四章 次の始まり
第三試合当日。
市立図書館の前で待ち合わせ、迎えに来たサンジェルマンに引き摺られて、またこの異世界へとやって来た。
本当なら今日から楽しく過ごす四連休になるはずだったのに、初日から重すぎるイベントに強制参加だなんてあんまりにも酷すぎる。
だけど参加しなきゃ、絶対確実に家までサンジェルマンが迎えに来て拉致されるのは目に見えてる。
もちろん家の場所なんて教えていないど、あいつだったら当たり前の様にやって来るのが想像つく。
そんなことをされるぐらいなら自ら行った方がマシだし、見返りのライヴのチケットも貰っているので我慢するしかない。
そして、今いる所は城下町の広場だ。
そこには候補者達用の控室として、天幕がいくつも設置されていた。
王族用の天幕や舞台等も設置されていて、広いはずの広場も今はかなり狭くなっている。
おまけにそのまわりは、まだかまだかと始まるのを待っている観客で囲まれているので圧迫感もハンパない。
そして例のごとく、私が一番最後の登場だけど、他の出場者達は天幕の中にいるらしく、外にはいない。
ま、その方が私的にはありがたいけどね。
とは言え、外も居心地がいいわけじゃない。好奇の視線に晒されっぱなしだ。
それでも直接絡まれないだけ外の方がマシというもの。
私は舞台の端に腰かけ、今回の試合について考えていた。
会場に来る道すがら、今回の試合についてサンジェルマンから話しを聞かされながら来た。
「いいですか、芹さん。今回の試合はかなりハードです。なので、今回の試合に関しては協力者を一名同行させることができます。もちろんこちらで手配したので、その方と一緒に臨んで下さい」
「は? 何それ! てか、何でサンジェルマンがそんなこと知ってるのよ!? 試合内容は当日会場で初めてわかるんじゃないの!?」
するとサンジェルマンはいきなりブフッと吹き出した。
「やっだなー、芹さん。そんな事あるわけないじゃないですか! 試合内容なんて事前に知らされてますよ! あの司会者の言葉、本気で信じてたんですか〜」
「なっ……!」
私は顔が一瞬にして赤くなった。恥ずかしいのと馬鹿にされて、だ。
「と言っても、詳細までは流石にわからないんですけどね。こちらも事前準備がありますから、必要最低限の情報はまわって来るんですよ」
それが大人の世界ってやつか。嫌な世界だ。
私は釈然としない気持ちでサンジェルマンの話しを聞いていた。
「そんな訳で、今後は何処のドアからでもこちらの世界と行き来できるよう、指輪にかけた制限を外しました」
「え!?」
いつの間にそんな事をしたんだ。私はサンジェルマンに掴まれた右手を見た。右手の人差し指にはめた指輪は、押し付けられた時と何ら変わってはいなようだけど。
「だけど注意して下さい。その分、しっかり強くここに来たいと念じないと何処のドアに出るかわかりませんからね。いいですね、芹さん!」
「ええっ!?」
何よ、その無責任な仕様は!
私が抗議するとサンジェルマンも言い返す。
「仕方ないんですよ! 僕だってそんな事はしたくないんですけど、今回は仕方ないんです! 僕は同行できないんですから!」
と、半ば逆ギレ状態になりながら、これまたいつも通り喧嘩しながら会場に辿り着いたわけだ。
「あ、そう言えば、同行者ってどんな人なんだろう」
サンジェルマンが手配したのなら、多分、皇帝の息のかかった人だろう。
ただ、ダンスの時のこともあるから、もしかしたら皇子側の人かも知れない。
当然、皇子側の人だったら一緒になんか行かない。何を報告されるのかたまったもんじゃない。
だけど、全く未知のこの国で移動するなら誰でもいいからいた方が何かと助かるのも事実だ。
(でもまあ、試合に勝つつもりもないんだし、どーでもいっか)
大体ここまで勝ち抜くつもりも無かったんだし。
そう考えたらどっち側の人がつこうが、どうでもいいやという気分になったので、私は開会までここでボーっと待ちを決め込むことにした。
暖かい陽射しの下、どれぐらいの間ボーっとしてたかはわからないど、天幕の辺りがざわざわとし始め、中から候補者達が出て来た。
私はその場から動かず、ボーっとしながらこちらに来る候補者達を見ていたら、その視線にニーナが気付いたらしく、ツカツカと私目がげてやって来た。
「いつからそこに居たのか知らないけど、挨拶に来ないなんて礼儀知らずもいいところよね。それになあに、その格好、育ちが知れるわ!」
ニーナは開口一番そう言って蔑んで来たが、私は「そーね」とこれもいつも通り棒読みで流そうとしたが格好という言葉でちょっと意識を戻してちゃんとニーナを見た。
この前のダンスの時よりは動きやすそうな格好をしているが、やっぱり随所にレースやらフリルやら施されたよそゆきのドレスという感じだ。
黙っていればそれなりに何処かのお嬢様に見えないこともない。
その後に他三名の候補者がいたが、皆、程度の豪華さは違えどニーナと同じ様な感じで、レースやフリルたっぷりのドレスだった。
私はといえば、ジーパンに半袖のTシャツ、パーカーにスニーカー、後は荷物を入れたリュックを背負っている。
次は外が会場らしいということで、動きやすさ重視の格好だ。サンジェルマンも今回は何も言って来なかったから、これでもいいってことだろう。
この世界の人達からすれば確かに私の服装は浮くのはしょうがない。
私は立ち上がってニーナをじっと見た。
「なっ、何よ」
ニーナは私の視線にちょっと怯んだ様で、少し逃げ腰になった。
「んー、別に。ただその洋服、似合ってないなぁと思って」
さっきニーナにされた様に、嫌味を込めてクスッとわざとらしく嗤ってやる。
全く似合ってないわけじゃないけど、地の性格というのが滲み出るのか、どことなくドレス方が浮いて見えるのは確かだし。嘘は言っていない。
「なっ……!」
ニーナは一瞬にしてカッと顔が赤くなった。公衆の、しかも他の候補者がいる前で貶されたのがよっぽど恥ずかしくて悔しかったのか、ギッと私を睨むと喧嘩腰でかかって来た。
「ちょっと! いくら自分の格好がみすぼらしいからって、私に突っかかってくるのは止めてくれる!? 何よ、皆様に挨拶も出来ない様な礼儀知らずをちょっと気にかけてあげて、親切にしてあげれば仇で返されるなんてね! ほんと、最低だわ!」
しかも大声でヒステリックに言うものだから、側で作業をしていた人や観客が何事かとこちらに視線を集めて来る。
(あーもー、めんっどくさいなー!)
私は心の中で呆れ返りながら、この場をどうしようかと考えた。
試合前に騒ぎを起こすのもあんまり良くないだろうし。
もちろん私個人としては、こんな騒ぎになろうが一向に構わないしどーでもいいんだけど、他の候補者にとっては迷惑だろうから、一応どうにかしようと考えるだけで。
(でも、今何を言っても無駄だろうなー)
多分、いや確実に火に油を注ぐだけ。
(もうちょっと様子を見るか)
私は冷めた目でニーナを見ながら、ニーナの気がすむまで待つことに決めたが、何と私達の間にマルヴィナ王女が割って入って来たのだ。
「貴方方、一体何を騒いでいるのかしら」
私は驚いた顔でマルヴィナ王女を見た。
マルヴィナ王女が来たのでは流石に相手をしない訳にはいかないし、この人には嫌なこととかはされていないので、あんまり失礼な態度はとれない。
「こんにちは、マルヴィナ王女殿下。煩くしてすみません。ちょっとニーナと服装について話していたんです」
「服装?」
マルヴィナ王女はちょっと小首を傾げた。
「ちょっ、ちょっと!」
小声だが、ニーナが慌てふためいて私を牽制してきた。
もちろんそんなのは当然無視。
「はい。ニーナが私の服装が変だと言うんです」
「まあ」
マルヴィナ王女はニーナに視線を移した。
「!!」
ニーナは面白い程オロオロとして、何か上手い言い訳をしようとしているけど焦りと緊張で言葉が出ない。
そんなニーナを尻目に私はちょっと被害者ぶった顔をしてマルヴィナ王女に話しかける。
「確かに私の服装は皆さんと違います。それはわかっています。でも、私の国ではこれが普通なんです。それを大声で変だ! などと言われて……」
「まあ……、そうだったの」
マルヴィナ王女は私の傷ついたような様子を見て同情してくれたのか、ニーナの正面、私の隣に来るとニーナに声をかけた。
「ニーナ、確かにセリの服装は変わっているけれど、それを大声で批判するのはいいことではないわね」
「は、はい……」
ニーナは蛇に睨まれた蛙のようにガチガチに固まって動けない。
震えながら小声で返事をするのでいっぱいいっぱいのようだ。
続いてマルヴィナ王女は私にも話しかけてきた。
「彼女もわかってくれたようだし、セリも許してあげて」
「はい」
私はニッコリ笑って返事をした。
(あー、いい気味!)
もちろん、心の中ではざまあみろだ。
権力者に弱い庶民には、高貴な人からの言葉が一番効く。
特に王族からの一言なんて、天からのお告げぐらいに感じるはずだ。
私も基本権力者には逆らわないけど、この国にいる間は相手が誰であろうと関係ない。だってこの世界の人間じゃないし。
そんなこんなで、私の気分がスッとしたとき、会場の準備も全て終わったらしく、係りの人が私達に舞台にあがるよう声をかけて来た。




