三章 コンテスト・三
まずは第一試合の説明から始まった。
出題者は十人。
問題は一人二問で二問とも正解すれば合格。
回答者はくじで回答の順番を決め、出題者もくじで出題の順番を決める。
回答者側はミリヤム姫、マルヴィナ王女、ニーナ、クロード王女、私の順番になった。
どう見ても小手調べの試合。ここで確実に振るい落とす気はなさそうだ。
とはいえ、私にすればここで落ちることも十分にありえる訳で。
あんなに幅広い層から出題されたら、私には不利としか言いようがない。
出題者側の方も順番が決まったらしく、出題者の一人が私達の前に進み出た。
「さぁ、皆様! お待たせいたしました! これから第一試合を始めまーす!」
司会者が私達と観客に向かってそう告げると、闘技場の観客達は待ってましたという大歓声に包まれた。
出場者の方も、ニーナ以外はあからさまに緊張しているという様な表情はしていないが、皆どこかピリッとした様な空気を纏い、花嫁の座を賭けた勝負が今始まったことを私は実感した。
一問目の問題は皆、正解だった。
確かに色々な分野の問題が出されていた。
専門的なものからおばあちゃんの知恵的と思われる様な問題まで。
おばあちゃんの知恵的な問題を答えたのはクロード王女だったけど、よく王族の姫君が知ってたなぁと思わず感心してしまった。
ちなみに私の出題者は子供だった。
中流階級の子供という感じで、見た所、六、七歳ぐらいの男の子でとても可愛いかった。
(でもほんっとに可愛かったよなぁ、あの子)
と、次の問題まで心の中でその子の可愛さを思い出し、顔はにやけないように気をつけながら待っていた。
そして二問目。
これも全員正解。
最後の問題で、最後の回答者である私の前に出題者の男性が、緊張からなのか随分とヨタヨタとした足どりでやって来た。
「それでは最後の問題、お願いします!」
司会者がそう促すと、出題者の男性がストンとその場に座り込んだ。
「え!? ちょっ、大丈夫ですか!?」
私は目の前で座り込んだ出題者の人の側に慌ててしゃがみこんだ。
出題者の人はか細い声で「大丈夫です……」と返事はしたけど、顔面蒼白でとても大丈夫そうには見えない。
司会者の人もこれはマズイと思ったみたいで、係の人を呼んでその人を退場口へと連れて行かせた。
観客や候補者も突然のアクシデントでざわつく中、私は立ち上がりとりあえず椅子に座った。
司会者も運営の人と話しているし、私は待つしかない。
(別の人が出題するのかなぁ?)
そんなことを考えながら待っているとまたニーナがちょっかいを出してきた。
「あら、座って待てるなんて随分と余裕があるのね。それにしても、幸先のいいスタートでよかったじゃない」
嫌味な口調で、私を見下しながら言ってきた。
いちいちかえすのも面倒くさいが反応してあげないとさらにウザくなるので「そーねー」と返した。もちろん棒読み。
これ以上の相手はしたくないのでニーナから少し離れようと立ち上がろうとしたとき、司会者のアナウンスが聞こえた。
「皆様、大変お待たせしました! えー、最後の出題者の方が急な体調不良により、別の方から出題していただくことになりました! 最後の出題者の方は、何とこの方です!」
そう言って、司会者が入場口へ腕を向けると会場中がどよめいた。
見ると候補者も驚きの表情で、ニーナは「あ……」と口を開けたまま固まっていた。
(……何か、ものすごく嫌な予感がする……)
予感が当たらないことを祈りながら入場口の方を振り向くと、出題者は凛とした気品を放ちながらこちらに向かって来ていた。
「リーンハルト皇子殿下です!」
(ああ……、最悪だ……)
私は湧き上がる最悪な気分と、これからさらに起こるであろう精神的苦痛を思うと、その場にガックリと勢いよくくずおれてしまいたかった。




