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一章 悪夢の始まり・二

ここは一体何処だろう。

私は目の錯覚かと思って、目を瞑って、あけてみた。

だけど風景は何も変わらない。

確か、私はほんの一、二分前までは地元のゲーセンにいたはず。

それなのに! 何故! ドアを開けたらキラキラ眩い絢爛豪華でヨーロピアンな場所にいるわけ!?

あのドアの向こうは倉庫(もしくは詰所?)のはず。

それともこの部屋はお客を驚かせるために特別に作った部屋なの?

だとしても、部屋の広さが不自然だ。

どれくらいの広さかと言われれば、広すぎる……としか言えない。

映画とかで見るような……、そう! ヴェルサイユ宮殿とかあんな感じなんだけど、あそこまでキラキラしていなくて、もう少し落ちついた感じというのか……。

などと現状把握に努めつつも、固まって動けなくなっている私に男の人は「さ、こっちこっち」と腕をグイっと引っ張って歩き出した。

「え!? ちょ、ちょっと!?」

いきなり引っ張っられて転びそうになったけど、すぐにバランスを取り戻し、男の人の隣に並んで早歩きする。

「一体何なの!? それにここは何処なのよ!?」

「さっき説明したじゃないですか。ゲームのモニターをして欲しいって」

男の人はサラっと爽やかな笑顔で言ってのけた。

爽やか過ぎてイラッとくるぐらいに。

「は!? それってゲームの話でしょ!? 一体何言ってるの!?」

対して私は怒りMAX。

「そうですよ。これは皇子の花嫁の座をライバル達から取り合うゲームです!」

「…………」

私は絶句した。いやもう、何て返せばいいのかわからないし、そもそも話しが通じない。ヤバい、どうすれば!?

そうこうしているうちに、誰が見てもわかるほど重厚で立派な造りの木の扉の前で止まり、その先には多分偉い人が居るんだろうなぁという雰囲気がひしひしと伝わってくる。

男の人は迷いなくその扉を開けると、そこはさらに絢爛豪華で立派な大広間で、その奥には椅子に座ったおじさんとその右側に若い男の人が立っていた。

男の人は座ってるおじさんの所まで私を引っ張って進み、手間一メートルぐらいで止まると、膝まずいて恭しく挨拶をしだした。

「お待たせいたしました。偉大なる皇帝陛下、彼女が私が推薦する花嫁候補です」

「は……?」

私はぽかーんとしたまま立ち尽くした。

何言ってるの、この人……?

「礼を言おう、サンジェルマン伯爵。では、私が推薦するお前の花嫁候補は……」

そこまで言っておじさんは私の方を見た。

私はまだぽかーんとしたままだったが、拉致した男の人が小声で「名前を言って」と言って来たので、つい素直に「早河芹」と名乗ってしまった。

するとおじさんがさっきの言葉の続きを言い始めた。

「その者、ハヤカワセリを我が息子、リーンハルトの花嫁候補とする!」

「はあっ!?」

訳がわからない。花嫁候補!?  私が!?

驚いたのは私だけじゃなく、近くにいた大勢の人達もザワッとどよめいていた。

そのどよめきの中から一瞬、物凄い視線を感じてその方角を見ると、それはおじさんの隣にいる男の人からだった。

その目はとても冷たくて、私を射貫くように強く睨みつけ、とにかく怖くて、攻撃的な視線だった。

麻痺した頭もまたすぐ働き出すぐらいに。

けど、男の人は私の視線に気づくと今までの攻撃的な視線は嘘の様に消え、無表情に戻った。

「では、私は下がります」

男の人はそうと言うとすぐに去って行った。

「愛想のない息子ですまぬ。詳しい話は別室で」

(あれ、皇子様だったのか。まあソレっぽい気はしたけど。ん? そしたらあのおじさんって……)

などと考えている内に、おじさんも出て行き、私達はその他大勢のおじさんの中から歩み寄って来た人に、おじさん……想像通り、皇帝の待つ部屋へ案内された。


部屋に入ると、皇帝が疲れた感じで椅子に座っていた。

私達も案内してくれた人に椅子を勧められたので座った。

「では早速だが、お嬢さんには何としてもリーンハルトの花嫁になって欲しい。サンジェルマン伯爵が見込んだのだ。お嬢さんなら必ずリーンハルトを助けてくれると信じている」

皇帝にいきなりそんなことを真剣な表情で頼まれたが、はっきり言って迷惑だ。

拉致られて見知らぬ場所に連れて来られ、さらに見ず知らずの皇子を救って欲しい、しかも花嫁として、だなんて……ありえない!

ありえないことだらけで、許容量オーバーしている私に拉致男ことサンジェルマンが確認の問いかけをして来た。

「いいよね、芹さん?」

「嫌です! 絶対に嫌!」

私はハッとして、断固拒否の態度を示した。

「いきなり何言ってるんですか!? こんなわけわかんないトコに拉致られただけでも驚きなのに、その上花嫁候補!? 冗談じゃない!」

私の剣幕に驚いた皇帝とサンジェルマンだが、そんなのは一瞬だけで、二人とも引くどころか押してきた。

「私も嫌がる者に無理強いなどしたくはない。だが、こちらもどうしても引けぬのだ」

「芹さん。陛下の話も聞いてあげましょうよ。一方的に拒否するのも、ね?」

「一方的に連れ込んだのは、何処のどちら様でしたっけね」

思い切り睨んで嫌みで返す。

「ははは~。さ、陛下、芹さんに詳しく事情を話してあげて下さい。まずはそれからですよ」

(こいつ……)

私の嫌みはスルーして皇帝に話をするよう促す。

皇帝もそうだなと言って話し始めた。

「我が息子、リーンハルトは少々……、いや、かなり性格に問題があってな。そのせいで妻が心労で疲弊してしまったのだ。もちろん私達も息子の心が健やかになるよう努力はしたがな……」

皇帝は一息つくと、テーブルにある紅茶を飲んで喉を潤す。

「そこで思ったのだが、親兄弟が心配するより恋人、それも将来の伴侶となる女性が傍にいれば、心も穏やかに、健康になるのではと。だが、残念ながら息子にはそのような女性はいない。しかし、息子はこの国の次期皇帝の資格を持つ者だ。そろそろ身を固めてもらいたいということもあり、今回の花嫁選びを開催したのだ」

(え、それって、手に負えなくなったわがまま息子をよろしくね☆ ってこと!?)

「だが困ったことに、息子の好みの女性というのがわからない。そのことで悩んでいたときに伯爵と出会ったのだ。伯爵の選んだ娘なら息子が気に入る可能性が高いと思ってな。だから、それがどこの者だろうと構わない」

皇帝の私を見る目がギラリと光る。

狙った獲物は逃がさない。そう、俗に言うハンターの様な視線だ。

隣にいるサンジェルマンも笑ってこそいるけど、その目の鋭さや纏うオーラはハンターのものだ。

(このままじゃヤバイ)

直感、いや、この場所にいれば、自分がいかに危ない立場にいるのかは子供でもわかる。

私はすぐに逃げ出そうとしたが、帰り道どころかこの場所、夢じゃなければ多分、俗に言う異世界というやつなのかも……。

もし、もし、本当にそうなら、逃げるにしてもレベルが違う。

とにかく今やらなきゃいけないことは、花嫁候補の拒否。断固拒否! そんな皇子の花嫁候補なんて絶対に嫌!

「私、皇子の花嫁候補なんてお断りします!」

まずは怯まずハッキリ意思表示。

「私はまだ十七歳で高校生です! 学生は勉強第一で、結婚なんてまだ先の話しです!」

二人は私の話を聞きはしたが「十七であれば問題ない。王侯貴族の婚姻などそれより早いぐらいだ」「今すぐ結婚しなくても大丈夫。高校卒業してからでも平気です。婚約だけでもOK!」などと言って花嫁候補から外す気はまったくなし。

だからといって私も引き下がる訳にはいかない。

一生の問題だ。

「それに他に候補者がいるならその人達が勝つかもしれないじゃないですか! 私みたいな小娘、絶対に負けますよ!?」

そうだ。それなのにこの人達は私が絶対に勝つのが決まっているような話し方をするのだ。

「いや。君が勝つよ」

サンジェルマンが真面目な表情で言い切った。

「な……」

私はその表情に気圧されて反論する言葉を忘れた。

皇帝はその隙を見逃さず、追い撃ちをかけた。

「息子については、息子の従者を呼んである。後はそれに聞くとよい。ではな」

そういうと皇帝は席を立ち、さっさと部屋を出て行った。

「ちょっ、待ってよ!」

出ていく皇帝を追いかけようとしたが、入れ替わりに若い男の人が入って来た。

「お待たせ致しました。私はリーンハルト様の従者、カールと申します」

爽やかなイケメン、カールはにこりと笑顔でそう挨拶してきた。

「では、リーンハルト様の元へご案内致しますのでついて来て下さい」

「なっ……!」

花嫁候補になるとも言ってないのに勝手に進められている。

「芹さん、行きましょ。僕も一緒に行きますんで大丈夫ですよ」

さあさあと言いながら私の腕を掴んで、カールの後を追う。

「ちょっ……!」

そうして私の抵抗は虚しくスルーされ、なす術なく皇子の所へと連行された。

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