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四章 波乱の前触れ(カール・二)

「それでは、報告を聞こう」

俺は自席へと座り、ヨハンの報告を待つ。

「はっ。カール様からの御命令ですが、……失敗、しました」

ヨハンは屈辱で顔を歪めながら吐き出す様に言った。

「どういう理由だ」

「解散後、御命令通りセリ様を迎えに行きましたが、セリ様は少年と広場を走って出て行きました。急いで後を追い、連れ戻そうとしたのですが……」

ヨハンは言い淀んだが、覚悟したような表情で続きを話し出した。

「不覚をとりました」

「つまり取り逃がしたということだな」

「申し訳ございません」

「騎士たるお前が油断したとはいえ、子供二人を取り逃がすとはどういうことだ」

「今の私には返す言葉もございません。ただ、セリ様ですが、カール様の言われた通り、普通の少女ではないようでした。あの身のこなしは何かしらの体術を学んでいるようです」

(やっぱりそうか)

ヨハンもそう感じたのなら、確実だ。

「少年の方もただ者ではありません。セリ様同様、体術の心得がある感じです」

「そうか。他に気づいたことは」

「はっ。セリ様は連れ去られたというよりは同意の上、行動されているようでした。城の者は信用できないと言っていましたので」

「セリがそう言ったのか? 言わされたのではなく」

「はい。少なくとも私にはそうみえました」

「そうか。ヨハン、お前はセリの捜索にあたれ。何としても私の所に連れて来い」

「はっ!」

ヨハンは一礼し、執務室を出て行った。


「はぁ……。全く、やってくれるなぁ、セリ」

俺は椅子に深く凭れかかって上を見上げた。

本来ならヨハンを供にある神殿に行き、そこにあるリントヴルムの鱗を持ち帰る、という筋書きを用意していたんだが。

ま、本物のリントヴルムの鱗じゃないけどな。

あんな伝説級のドラゴンの鱗なんてあるわけがない。あっても三日で見つけろなんて 無理難題もいいとこだ。

要はリーンが本物と認めればいいだけだ。

ゾンネの方には手を回してあるから問題ない。

(あ、やべ。あの女のこと思い出したらイラついて来た)

俺はすぐにセリのことに気持ちを切りかえ、不愉快度を最小限で抑えた。

それに、セリを連れ去ったという少年のことも気になる。一体何処の手の者で、何のためにセリを連れ去ったのか。しかもセリ自身の意思でついて行ったらしいとも聞くと、良くない傾向だ。

とにかく今セリに勝手をされては困る。

ここでセリが不合格になってはリーンが解放される確率がゼロに近くなるし、皇帝側の動きも読めなくなる。

それだけは絶対に赦さない。

(発作まで起こさせて不合格でした、何てこと、絶対に赦さないからな、セリ)

リーンを解放出来る可能性があるからこそ、発作も赦したんだ。

本当はどれだけ舞台に乗り込んでリーンとセリの会話を止めに行きたかったことか。

それなのに、それを無にしてただリーンを苦しめただけなんていうのは絶対に赦さない。

誰であろうとその報いは受けてもらう。

「さて、セリには少し痛くて怖い目にあってもらおうかな」

俺の筋書きを無視したんだ。

言うことを聞かない子供に躾をすることは年長者として、当然の義務だよな。

俺は椅子から立ち上がり、次の手を打つべく執務室を後にした。

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