「はい。とても」

ジャリルは満足そうにニッと口角を上げ、ネックレスを机に置いて俺を見る。

「では確認だ。『夜の宝石』がどんなものかは知っているな」

「はい。『夜の宝石』とはとても希少な品を内々で売買する場所。……そう、とても大勢の人には見せられないような品を、と聞いております」

「ああ、その通りだ。だからこそお前はここに来たのだろう? ドラゴンの一部を求めて」

「はい」

「だが、今回ドラゴン関係の物は出る予定はないがそれでもいいのか?」

「構いません。確かに一番の目当てはドラゴンの一部でしたが、それだけのつもりではありませんでしたので」

「そうか。ならば存分に楽しむとよい。しかしお前は運がいいな。開催は今日の夜だ。今日を逃せばあと半年後だったぞ」

「そうでしたか。それは確かに運が良かったとしか言えません」

「時に、お前、随分と整った顔立ちだな」

「そんな風に仰っていただける程のことは……」

(あるに決まってるじゃん!)

と、続きは心の中で言う。

「いや、汚れを落としたらさぞ美しいと思うがな」

ジャリルは真顔で続ける。

「ありがとうございます」

商人なだけあって審美眼は確かだな、コイツ。

「でだ、お前さえよければ儲かる話がある」

「どんなお話かお聞きしてもよろしいですか」

って言っても、まあ予想はつくけど。

ジャリルはニヤリと笑むと「ここだけの話と約束出来るなら」と前置きしてきた。

「お約束します」

俺は顔を引き締め頷いた。

「ここでは『夜の宝石』以外にも売買がある。それが『夜の蝶』だ。『夜の蝶』は見目麗しい男女のみが取引できる場だ。つまり」

「伽の相手、ということでしょうか……?」

「ふ。半分正解、だ。伽をするかしないかはお前と相手次第。蝶は見て愛でるもの。もちろん、触って存在を確かめたりもしたいだろう。だがそれはその相手次第。つまり『夜の蝶』はお前自身が商品となるが、相手と過ごす時間はお前と相手次第。伽が嫌ならそうならないよう、相手をうまく操ればいい」

「なるほど」

まあ結局高級娼婦、男娼ってことか。

「買う相手は身元のはっきりした階級の高い者達だから、扱いを覚えればそう悪いものではない」

「…………」

確かにそういう奴等は表の顔を潰すネタと性癖さえ掴んでおけば大抵は問題ない。第一こんな島まで相手を買いに来るぐらいだ。相当に歪んだ性癖だろう。

「大丈夫だ。必要な知識はこちらで全て教えるから心配ない」

ジャリルは俺が迷っているのかと思って安心させるようなことを言ってきた。

「ジャリル様、誠に申し訳ありませんが、私は尊敬する兄と同じ商人として身をたてていきたいと思っています。ですので今のお話は聞かなかったことにさせてください」

「ふむ、そうか。残念だが仕方ない。気が変わったらいつでも来るといい」

さして残念そうな表情もしていないが、俺は曖昧に微笑してかわした。

本業で必要なときがあるかもしれないしな。

「ではこれで話は終いだ。『夜の宝石』は深夜に開催だ。部屋を用意させるからそこで休んで待つといい」

「ありがとうございます」

俺は深々と頭を下げて礼を言った。

「あとのことはまかせたぞ、ハサン」

「はい、旦那様」

俺達を置いてジャリルは部屋を出て行き、残った護衛が顎をしゃくる。

「ついてこい」

「はい」

さて、取り敢えずこっちの準備は整った。

カレルに感謝だな。

俺は胸元のネックレスをチラリと見る。

昨夜、セリが帰った後、カイからこの島の話しを先に訊いて準備をしたけど、まあこうも簡単に商人だと信じてもらえるとは。あとはカレルご所望の品があればいいんだけど。それよりも……。

(セリとカイ、大丈夫かなぁ……。特にカイ)

セリはしっかりしてるから何かあっても何とかすると思うけど、カイは短気なところがあるからなぁ。暴走してなきゃいいけど。

(あー、何か急にすっごい心配になってきた)

逸る気持ちを抑えながら、俺は護衛にセリ達の元へ連れて行ってくれるよう頼んだ。

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