四章 波乱の前触れ・三
会場は人が入り乱れていた。
と言っても、私がいた場所は関係者しか出入り出来ないので、いる人間は係りの人や候補者達のお付きの人ばかり。
(あれ、アロイスってどうやって入って来たんだろう?)
私のいる場所は関係者しか入れない場所。一般人は入れない。
それに警備とかも厳しかったはず。その中をどうやってかいくぐって来たんだろう?
(あ、でも、開始した後はバタバタしてたからなぁ)
そう。開始の宣言を聞くや否や、候補者達は一斉に天幕に戻ったり出て行ったりと忙しなかった。
それをポカンとして眺めていた時、私はアロイスに声をかけられたのだ。
今は会場を出て、街中をアロイスに手を引かれて走っている。
チラッと後を向くが、人影は見えない。
でも、アロイス言う通り誰かが追って来ている気配は感じる。しかも二組。
追手? を撒こうといくつも路地を曲がってみるが、どちらの気配もしぶとく追いかけて来る。
「ねぇ、セリ」
走りながらアロイスが話しかけてきた。
「何?」
「追いかけて来てる奴らに心当たりない?」
「あるような、ないような……」
「何、それ」
「いや、だって……」
よくわからない。
それしか言えない。
まあでも候補者達から妬みは受けてるし、嫌がらせを受ける程度には嫌われている。皇子に至っては相当不興を買っている。
だから心当たりがあるといえばある訳で。
「ま、いーや。セリ、止まるよ」
言うや、アロイスは止まって後ろを振り向く。
やっぱり姿は見えないけど、気配はある。
「撒くの無理みたいだから、相手してくるよ」
「え、相手ってどっちの?」
「え?」
アロイスは驚いた様子で私見る。
「何、セリ、どういう意味?」
次の瞬間、アロイスの表情からさっきまでの明るい雰囲気が消え、真顔で探る様な視線で問い詰めてきた。
「何って、追手? は二組でしょ。だからどっちの相手をするのかなと思って」
(え、何かマズイこと言ったかな、私……)
内心ドキドキしながらアロイスを見ていたが、アロイスも私をじっと見つめたまま何も言わない。
「まっ、いーや。今はお客の相手だね。セリはここで待ってて!」
アロイスはまた初めてあったときの明るい笑顔で言うと、サッと元来た道を走って行った。
(やっぱりあの子、ただの女の子じゃないな)
俺はお客の所に向かう中、今のやり取りを思い出していた。
だって普通の女の子が追手の気配を、しかも冷静に何組なんて言えない。
そもそも気配を察知できる方がおかしい。
それに会場から結構走って来たけど、特に疲れた様子もなかった。息もさほど乱れてなかったし。
これって、それなりの訓練をしているってことだよな、やっぱ。
走りだけなら、単に体力があるってことでも納得できる。
でも、それなりに気配を隠している相手の気配がわかるっていうのは……。
ああ、まあ、でも、ものすごくカンがいいってことでも納得できなくもない、か。
初めてセリに声をかけた時。ものすごい勢いでこっちを振り返ったもんなぁ。
だけど、セリがただ者ではないという確証を俺は得てしまった。
(セリのあの手……)
あの感触は、間違いない。
ま、確認する時間はまだあるし、それよりも今は。
「お客の相手をしなきゃね。出て来なよ! わざわざ戻ってやったんだからさぁ」
俺は誰もいない薄暗い路地に向かって話しかけた。
すると、何もなかった路地からゆらりと三つの影が現れた。
「ふふっ。俺達の邪魔をした罪は重いよ」
俺は嬉しさでワクワクしながら、影が揺らめく路地へと足を踏み入れた。




