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五章 迷いの森の魔法使い・八

「じゃあ行くぞ」

「うん」

「ああ」

カイの言葉に私達は返事をした。

ここは庭だ。

わさわさと木々が茂りまくってて朝なのに薄暗い庭、というのか森というのか……。

とにかく外にいて、私達の目の前でカイが魔法を使っている。

魔法陣の中に立つ私たちの身体がほんのりと光る。

そう、これからドラゴンを求めて旅立つのだ――。


朝食後、私達は今後の方針について話し合った。

「この国から南にある島に、ドラゴンを見たという話がある。ここで見たドラゴンがリントヴルムかどうかはわからないが、行ってみる価値はあるんだが。ただ……」

「ただ?」

私はカイに続きをと視線で促す。

「ただ、その島では変なことも起きていて、行くことは勧めたくないんだ」

「へぇ、どんな?」

アロイスの目が新しい玩具を見つけて興味津々といった感じで輝いている。

「その島に行って帰ってきた者が、歳をとって帰って来るそうなんだ」

「歳を?」

私とアロイスは顔を見合わせる。

「そうだ。大体本当の歳の倍ぐらいとってるそうだ。しかも老若男女問わずで、その上年齢も性別もバラバラ。皆、あの島であったことは話そうとしないらしくてな。だから何が原因なのかさっぱりわからない」

「え、何それ。病気とか?」

私は顔を顰めた。出鼻をくじかれたというか、なんかすごく行きたくなくなる。

「そうかも知れないし、違うかも知れない。当事者達が何も話さないから、本当にさっぱりわからないんだ」

カイが軽く溜息をついた。

「そっか……」

「どうするの、セリ」

アロイスが訊ねてくる。

「うーん……」

私は悩んだ。ただでさえドラゴン探しなんて危険なことをするのに、その上原因不明の歳をとっちゃう事件。普通に考えたら、いや、考えなくても行きたくないよ、そんな場所。

でもここで何もせずあきらめることは、あの皇子に一矢も報いることができないってことになるワケで。

そんなのは絶対にイヤ! なら、答えは一つってことで。

私は顔を上げ、二人に力強く言った。

「行く。島に行って、絶対ドラゴンの一部を絶対持って帰って来る!」

カイは驚き、アロイスは流石! といった感じの表情で私を見る。

「これで決まり。時間もないんだからさっさと行こう、カイ」

アロイスの言葉にハッとしたカイが私の前に来た。

「いいかセリ、本当に危険なんだぞ? 何が起こるかわからないんだぞ? 仮にだ、お前が歳をとってしまっても俺は何もできないかも知れない。本当にわかっているのか!?」

カイは真剣な眼差しと厳しい口調で私に考え直せと言っている。

カイの気持ちはとっても嬉しいけど、私も引くわけには行かないワケで。

「絶対に行く」

「セリ!」

「危険なのはわかってる。私だって本当は行きたくなんかない。でも、どうしても行かなきゃならないときだってあるんだから!」

言ってハッとしてカイに詫びる。きつく言うつもりなんかなかったのに……。

「ご、ごめん、カイ。カイが心配してくれてるのはわかってるし、嬉しい。でも……」

「引けないって……。お前、死ぬかも知れないんだぞ!?」

「わかってるてば! 私だって死にたくないし、死ぬつもりもない!」

「じゃあ……!」

「それでもっ! それでも行かなきゃいけないときもあるのっ!」

私もカイも平行線。どっちも譲らず話が止まる。カイが心配してくれるのはとっても嬉しい。私だってそんな危険な島になんか行きたくないし、そもそもこんなコンテストなんてさっさとやめたい。

でもっ! あの皇子に一矢も報いずにやめるなんて絶対にできない! もうこれは意地だ。

私はカイに理解してもらうために、もう一度話そうとしたとき。

「はい、セリもカイももうお終い」

今まで黙っていたアロイスが私達の間に入る。

「俺はセリがそう決めたんなら全力でセリを守るよ」

「アロイス……」

アロイスはニコリと微笑み、次いでカイの方を向く。

「カイ、セリが心配で心配で心配なのはわかるけど、人間、どうしても引けない時があるのはわかるでしょ?」

「ああ。だがな、もし万が一のことが起きても、絶対にどうにかできるわけじゃないんだ。もしそのまま打つ手が見つからず、セリが…………。セリはまだ十七なんだぞ!」 

「カイ……」

私はカイの気持ちに胸がつまった。会って間もない、しかも無理矢理巻き込まれたにも関わらず、こんなに私を心配してくれるなんて恐縮してしまう。

そんなカイにアロイスは冷静に話す。

「俺だってほんとはそんな所にセリに行って欲しくない。けど、セリだって考えて決めたことだ。なら、俺はセリの気持ちを尊重……」

「わかってない!」

カイは語気も荒く、アロイスの話を遮った。

私はそんなカイの姿と声にビックリして、一瞬身を竦ませた。

アロイスはそんな私に「大丈夫だよ」と声をかけて、安心させるように背中をポンポンと優しく叩いた。

「ん……」

私はすぐに落ちつき、アロイスはカイに話し出した。

「カイ、俺はカイ程生きているわけじゃないけど、俺だってそれなりの経験はしている。だからこそ、セリの気持ちを大事にしたい。セリだって島に行く危険さは十分理解しているし、カイのそんな姿も見れば尚更だよ。ね、セリ」

「うん」

私は苦笑いを浮かべながらアロイスの言葉に同意した。

カイは私達を見て、しまったという表情をし「すまない」と謝った。

「いいよ。気にしてない。だってそれだけ私のこと心配してくれたんでしょ?」

カイは照れたようで、顔を少し背けた。

「あ、ああ。それは、まあ……」

「ありがとう」

私はカイの心遣いにあらためて感謝した。

「いや、礼を言われることなんて何も。こっちこそきつく言い過ぎた。すまない」

カイは私の顔を見て頭を下げた。

「うん」

私は頷いた。確かにカイ、少し怖かったし。

「でもこんなに心配してくれるなんて、カイってお兄ちゃんみたい」

「は!?」

カイは素っ頓狂な声を上げ、アロイスに至っては声を殺して笑ってる。

「え、何? 私、なんか変なこと言った!?」

「ううん、変なことは言ってないけど……」

アロイスは笑いを噛み殺しながら答え、カイをチラリと見ると、顔を背けてまた肩を震わせた。相当可笑しいらしい。

そんなアロイスをカイはジロリと一瞥すると、言いにくそうな感じで口を開く。

「セリ、その、な……」

「うん」

「実は……」

「うん」

「実は…………」

「うん」

カイは本当に言いづらいのか、実は……の先から進まない。

「実は、俺は一二〇歳なんだ」

「は!?」

「アロイス!」

私とカイはは同時に声を出す。

「あっはははは! だって、カイの言葉を待ってたら日が暮れちゃうよ」

「なっ! そんなことはない!」

「くくっ! まあ日は暮れないにしても、一時間ぐらいは経ちそうだよね」

「そうかも」

「セリ! お前まで……!」

カイの顔が怒りと恥ずかしさで真っ赤になってる。

「え、だってそんな感じしたもん」

「だよね。セリ、わかってる」

「て、そうじゃなく! カイが一二〇歳って嘘でしょ!?」

私は二人の顔を見た。

「いや、本当だ。……正確には一二三だが」

最後はぽそりと付け足すように言ったけど。

私は頭から爪先までじっくりカイを観察した。

カイは私の視線に耐えられなくなったのか、後に下がろうとしたけど、アロイスに背後からガッチリと捕まえられて動きを封じられた。

「さ、セリ。気がすむまでじっくり観察するといいよ」

「うん」

「なっ! お前逹!」

カイはアロイスの拘束から逃れようとじたばたしたけど、後手に取られた腕は振りほどけない。

「んー」

背伸びしてカイの髪の毛を調べたけど、少し傷んでいる程度で白髪もなさそう。

次に顔を見る。

シワもなく、肌も二十代の男の人って感じ? むしろうちのお兄ちゃんより状態いいかも。

次はボディチェック。

とりあえず、二の腕やお腹の辺りを触ってみる。

「やめろ、セリ! どこを触ってるんだ!」

「お腹」

「そういう問題じゃない!」

カイは私の手を逃れようと右に左に身体をずらすけど、拘束されている身ではたかが知れている。

「くくっ。セリ、やるなあ」

アロイスが感心しながら笑う。

「アロイス! お前もいい加減腕を離せ!」

「やだよー」

「ちょっとカイ、大人しくしてよ」

「大人しくなんてできるか!」

カイは無駄な抗議をしながら前に後にもがき続ける。

「んー。どう見ても普通の二十代の身体かなぁ……」

私がカイから離れると同時にアロイスも腕を離した。

「よかったね、カイ。二十代の身体だってさ」

「お、お前逹……!」

カイは心身ともに疲れたのか、ずいぶんとぐったりしながらも、私達に非難する視線を向けていた。

もちろん私達はそんな視線なんてスルーだ。

「ねぇ、本当に一二〇歳なの、カイ?」

カイは恨めしそうな視線をしつつ「本当だ」とぶっきらぼうに答えた。

「じゃあなん……」

「だが! 今はそんなことより島のことだ!」

それ以上追及されたくなかったのか、カイが私の言葉を遮って本題に戻した。

「それならさっき言った通り『行く』の一択だよ、カイ」

「しつこい男は嫌われるよ? カイ」

「っ……!」

答えの変わらない私達に呆れ果てたのか、カイは盛大な溜息をつき「もう、何が起こっても知らないからな」と小声で言った。

その言葉を聞き逃さなかった私達は、勝利の笑みを浮かべカイに「ありがとう!」とお礼を言った。

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