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四章 波乱の前触れ・二

重たい空気の中、私達は司会者の用意したクジを引いた。

順番は、クロード王女、マルヴィナ王女、私、ミリヤム姫、ニーナの順だ。

前回のダンスの得点が良かった順番だそうだ。

意外なことに私が三番手。当然、ミリヤム姫やニーナはおもしろくもないし悔しくてたまらないだろう。

ニーナなんかは敵意むき出しなのでよく分かる。

ミリヤム姫は人前だからそんな感情は見せないが、内心は異国の庶民に負けた屈辱でいっぱいに違いない。

引いたクジを司会者に渡し、司会者がそれを読み上げる。

観客は聞き逃すまいと、静かに司会者の声に耳を傾けている。

「クロード王女殿下のお品は『大聖堂の聖杯』です!」

クロード王女はさっきと同じ様に、静かにその言葉を聞いていた。何のリアクションもない。

「続いてマルヴィナ王女殿下のお品は『薔薇の涙』です!」

マルヴィナ王女は、少し困った様な表情で小さく溜息をついていた。

「次、セリ嬢のお品は『リントヴルムの一部』です!」

私はといえば、んー? としか言えない。だって、リントヴルムが何かすらわからないんだから。ただ、優越感と憐れみの視線を候補者達から感じたので、相当なレア物なんだなということは察した。

「次、ミリヤム姫のお品は『水の花』です!」

ミリヤム姫は、ホッとした様な感じだ。てことは、どうにかなりそうな物ってことなのかな。

「次、ニーナ嬢のお品は『黒のドレス』です」

ニーナの表情は絶望に打ちひしがれた様な感じだ。物凄く暗い。

「では、これでリーンハルト皇子殿下への献上品が決まりました。時間もない事ですので、早速ですが試合開始といたします。では皆様、三日後の午後三時にまたこの広場へお戻り下さい! もし棄権する場合も、この場所にてその旨皇子殿下や観客の皆にお伝え下さい。ここでの声明なしに棄権は認められません! また代理人の声明も認められません。必ずご本人がお伝え下さい。これを守れなかった場合、それ相応の処罰を与えるとの、皇子殿下からのお言葉です!」

この言葉には、候補者達も観客達も騒ついた。

そりゃそうだ。処罰という言葉を聞いて不安にならない人はいないだろう。しかも、あの皇子殿下直々のお達しなら。

その騒つきに応えるかのように皇子が立ち上がった。

「静まれ!」

皇子のよく通るその声が聞こえると、皆ピタリと口を閉じた。

「処罰についてだが、これは人によって異なる。身分、財産、そういった物が個人個人異なる。故に、処罰の内容は私が決める。処罰を受けたくなければ、三日後の午後三時にこの場にいれば良いだけの話だ。難しいことは何もない。では、候補者達の健闘を祈る」

言い終わると皇子は壇上から下り、城の方へとさっさと去って行った。

去り際に鋭く私を睨みつけてね。

(ムカつく……!)

「候補者達よ、私もそなた達の無事を祈ろう」

皇帝もそう言うと、皇子の後を追って城へと帰って行った。完全に置いてけぼりを食ったようだ。

(何かかわいそう……)

追いかけるように去って行った皇帝の背中を見たら、思わず同情してしまった。

「で、では、試合開始です!」

司会者が、あわてて開始の宣言をした。

その声で、候補者達や観客達がハッと我に返って動き出した。

係りの人が、私達に軍資金を渡しに来た。

「重っ!」

両手で何とか持ち切れる大きさと重さの革袋で、中には金貨がずっしりと入っていた。

とりあえず金貨をリュックに入れて広場を出ようとした時、何だかゾワッとしたので、私はばっと身体ごと後を向いた。

振り向いた先には、深くフードを被った子が立っていた。

顔はフードで隠れているのでよくわからないけど、多分男の子だと思う。

「へぇ……。偶然か、それとも気づいたのか」

フードの子は何かボソリと呟いていたみたいだけど、よく聞こえなかった。

私は警戒しつつも、自然体を装ってその子から離れようとした。

それに気づいた子が、てててっと近づいて来た。

パサリとフードを取ると、私は固まった。

だってだって、目の前に天使がっ……!

こんなに可愛い子、初めてみたよっ……!

天使の可愛いさにポワッとなってる私を、天使は面白かったのかクスッと可愛いらしく笑った。

そしてとんでもないことを言った。

「ね、セリ。俺を連れていかない? 役に立つよ?」

天使、もとい少年は人懐こそうな笑顔で私に話しかけた。

「は? 何言ってるの?」

私はハッと意識を戻すと驚いた。いきなりなんなの、この子。連れて行けとは自分を同行者にしろということ? そんなことできるわけがない!

「連れてけって、同行者のこと? だとしたら一人で十分よ」

それに、これで晴れて脱落できるのだ。いくら可愛い天使でも邪魔はしないで欲しい。

あとは適当に期限までヒマを潰していればいい、ていうか家に帰る。

「えー。そんなこと言わないでよ。絶対役に立つって、俺。あ、もちろんお金何ていらないからさ」

だが少年も食い下がる。連れてけ連れてけと、とにかくしつこい。

この様子だと絶対に勝手について来ること間違いなし。

それじゃあサボれないので非常に困る。

(ん、まてよ?)

それによく考えれば、家に帰ってもサンジェルマンが連れ戻しに来る気がする、というより絶対に来る。

あの男、どこかで私の行動を見ているようで、どうやっても逃げられなかった過去を思い出す。

それに同行者をつけるとサンジェルマンは言ってた。その同行者は皇帝か皇子かどっちかの関係者のはず。

私にすれば、その同行者だって見ず知らずの他人。なら、同じ見ず知らずのこの子と過ごしたって同じか。

ヤバいと感じたら、速攻逃げればいい。ドアさえあればいいんだから。まさか外にほっとかれることはないだろうし。……多分。

それに、えーと、毒を食らわば皿までとも言うし! ……あれ、違ったけ? ま、いいや。

もし毒だったら、解毒するか薬に変えよう。できたら、の話しだけど……。

「わかった。同行者にする」

「やった! ダンケ、セリ!」

「う、うん……」

OKを出すと、少年は満面の笑顔で喜んだ。

天使の笑顔の破壊力はもうほんと心臓に悪い。可愛いは正義とかの意味が、今よくわかったと思う……。

少年はあ、と言って「俺、アロイス。よろしくね、セリ」少年――、アロイスは無邪気な笑顔で私の隣に並んだ。

「よろしく、アロイス」

私は気をとりなおして、あきらめと嬉しさの混じった微妙な笑みを浮かべた。

「あとさ、セリ」

アロイスが声を潜めて話しかける。

「何?」

「こっちを窺ってる奴がいる。このまま外に出るから俺について来て」

「え!?」

言い終わる前に、アロイスは私の右手を握ると人混みを縫うように歩き出した。

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