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五章 迷いの森の魔法使い・三

「はーっ! やっぱりカイの料理は美味しいや!」

カイさんは、そんなことは思ってないくせにという視線をアロイスに向けながらも、かいがいしくお茶を注いだり空いた皿を片付けたりとしていた。

カイさんはいきなりやって来た私達に、嫌な顔もせず(怒られはしたけど。もちろんアロイスが)食事を作ってくれ、もてなしてくれた。

「お前も飲むか」

カイさんがポットを持ったまま私に訊く。

「あ、じゃあお願いします、カイさん」

私はカップを差し出した。

「わかった。それと、カイでいい」

カイさんは注ぎながら言う。

「うーん。でもカイさん年上だし……」

二、三歳程度なら呼び捨てにしても気にしないけど、カイさんは二十代後半から三十代前半ぐらいに見える。

そんな年上の人を十七の小娘が呼び捨てにするのもどうかと思うわけで。

「カイがいいって言ってんだから、そうすればいいんだよ、セリ」

アロイスが会話に入って来る。

「お前は最初から呼び捨てだったな」

カイが苦々しい表情をする。

「そうだっけ? ま、いーじゃん」

アロイスはお茶を飲み、まだ皿に残っている料理に手を伸ばす。

「そういうことだ。だから気にするな、セリ」

「そこまで言うなら遠慮なく。ありがとう、カイ」

「ああ」

カイは陽だまりのように暖かでホッとするような笑顔を見せてくれた。

「ほら、もういいのか、セリ。まだ食べるなら早くしないとアロイスに全部食われるぞ?」

テーブルを見ると、確かにあれだけあった料理が食べ尽くされかけてる。

「ちょっと、アロイス! 私もまだ食べるんだから」

急いでフォークを握り、肉料理を自分の皿に盛る。

「甘いな、セリ。食事は戦争なんだ! 早いもの勝ちなんだよ、っと!」

アロイスは次に私が狙っていた料理を目の前でさらってそのまま口へと入れた。

白くて餃子っぽいような感じの、柔らかそうで美味しそうな料理。

「あーっ! 私まだそれ一個も食べてないのにっ!」

「だから早い者勝ちだって言ったろ?」

アロイスは飲み込むとまた次の料理を狙いはじめた。

「アロイス! お前は食べ過ぎだ!」

カイがアロイスを叱る。

「えー。だってお腹空いたんだもん。それにカイの料理が美味しいのがいけないんだよ!」

「なっ……!」

カイは褒め言葉に一瞬怯んだが「ダメだ! それはセリにやれ!」と言ってアロイスからお皿を取り上げようとしたが、アロイスは素早く肉を口の中に入れた。

「あーっ!」

私は抗議と落胆の声を出した。

「ごちそうさまでした! カイ、次はデザートよろしくね☆」

可愛らしく微笑みながらリクエストをしているけど、やっていることは全然可愛くない!

「ずるいっ! 私だって食べたかったのに……!」

私はアロイスに恨み言を言いながら睨む。食べ物の恨みは怖いんだぞ!

「セリ、これが食事ってものだよ。食事は常に戦争なんだ」

満足気な表情と一緒にそんなことを言ってきて、それがまたムカつく。

「んーっ! もう、カイ、なんか言ってよ!」

私は何を言っても勝てない気がしたので、ここで一番の年長者に助けを求めた。

「はぁ……。全くお前は……」

カイは頭が痛いという表情で呆れ果てていた。

「いいか、アロイス。セリは客なんだぞ。しかも女の子だ。もう少し節度を弁えろ。じゃないともう二度と食事は作ってやらないぞ」

そうだそうだと私は頷く。

『食事を作ってやらない』

この言葉が効いたのかアロイスは一転してしおらしい表情になり「はーい」と返事をした。

(でも絶対反省してないな、こいつ……)

そんなのは顔を見ればわかる。

私でさえわかるんだから、付き合いの長い? のカイならもっとわかってるわけで。

カイはあきらめのような溜息を一つつき「わかればいい」とだけ言った。

じっと見ていた私の視線に気づいたカイは顔を赤くし、私から顔を背けたけど、チラリと横目で見ながら左手を私の頭にポンと乗せ「デザートはアロイスより多めにやるからな」と、ぎこちなく言った。

私は一瞬にして笑顔になり元気よく「うん!」と返事をした。

「えーっ! ズルい贔屓だ!」

当然の様にアロイスは抗議をしてきたが、カイがジロリ睨み「アロイス、さっき言ったことは覚えているな」と冷たく言われると、うっ、とした表情になり渋々「わかってるよ」と返事をする。

「ならいい」

カイは席を立つとキッチンの方へと向かい出した。

「あ、私、手伝う!」

私は慌ててカイの後を追いかけた。

「なんだ、席で待ってていいんだぞ? お前は客なんだから」

「ううん、美味しいご飯を食べさせてもらったんだから、これぐらい手伝うよ」

(なーんて。本当はアロイスに取られない様に、先手を打つためについてきたんだけど)

「セリ……。いい子だな、お前は」

そんな邪な考えを知らないカイはちょっと感動したのか、褒めてくれた。

「あ、うん。当たり前だよ、こんなこと」

本当なら素直にありがとうと言いたいところだけど、邪な思いがあるから心苦しい。視線も思わずそらしたくなる。

「じゃあセリ、そこの皿を取ってくれ」

カイはそんなことは気づかず、嬉しそうに指示をする。

「うん!」

(ゴメン、カイ)

私は心の中で謝ると、今度こそはアロイスに取られない様にするぞと、気合い入れて手伝いを始めた。

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